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最終話

観覧車を降りて、歩き出した。

オレの足取りは重い。


時刻は夕方。

暗くなりかけている。


園内にはさまざまなライトが付き始めた。


「帰ろうか……」

「え? まだ、隠れギャラくん見つけてないよ!?」



隠れギャラくん──。


ギャラくんは、このギャラクシーハイランドのマスコットだ。

それが、園内のさまざまな場所に紛れているらしい。


刻印だったり、彫刻だったり。


それを見つけると恋愛が成就するとか、そんなヤツなんだ。



「ねぇ、高いところから見てみない? 花壇の花とか怪しいと思うんだ!」


と、奈都はオレの手を引いた。



たしかに花壇というか植木をギャラくんの形に切り抜いてるかもしれない。

花がギャラくんの形に植えられているのかも。


この奈都と一緒にいれる時間をもう少し楽しもうと思って、彼女に手を引かれるまま高台に登って行った。



「わーーー! すごい!」


そこからはオレたちの街が一望できた。

とても素晴らしい景色。


観覧車もすごかったけど、園内のライトアップもよかった。

しばらく二人でそれを眺めていた。


「ロマンチックだね~」

「そうだな……」


ああ……。


ここを来週二人で来るんだろ?

なんてキスに絶好にシチュエーションなんだ。


奈都の唇が、柊斗に奪われてしまう。


この小さい頃から眺めていた。

憧れていた。

オレの天使が──。


急に出てきた男に連れて行かれてしまった。


なんて……。なんてみじめなんだ…。



高台の柵に手をかけて、大きく脱力して下を向いた。

自分の目からポロポロと涙がこぼれて行くのを、奈都に見られたくなかった。


「サ、サイコー!」


と、声を震わせながら振り絞って楽しんでいる体を装った。



……ふと。


涙の落ちる行く末のタイルに色がついていた。


少しここだけくぼんでいる形なんだ。



ギャラくんだった。

一枚のタイルにギャラくんの絵が書いてある。


隠れギャラくんだ。



隠れギャラくんは恋愛を成就させる。


急に柊斗のことがどうでもよくなった。

奈都の解答が「彼氏いるんで」でもどうでもよくなった。


ウジウジと心にしまい込んでいる方がカッコ悪いと思った。



奈都は、夕焼けに染まった雲を指差した。


「ねぇ、ねぇ! あの雲、ギャラくんみたい!」


そんな言葉を無視し、オレは立ち上がって奈都の肩を両手でグッと掴んだ。


奈都の驚いた顔。



「奈都! 好きだ!」



言ってしまったらもう今までの思いがどんどん溢れてきた。


「好きだ! 好きなんだ!! ずっと昔から奈都だけ見てたんだ! それなのに、なんでオレじゃないんだよ!」


奈都は完全に止まっていた。


だが、オレの暴走は止まらなかった。


「目を閉じるなよ? オマエは目を閉じるとすぐに寝ちまうから……ッ!」



そう言って、奈都の唇に強引に自分の唇を重ねた。


もうどうでもよくなった。


じっくりと彼女の唇を吸い続けたが、後半は冷静になり


「ああ、こりゃ強姦と一緒だなぁ……」


と思いながら名残惜しく唇を離した。



奈都は、そのままそこにへたり込んでしまった。

そして、何も話さない。


唇を抑えて、「ウッ」と言っている声が聞こえた。



「奈都。……奈都ごめん。オレ、どうしても我慢ができなくて」



と言い終わらないウチに、奈都は手を上に上げたまま後ろに倒れ込んだ。

地面に長い棒になったように。


そして、ゴロゴロとゆっくり右と左に交互に回り始めた。



「奈都……。ご、ごめん。ごめんな。ショックだよな……」



奈都は──。

泣いていた。


声を上げて。



「うえーーん! うえーーん! うえーーん!!」



逃げ出したかった。

全てを裏切った。


奈都も。


柊斗も。


奈都のご両親も。



最悪なヤツだ。


最後の最後に冷静さをかいた。


オレはバカだった。





「うれしーよぉ! うれしーよぉ!」



──え?



「うれしぃーーよぉ! 暁彦があたしを好きだって言ってくれたよぉ! ギャラくんが願いを叶えてくれたよぉ!」



……は??



「お、おい。奈都」

「うぇーーん! うぇーーん!」


「お、おい……。ちょっと起きようか??」


ゴロゴロと転がる奈都を起こし、近くのベンチに座らせた。



「あの……。え? どういうこと?」


最初はグスグスと言って話にならなかったが、奈都も徐々に落ち着いて来た。

そして、満足気に笑って


「暁彦があたしのこと好きって言ってくれた!」

「いや、言ったけど」


「あたしも好き! ねぇ。これであたしたち恋人同士だね! きゃん!」



いやいやいや。


「だって、お前彼氏できたろう?」

「うんできた!」


「じゃ、ダメだろ。恋人になれないだろ」

「どうして?」



どうしてって?



「オマエ、彼氏をなんだと思ってるの?」

「お菓子をくれる人!」



え?



「お菓子を……」

「うん。くれる人。いつもくれるもん」


「つまり。オマエは、柊斗をお菓子をくれる人だと思ってたってことか?」

「そうだよ。だって、友だちも彼氏にお菓子買ってもらった話ししてたもん」



なるほどね。

つまり、奈都は「彼氏」は「かれし」。

「かし」をくれる的な人にしか思ってなかったわけだ。

なんでまん中に「れ」が入ってるんだろう? って逆に思ってた訳だ。


周りの環境も、なかなか彼氏というのは恋人のことだと気付かない環境で~。

さらに生来のアホも手伝って、勝手に彼氏はそういうもんだと思っていたわけだ。


納得!


さすがラブ・コメディ!

こんな設定でも許される!


バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!


って、それで世間や読者が納得しますか!?



「奈都。彼氏って恋人って意味なんだぞ? 柊斗もそう思ってるし……」

「え? そーなの?」


「そうだよ……」

「そうなんだ。でも、二人ならなんとかなるよ!」



二人──。


……つまり。


……キミと。


…………ボク。



ぉおい! オレもメンバーに入っちゃってるよ!

レギュラーに選抜されちゃったよ!



「だから、二人で謝ればいいと思うよ。もうすぐ、部活も終わってラインも来るだろうから」



ちょ。ラインかよ。

それはそれで先方に無礼でしょ。



「しょうがない。今から柊斗に会いにいくぞ」

「え? うん。分った!」



奈都が柊斗にラインを打ち、待ち合わせ場所は学校の近くの小さい公園に決めた。


オレたちが公園に着くころにはすでに柊斗は待っていて、サッカーボールをリフティングしていた。


「あ、あれ? 暁彦も一緒?」

「う、うん……」


「や! 柊斗くん!」

「よ! 奈都!」


柊斗は、自分の足元にサッカーボールを置いた。


「で? 何? どうした?」


すかさず、オレは彼の前に土下座をした。

余りの急な土下座に柊斗は驚いていたが、オレは大声で謝った。


「スイマセン! 奈都と別れてください! オレたち愛し合ってるんです!」

「え? え?」


柊斗は当たり前のように動揺した。



……ぅおい! もう一人の声が聞こえねーぞ!

テメーなにやってんだぁっ!?



「どういうこと? 奈都はオレを彼氏にしてくれたんじゃないの?」

「それなんですが……」


オレは、訳を話した…。

おおよそ信じがたいであろう内容。

にわかには信じられぬという顔。


柊斗は奈都に質問した。


「奈都。ホントなのか?」

「うん、ホント。いつもお菓子ありがとね」



お、お礼? なにそれ。



「タハ!」


柊斗はそんな風に笑った。

もはや笑うしかないという感じなんだろう。


「……まぁ。しょうがねぇよな。ホントは好きな人がいるのに、勘違いして付き合うことになっちまったんだから」


そう言って彼はサッカーボールを手に取った。


「ま、暁彦よりも将来イイ男になって見返すしかないっしょ。それじゃ」


彼はオレたちに背中を向けて手を振って去って行った。


なんてカッコイイ。

イケメン過ぎるだろ。柊斗。



「あのセリフ。柊斗くんは悪役だったのね」



どこでそう感じましたか?



「ホントにお前のアホさでオレと柊斗を振り回したんだから少しは反省しろよ」

「したよ」



してねーよ!



「でも、二人は恋人同士だもんね? ね? ね~」



そうか。

その余韻をひたるのを忘れてたわ。


柊斗に土下座した今の今じゃあ、テンションも低いけど、上げていくか。



「じゃ、帰るか!」

「うん。ねぇ、明日の休みはどこに行く?」


「……今日、お金使いすぎちゃったから質素に」

「じゃ、DVD見ようよ!」


「そーだな」

「ねぇ、チューは? チューはする?」


「……少しは」

「少しだけ?」


「……まぁ雰囲気で。その辺は……」


こうして、激動の数日だったけど、オレと奈都は恋人同士になれた。


コイツ、アホ過ぎて騙されて変なことされたり、詐欺にあったりしないように、常に監視の目を光らせてなきゃいけない。

と、黄色く光る夏の大きな満月に誓った。



【おしまい】

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― 新着の感想 ―
[一言] これ今後結婚して 不倫持ちかけられたら 同じことになりそうだね。 もしくは他の男性にプロポーズされて そっちと結婚してるとか。 どんどんスケールが大きくなって取り返しがつかなくなって 周り全…
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