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第三話

ちょうどいいところがあった。

体育館の裏だ。

部活の連中がやってるんだろう。掃除が行き届いて座っても汚れないし、なにより涼しい。


ここなら誰もいないし、考え事するのにも静かでいい。

壁に寄りかかりながら考えた。



奈都のこと──。


なんで彼氏がいるのにオレのほうに来るんだよ。


オレに気がある?

って、そしたら彼氏を作らねーだろう?


やめてくれよ。

オレの気持ちを弄ぶのは。


そりゃ昔からのお隣りさん。

幼馴染みは大事なんだろうけど、彼氏作ったのはオマエなんだぞ?


これじゃ蛇の生殺しだよ。

勘弁してくれよ。



そう思いながら、その日の休み時間はずっとここに来ていた。


最後の休み時間。

ひざを抱えて顔を埋めていた。すると隣りに人が座った感覚があったので顔を上げると、そこには柊斗が座っていた。


「ここにいたのか。探したぞ」

「さ、探した? な、なんで?」


「なんかどうも奈都は、オマエがかくれんぼを始めたと思い込んでいるんだ。それでずっと一緒に探してくれって言われてな」

「ブッ!」


笑ってしまった。

奈都らしい。ネガティブなことなんて一切ないんだ。


「学食のゴミ箱とか、体育館のバレーボール入れとか探してたぞ。あんなに天然さんなんだなぁ」


と、はにかんで笑った。


「なぁ。オマエって奈都のなんなの?」


「なんなのって。──友だち だよ……」



そんなこと言いたくはなかった。

とくにコイツの前では。

本当は、オレがオマエのポジションにいるはずだったのに。



「そっか。幼馴染みってやつだな」

「……そうだね」


「なぁ。いろいろ教えてくれないか? 奈都のこと」

「う、うん」



柊斗は、高校に入学した時に奈都に一目惚れしてしまったらしい。

いつもオレが隣りにいるのを知ってはいたけど、玉砕覚悟で告白したらすんなりとOKをもらえて嬉しかったと言った。


うらやましい。

嫉妬の塊がカラダの中に音を立てて積み重なって行く感覚だ。



「よかったじゃん」



素直じゃないけど彼の健闘を称えた。

ホントはこんなこと言いたいわけがなかったが、柊斗はイケメンらしくニッコリと笑った。



「なぁ。デートとかってどこがいいかな?」


オイオイ。奈都が二人いるみてーだな。


「まぁ。遊園地とか行きたがってたかな?」

「へー。ギャラクシーハイランドだな。いいなぁ~」


ギャラクシーハイランドはこの辺では一番大きな遊園地だ。

奈都は行きたがっていた。


「甘いもん好きだから、ソフトクリームとかジャムだらけのパンケーキを与えとけばいいだろ」

「そんな、与えとけってェ」


と、オレの胸をポンと軽く突っ込んだ。


「ありがとな。さ、暁彦。教室に帰ろうぜ」


と、オレの手を引きながら言った。

仲良くなると即呼び捨て。

なんて、性格や行動までイケメンなやつ。



柊斗は。ただ、ただ、オレに嫉妬していただけだったらしい。

そらそーだよな。


自分は彼氏なのに、いつまでも彼女がオレに貼付いてちゃぁ。



「ちゃんと奈都に言うよ。彼氏がいるんだからオレから距離を取るようにって」

「──ん~。そうか? 悪ぃな。申し訳ない」



意外といいやつだった。

腹を割って来たのもあっちからだし。


やっぱ、イケメンは違うなぁ。



放課後。奈都に見つからないように学校の裏口から出て走って帰った。

家に着いたらすぐに自転車に乗って、ビデオ屋と本屋をはしごした。


気が紛れるように、気が紛れるように。


その間、奈都にラインを入れた。


『彼氏がいるんだから、それを大事にしろ。朝も放課後も一緒に歩かない』


オレも覚悟を決めた。

もう、完全にあきらめる!


柊斗はホントにいいやつなんだ。

みんなから好かれる理由も分かる。


奈都が柊斗を彼氏にした理由も。



「……はぁ。なんなんだ。この徒労感っつーか、挫折感っつーか。……なんにもやる気がでねぇ~。明日休もうかなぁ~」


なんて涙を一粒流してつぶやいた。


涙がこぼれないように見上げた空には少し欠けた月が輝いていた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



うつむきながら帰宅し、自転車をいつもの場所にしまい込む。

玄関のドアを開けると、見慣れた靴が置いてある。


母さんが、エプロンで手を拭きながらキッチンから出て来た。


「アンタ、なっちゃん放ったらかしにしてどこいってたの? ずっと待ってるけど」

「へ、部屋に上げたの?」


「上げるでしょ? そりゃ」


と当然といった顔で呆れていた。

オレはさっぱり分かってくれない奈都を追い出してやろうと二階に駆け上がった。


奈都は。ベッドの上でお菓子を食いながら本を読んでた。


「あ。帰って来た。ねぇ、これなんていう字?」


奈都の指差した字を見てみる。


「“ぬ”だろ。」

「ああ、これひらがなかぁ~」



読めねーのかよ!



……は! つい相手にしてしまった!

こんな風に、いつもこいつのペースになってしまう。


「あ! DVD借りてきたんだ! 一緒に見よぉ~~」

「ちょ。いや、これは後でヒマつぶしで見るヤツだから」


奈都は起き上がって、ベッドに座りなおした。


「ねぇねぇ、柊斗くんが今度デートしようって! ギャラクシーハイランドで」

「あっそう。へー」


「遊園地楽しみーー!」



そうか。柊斗は、すぐにデートの申し込みをしたんだな。

うんうん。奈都が楽しめるならいいじゃないか。



「よかったじゃねーか」

「うん。暁彦も一緒にいこーー」


「いや、ダメだよ。デートなんだから」

「ふ~ん。デートだとダメなんだァ」



どこまでアホなんだよ。


そうだ。こいつ、ホントにオレが付いて行かなかったらジャージで行くかもしれない。

テンション上がりすぎて大声で騒ぐかもしれん。

走り出して迷子になるかも知れん。

アイスもボタボタ垂らすかもしれん。

無様にコーンの後ろからチウチウ吸うかもしれん。



「オイ。デートはいつなんだ?」

「えーとね。えーとね。えーとね」


奈都はスマホをいじくりだした。


「なんか部活で忙しいから、来週の日曜みたい」



そうか、まだ日はあるんだな。



「オイ。奈都。今週末、服を買いに行こう。そして、ギャラクシーハイランドの下見にいくぞ!」

「え! うん!! 分かった!」



お前たちの恋なんて本来はどうでもいいが、このままでは柊斗が可哀想だ。

普通──。までとは行かないだろうが少しは女として見れるようにしないと。



「それから、これは柊斗には秘密だぞ? 調子に乗ってペチャクチャペチャクチャしゃべんじゃねーぞ? ラインもダメ。とにかく柊斗にもらすなってこと」


奈都は敬礼のポーズをとった。


「了解致しました」



なんだそりゃ。

……くぁわいいじゃねーか。

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