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アメリカに王はいない

作者: 川里隼生

 小学生の頃、僕には野球好きな友人がいた。彼はメジャーリーグを見に行ったと自慢していた。5年生の2学期のことだ。夏休みを利用して行ってきたらしい。まだ海外旅行が珍しかった時代だ。その日の彼は学校中の人気者になった。彼は金色に輝くトロフィーを取り出してみせた。球場で売っていたらしい。


『1971 SEASON AMERICAN LEAGUE HOME RUN KING -JACK UNDERSON- SAN FRANCISCO GIANTS #1』と記されていたそれは、昨シーズンのホームラン王のトロフィーだった。もちろん販売用に作ったレプリカなのだろう。正直な感想は「なんだか安っぽい」だった。それでも、1学期の終盤からずっと「アメリカに行く」と宣言していた彼にとっては宝物なのだ。


「ところで、どこ対どこの試合だったの?」

 僕は彼に質問した。

「驚くなよ。ジャイアンツ対タイガースさ。アメリカにも巨人と阪神があるんだ」

「へぇーっ。じゃ、アメリカの巨人にも王貞治みたいな選手がいるの?」

「アメリカに王はいないよ。だって、アメリカには大統領がいるんだぜ」

 彼は冗談を言った。アメリカンジョークらしい。当時の僕には、海外に行った彼がとても眩しく見えた。


 大掃除の途中で卒業アルバムを見つけ、思い出に浸っていた。そして苦笑する。図工が得意だった彼の言う通り、アメリカに王はいない。最多本塁打を表す英語はホームランキングではなく、ホームランリーダーだ。彼は嘘をついていたのだ。ずっと海外に行くと言っていた手前、行かなかったと言えなくなってしまったのだろう。


 台風で飛行機が飛ばなかったのだろうか。それとも、家族みんなで寝過ごして出発に間に合わなかったのだろうか。いずれにせよ、彼はアメリカに行かなかった。楽しい友人との思い出が蘇った。たまには同窓会にも行ってみるかな。

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