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アルトの絶望

執筆中フォルダ整理のためにちょっとだけ吐き出しておきます。しばらく更新は未定。


 「ノーマルの方の登録は認められません」


 クランの受付の女性は淡々とこう言った。

 僕、アルトは冒険者クラン『鉄血の誓い』に加入申請しようとして絶望的な宣告を受けたのだった。


 「……ど、どうして?」


 「簡単に説明しますとレアリティがノーマルの方は10までしかレベルが上がらないからです。そこからレアリティが一つ上がるごとに上限レベルが10ずつ上がります」

 

 レベルとは高ければ高いほど身体能力に補正がかかる。

 事実、僕も何度かレベルアップを行っているのでその恩恵は十分わかっているつもりだ。

 具体的な数値まではわからないが、レベルアップの瞬間は体が熱くなるから何となくわかる。

 多分五回ほどは経験してるんじゃ無いかと思う。

 ただ、レアリティに関する話は初耳だった。


 「じゃあ、どうやってレアリティをあげればいいの?」


 「諦めて下さい。レアリティは生まれつき決まっているものですので。努力で上がったりはしません」


 そう言われても僕は簡単に諦めるわけにはいかなかった。

 僕には手に職が無かった。鍛冶や調薬の技術も持っていなければ読み書きだって出来ない。

 読み書きが出来ないから商家に雇って貰うことも出来ない。

 唯一の技能は五才から一日も欠かすことなく十年間降り続けた剣の腕だけだ。

 冒険者ギルド以外に僕の行き場所は無かった。


 僕の父さんは『鉄の鷹』傭兵団の団長だったけれど、先の戦争で戦死してしまった。

 傭兵団の仲間もそうだ。敗戦側についてしまったばかりに皆命を落としてしまった。

 傭兵稼業がそういうものだって僕も理解はしている。恨んではいない。

 僕が生き延びることが出来たのは単純に運が良かったこと。

 団で一番若い僕を年長の団員達が戦場から逃がしてくれたことも一役買っていた。


 唯一生き残った僕には生きる義務がある。

 生きるためには仕事が必要だ。


 「僕は剣なら得意です。傭兵として実戦経験だってあります」


 僕が食い下がると、カウンターの奥から禿げたオヤジが頭をボリボリを掻きながら僕の前へとやって来た。歴戦の勇士といった風体だが、クランマスターだろうか?


 「……ふん。傭兵ねぇ。どうせ、戦場で突っ立てただけだろ。傭兵の役割ってのは相手を躊躇させるための数なんだよ。誰でも出来る雑魚にお似合いの仕事だ。戦力じゃない。傭兵ってのはな冒険者になれなかったNどもの寄せ集めなんだよ! いくら鍛えたって雑魚は雑魚なんだよ! わかったらとっとと帰れ!」


 僕の頭にかぁっと血が昇った。

 僕や父さんや仲間達が命がけでやって来た仕事プライドを侮辱された気がしたからだ。


 僕は拳を振りかぶる。だが、それは禿げ親父に届く前に止められてしまった。

 振り返ると、筋骨隆々の中年男が僕の腕を掴んでいるのが見えた。

 中堅冒険者クランである『鉄血の誓い』に所属するメンバーなのだろう。中々にベテランの風格がある。

 禿げ親父はため息を一つつくと、筋肉中年にこういった。


 「……ちっ。そいつはよっぽどの馬鹿らしい。頭で理解できなくても体でなら理解できるだろ。適当にやっちまってたたき出せ。最悪殺して構わん」

 「おうよ、マスター」


 そこから先は酷いものだった。殴られて蹴られて、僕は目を白黒させることしか出来なかった。

 筋肉中年は『鉄の鷹』傭兵団の誰よりも強かった。団で最強だった父さんよりもだ。

 父さんはレベルマックスだったと聞く。それよりも強いと言うことは、やはりレアリティとかいうやつが関係しているのだろうか?

 僕は何の抵抗も出来なかった。相手の動きすら見えなかった。

 体に一切力が入らないほどボロボロにされて、冒険者ギルドの外へと放り出された。

 最後に筋肉中年はこう僕に言った。


 「俺で良かったな。魔物相手だったらてめぇは死んでるぞ。そうだ。いい事教えてやろう。人権すら無いN野郎を殺したって罪にはならねぇんだぞ、殺されなくて運が良かったな」


 「………くっ、ううううううううううううううっ」


 入り口に転がえい呻く僕を面白がって見に来た冒険者がいた。


 「N野郎はお呼びじゃないんだよ。ぎゃはははははっ! 来世で出直してきな!」


 更に足蹴にされて僕は悔しくて泣いた。

 先天的に決まっているらしいよくわからないレアリティとかいう奴のせいで馬鹿にされた。

 父さん達を馬鹿にされても否定することすら出来なかった。

 

 僕は、道路の舗装された綺麗な町並みを体を引きずって後にする。

 向かう先は二級市民街。場所は街の門の外にある。簡素な布のテントが並ぶ貧困街だ。

 街に住むことを許されない市民権を持たない者達が安全を求めて街の周りに自主的に作った区画。

 本来街で無い場所に住んでいること自体は街の領主に黙認されている。

 魔物が襲ってきた場合、勝手に街の外にいる住民達が襲われることで相対的に保護すべき街の中の住民の安全が保証されるからだ。

 そして二級市民街の住民を衛兵が助けてくれることはない。

 それ自体はいい。元々二級市民の階級なんて無い。市民証を持っているかいないか。

 いわば、市民とそれ以外かだ。

 市民と奴隷の間にある形容しがたい階級こそが二級市民。

 便宜上二級市民と呼んでるだけで実際は一級市民にしか人権がない。

 市民証がなければ毎回町へ入るのにだって通行料が必要だ。

 市民になりたい。市民になれない。そういった人間を僕は沢山見てきた。

 市民になるためには審査が必要だ。

 審査の要件は開示されていないが、大金が必要だったりと中々に厳しいらしい。

 

 戦場から落ち延びた僕はどうにかこの街へと流れ着いた。

 国境の町、イスガルデ。

 隣国と戦場を挟んで睨み合っている最前線の町だ。


 僕がイスガルデの二級市民街を歩いていると前から数名の衛兵が歩いてきた。

 

 「……いたぞ。引っ捕らえろ!」


 どうやら僕を捕まえようとしているらしい。


 「……で、ですが流石に罪が無い者を……」

 

 隊長らしき人に部下が口答えする。


 「いいんだよ。こういう時に連中を使わずにいつ使う。いいか、ここにいるのは市民じゃない。神にすら認められないNの寄せ集めなんだよ。神に価値を認められない以上こいつらは人間なんかじゃない。人間じゃないから市民権をやらなくていいし、せいぜい道具として上手く使ってナンボだろうが。とっとと奴隷の首輪を付けてこい! 次の作戦時の壁要因として利用する」

 

 僕は知ってしまった。

 知ってしまった故に絶望した。

 この世界の不条理に。

 レアリティが優遇される世界に。

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