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六翼の鷹と姫の翼  作者: ヲトオ シゲル
beat the wings
69/80

バックヤードあってこそですから。








「いい加減にあきらめて寝てて下さい」


唸っているアメリを分かり易く困った顔で眉を八の字にして見下ろす。

ニーナが水に浸した布を額に置くと、アメリは気持ち良さそうに目を細めた。


「ここ最近の事を考えると、疲れが出て当然です」

「うーぅぅ、でも……」

「でもじゃありません!」


城都に人気の楽団が来たと噂に聞いた時には、その公演期間も終わりが間近だった。


クロノが自分が不在だった間の諸事を片付けているうちに、あれよあれよと楽団の公演も最終日になる。



やっとふたりで城都に行けるとなったその日、というかその日の前夜から、アメリは起き上がれないほどの熱を出した。


クロノはまたの機会だなと笑うと、実はまだまだある後処理をするべく出掛けていった。


長く生きて年寄りのクロノと、その十分の一ほどしか生きていないアメリとの差はこういう時に出てくる。

性格や生い立ちも大きく関係しているかも知れないが、アメリにとっては『またの機会』よりも、『今この時』の比重の方がはるかに大きい。


体調を崩したことも手伝って我慢が効かなくなっているのか、面白くないと全身から滲みださせている。


アメリの枕元の側に置いた椅子に腰掛け、ニーナは静かに繕いものを始めた。


すいすいと動いている針をぼんやりとした顔で見ているアメリにふと笑みをこぼす。


「眠ったらどうですか?」

「眠くないもん……」


口を尖らせている様がますます子どもらしさを増させている。


「城都にはいつでも人気の何かが、それこそ色んな所で公演していますから」

「……別に……どうしても行きたいとかじゃなくて……」

「なんですか?」

「休んで欲しかっただけ……総長ずっと忙しかったから……」

「あら。そうだったんですね」

「それで私が寝込んでるって……ホントなんなのって……情けないなぁ……」

「旦那様はまだまだ働いても平気ですよ、アメリ様が思うより、ずっと丈夫ですから」

「そうかもしれないけど……」


寒気がするのか掛け布の下でもぞもぞとしているのを見て取って、ニーナはもう一枚毛布を用意してアメリの上に広げる。


「お気持ちはよく分かりますが、お身体がそうもいかないと言っているんですよ、さあさあ、おしゃべりはこのくらいにして、目を閉じて下さい」

「ぅぅぅ……」

「次に目を覚ました時に熱が引いてなかったら、熱冷ましですからね」

「ぃやだ!」


アメリはぎゅうと目を閉じた。


ハイランダーズ謹製の熱冷ましは、どろどろに色んな薬草が煮溶かしてあり、何の恨みがあるのかと思うほど苦い。

しかも熱々の内に飲まないといけない。

冷めてしまうと、絶対に殺す気だろうと思うほど更に苦くなる。

猫舌のアメリには苦行でしかない。


「いつでもお出しできるように、従医師(せんせい)から熱冷ましをもらって用意していますからね」

「飲まないもん……!」

「はいはい……それなら今は休んで下さい」




クロノの私室から、続きのアメリの部屋に水桶を抱えて行くと、待ちわびたように侍女たちが揃ってニーナの元に寄ってくる。


「アメリ様は?」

「やっと眠ったところですから、静かにね」

「はい……あの、お加減は」

「どうかしら、随分お辛そうだから、本当に熱冷ましをもらってこないといけないかしらね」

「ああ……では私が先生の所に」

「お願いするわ、アリアナ」

「では私は口直しの砂糖菓子を作ります」

「そうね、ニコラ」

「私が水を替えてきます。ついでに氷室から、氷をもらってきます」

「助かるわ、ベル」


普段より落ち着いて、小さな声で静かに行動している侍女たちに、ニーナはいつもこうなら申し分ないのにと小さく笑う。






一晩明けてアメリの体調が完全に戻ると、侍女たちの言動も完全に元どおりに喧しくなったのに、ニーナはまた笑った。













□□□ざっくり解説□□□






侍女頭のニーナと侍女ちゃんズでした。


とか言いつつ、アメちゃんが寝込んだ話ですね。

この後、夫妻で協議の末に、陛下から休暇を頂きましたー。という流れで、前章のラストの所に繋がります。





ニーナは侍女頭。文中に出ていた従医師は、王城勤務の騎士の為のお医者様でもあり、ニーナの夫でもあります(本文に自然に盛り込めなくて、己の力不足が恨めしい)。



アメちゃんの大ファンの三人。


ニコラは平民、城都より北にある割と貧しい村出身。(アメちゃんの為の新ブランド設立でこれから裕福な村になりますが)侍女ちゃんズの中では一番の古株。


アリアナは今はもう亡き没落貴族のお嬢様でした。ニーナに拾われる形で屋敷で侍女をする事に。実質『見た目重視村』の村長。なのは、出自が多分に関係あるからです。


ベルは一番若手。といっても全員が戴名して実年齢が3桁オーバーなので、そこまでくると上下は関係なくなっています。

侍女の中では武闘派担当。護身術や馬術を心得ています。三人兄妹。先の戦で亡くなった兄がひとり、もうひとりの兄は存命で第三大隊に所属中。




なんて。

本文に反映されないような設定をここで垂れ流しつつ。



毎度お寄り頂いている方に、少しでも喜んで頂けたらこれ幸いと。



□□□ざっくり解説を終わります□□□














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