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六翼の鷹と姫の翼  作者: ヲトオ シゲル
beat the wings
67/80

かけっこブライス。






「勝負だ!ブライス!!」

「わははー。急だな、どうしたお嬢」


びしりとアメリは言い放ち、腰に手を置いて、ふんと鼻息を鳴らすと、ブライスが豪快に笑う。

アメリの脇に両手を差し入れて持ち上げ、高い高いをするとぐるぐるとその場で回転を始めた。


いつもの子ども扱いに慣れてしまって、アメリもされるがままに、きゃっきゃと笑いながら、ブライスが飽きるまで一緒にぐるぐると回る。


「私が勝ったら、私の言うことを聞いて!」

「おーし。構わんぞ、なんの勝負だ?」


いくら子どものように可愛がっているアメリからの申し出でも、男として簡単に勝負に負ける訳にもいかない。きりと表情を引き締めてブライスはアメリを地面に降ろした。


勝負という言葉に、面白いことが始まったと周りにいた騎士たちが寄ってきて、すぐに人集りが出来る。


アメリは腕を組んでひとつ唸ると、少し離れた場所、小さな丘の上にひょろりと立っている一本の木を指さした。


「あそこまで行って、ここまで早く帰って来た方が勝ち」

「ふーん。それじゃあ勝負は見えてるな。どう考えてもお嬢の勝ちじゃないか」


アメリの三倍はある体が困ったように少し縮こまる。

ブライスよりも身が軽く、すばしっこいことを知っている聴衆がそうだそうだと声を上げて囃している。


「じゃあ、荷を持って競争すればいい」


どこかから聞こえた声に、アメリはにっと笑顔を見せる。


「それならブライス隊長も同じだけの荷を持つべきだ」


放っておいても勝負が面白くなるように勝手に話が進んでいく。どちらに賭けるかという声が上がりだして、ブライスは片手を持ち上げた。


「分かった、じゃあ、人を背負って走ろう」

「いいよ! ブライスは誰を背負うの?」

「それなりに重くないと面白くないな……お嬢こそ誰を背負うんだ?」


適当にその辺にいる誰かを背負って、それがクロノにでも知られたら、後から怒られるに決まっているので、迷いなく総長と答える。


呼びに行ってこいと誰かの声がして、人集りからひとりが走っていく。


「総長なぁ……なら俺は……お、イアンお前にしよう」

「はぁ? 俺?……総長とそんなに変わらないと思うんだけど、もっとデカい奴の方が良いんじゃないの?」


指名されたイライアンは、本人が言う通り、背の高さも身体の大きさも、総長とそれほど違いがないように見える。


「これじゃあ奥方様が不利じゃないか?」

「そうだな、負担が大き過ぎる」


背負われる方の大きさは同じくらいでも、背負っている方の差が違い過ぎる。とは言えこの人集りの中で、イライアンより体の大きな者がいない。


アメリはにやりと片方だけ口の端を持ち上げる。


「んーじゃあ、帰り道は交代したら良いんじゃないの?」


行きと帰りとで背負う者と背負われる者が逆になるという提案で、勝負の行方が分からなくなった。また盛り上がって、賭けの配分が忙しく動き出す。


ひとりイライアンだけはうげと声を上げて嫌そうに顔をしかめていた。




小高い丘の上を目指して、アメリは足を進める。とても走るという速さではなく、歩いている速度と変わらない。


ブライスとはすでに百歩分程の距離が開いてしまった。


「どうした……足が遅くなってきたぞ? 負けるのか?」

「……うる……さい!」


クロノが笑っている気配が後ろでして、アメリは怒ったように地面に力一杯 足を踏みおろす。


なんとか今以上にブライスとの距離を開けることなく、丘を登りきってひょろりとした幹に手を付いた。


顎を伝って流れる汗を、クロノがするりと拭う。


「交代だ、しっかりつかまって、口を閉じていろ。舌を噛まないようにな」


アメリを軽々と背負うと、クロノは少し前傾姿勢で走り出した。


すぐにブライスを背負ったイライアンを追い抜いて、今度は開いていた分の差をつけてクロノが先に到着する。


盛り上がる周囲と手を合わせて打ち鳴らしているところに、ようやくブライスが帰ってきた。


イライアンはたどり着いたその場でうつ伏せに倒れている。


「お嬢! 負けたよ!! それで? 俺は何をしたらいいんだ?」


潔く負けを認めると、ブライスはアメリをひょいと担ぎ上げる。

肩の上に座らされたアメリは、気分を良くしてふふんと笑う。


「詰所を掃除して!」

「は? 掃除?!」

「ジェリーンが、臭いし汚いから詰所に行きたくないって!」


詰所の食堂を切り盛りしているジェリーンが、何度も騎士たちに声を大にして掃除をしろと言っているのに、一向に腰が持ち上がらないことに疲れてしまった、何をするにも億劫になってしまう、困ったと相談されて、アメリは今回の一計を案じた。


すぐに乗ってきそうなブライスに勝負を挑んでのこの結果だった。


「ちゃんとしないとご飯が作ってもらえなくなるよ?」

「……ああ……そりゃ……一大事だなぁ……でも……」


詰所の散らかり具合や前回 掃除をしたのがいつだったのかを思い出しているのか、苦々しく顔を顰めて唸っている。


「でもじゃない! 私の言うこと聞くって言ったでしょ!」

「……腹を括れブライス。賭けに負けた者も一緒に連れて行け」


人集りの半分ほどがうわぁと嫌そうな声を上げ、残りの半分がいひひと意地悪く笑う。


「次にまた散らかる事があったら、今笑った者が掃除をしろ」


クロノが口の端を持ち上げて、威圧感を垂れ流しながら周りを静かにさせる。


「それが嫌ならいつもきれいに整えておけ」


ブライスの肩に乗っているアメリを下ろして、自分の肩に担ぎ直すと、そのまま屋敷の方に足を向ける。


「ジェリーンが納得するまでキレイにしてねー!!」


クロノの肩に腹を乗せたアメリが、背中に腕を突っ張って体を起こし、声を張り上げて手を振っている。




うははと力なく笑って、ブライスたちはぞろぞろと詰所に向かった。


もれなくイライアンも襟の後ろを掴まれて引き摺られていく。















□□□ざっくり解説□□□






ブライスは第五大隊の大隊長です。


第五大隊は、主に青銅クラスのハイランダーズを束ねている隊で、副長以下殆どが城外、城都の外で国中のあちこちを見回り、指示を出したりしております。

なのでこちらも大所帯。

しかし城に詰めているのは、交代で帰って来た一割ほど。


ブライスは巨漢の頼れる親父的存在。

見た目は厳つくて、怒らせるととんでもなく恐ろしいですが、普段は温厚で優しい象さんのような人です。



因みに妻帯者。家族は別嬪の奥さんと、五人の息子。イライアンは三男、第二隊所属。その他の息子は王城の騎士だったり、その他の隊に所属しております。全員が戴名していますので、城壁の内側に屋敷があります。





□□□ざっくり解説でした□□□









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