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六翼の鷹と姫の翼  作者: ヲトオ シゲル
精霊と王の森
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きれいな色。






ハイランダーズという組織は大きく二つに分けられる。




白金の証を持つ者と、青銅の証を持つ者。


前者は生まれも育ちも良く、出自のはっきりとした者で、城都に及ばず王城への勤仕もかなう証。

それ以外にも武勲やその他の能力を認められれば与えられる。


後者は志願して基準を満たせば、生まれがどうであろうが証を受けられる。主に出身地での警衛を任されていた。


「クロー……ディオ……ス……ノア……だからクロノ?」

「そうだ、まだその後に長々と家名が続いているだろう?」

「ああ……でも……いいや」


何かの拍子に見えたクロノの首元にある銀色の鎖。

その先にハイランダーズの白金の証が付いていたのをユウヤは思い出した。


休憩中に特に深い意味もなく見せて欲しいと言うと、クロノも特にどう言うことなくそれを手渡す。


細かく装飾された見事な鷹の紋章の裏側には、文字が刻まれ、でもそれは時間が経過して磨耗したのか文字は消えかけてほぼ見えなくなっている。


なんとか頑張って読めた部分がクロノの名の一部だった。ユウヤは早々に全部読むのを諦めて、さっさと持ち主に証を返す。


「母方の名も継いだからな、長くもなる」

「そういうもんなの?」

「ああ……母は異国の人だった。彼女の国では男女の別なく子は親の名を継ぐらしい」

「へぇ……じゃあクロノのお母さんは、この国でお父さんに出会ったの?」

「旅回りの一座にいた母に、父が一目惚れを……」


父親が通った轍を自分も踏んでいるような気がして、途中で会話を止める。そろりとユウヤを見ると彼女は少し離れた場所で蝶々に見入っている姫様の方に目をやっていた。


「ふーん……で、その息子も同じに仕上がったと」

「同じ……とは?」

「旅をするのが楽しそうに見えるけど?」


ユウヤは少し口の端を持ち上げて、違うのかと目で問いかけてくる。


母親の生業とクロノの生業を照らし合わせて聞いた。父親と同じ志向なんじゃないかと思い付いたのは自分だけだ。


クロノは跳ねる心臓に落ち着けと言い聞かせた。


「そうだ、な」

「だから城都じゃなくて、こんな端っこにいるの?」

「端っこにいるのはたまたまだ。今は各地の様子を見て回っている」


各地方、民の数に応じてハイランダーズの詰め所と人員数が決まっていた。

仕事は各地の警衛だけではない。植物、鉱物など新しいものを探す探索家。民の生活に必要なモノを狩る狩猟家、収集家。

大きな商隊の用心棒もするし、火事が起これば火を消し、揉め事が起これば止めに行き、災害に際しては救助も行う。


民からの依頼があれば解決に駆け付ける何でも屋のような存在になっていた。



クロノは各地を回り皆がハイランダーズとしての本分を忘れず働けているのか、また立場を見失った者がいないか、ハイランダーズ自体が煩労の種になってはいないかを見て回っていた。


「それが楽しいんでしょ?……お母さんの血じゃないの?」

「……肌や髪の色以外で母の事を言われたのは初めてだな」

「そう?……きれいなのに」

「きれい? 私の色の話か?」

「とてもね。それにクロノに……なんていうか、良く似合ってるし」

「……その逆のことしか言われないが」

「それはアレよ。クロノが何でも出来るからでしょ? 嫉妬ってやつ」


国の中央に寄れば寄るほど貴族が増えて、その中にあってクロノは混血だ、面汚しだと散々 表裏に関わらず言われ続けてきた。


自分や両親に対して誇りは持っているが、自分の持つこの色を醜いとは考えないまでも、きれいだとは思い付きもしなかった。


この国で尊ばれるのはユウヤの持つ色だ。

髪は金が白に近いほど、強い光の色が良い。

肌は白く雪の様で、瞳は空を映せばこの上ないとされている。

この国が焦がれ、畏怖する自然の色。


「きれいな色というのは、ユウヤのような色だろ?」

「よく褒められるけど……逆にこれ以外の色が良くないって、変な価値観だと思わない? 誰が言い出したのって……ほんと迷惑な話」

「迷惑か」

「親やその親やその親や……ずっと続いたものをもらっただけじゃない」

「その様子だと、余程 腹に据えかねるものがあるのか」

「自分じゃ選べなかったり、変えようと思っても変わらないものなのに。本人にどうしようもない部分だけで評価しないで欲しい」


判断基準を刷り込まれていた。

しかも好ましくない人々から。意識する間も無いうちに、自分を卑下していたのか。横面を叩かれた感覚がする。


そしていつの間にか自分も好ましくない連中と同じように人を判断していた。

そうはなりたくないのに。


「はは……それは耳が痛いな。私は昨日、初めてユウヤを見て何と美しい人かと……」

「ええぇぇ? クロノも『人を外見で評価する村』の住人なの?」

「何だその村、初めて聞いたぞ」

「もっと他に見るとこないの?」

「心も美しいとか?」

「残念ながら、私の中身はぐちゃぐちゃだけど」

「ぐちゃぐちゃ」

「うん、しかもどろどろ」

「……そうは思えないが?」

「ああ、クロノは外見しか見てないから分かんないか……」

「酷い言い草だな」

「ほらね? ぐちゃぐちゃでどろどろでしょ?」


くくくと声を殺して笑うユウヤにやはり見惚れてしまう。おかしな名前の村の住人ではないが、やはり最初の印象は変わらない。どころか、間違いないと確信は増している。


駆け寄ってきた姫様を抱きとめて頬を撫でる仕草に、その視線に、とても心がぐちゃぐちゃでどろどろだとは思えない。

憎まれ口も好感を増すだけだった。


「それでも美しいと思う気持ちは本当だから仕様がない」

「はいはい、知ってますぅ……もういいって」


姫様はけたけた笑いながらユウヤの膝の上に乗る。


手を使ってクロノに数を示した。


「べっぴんさんーは五十人よりいっぱいで、けっこんしてーって言ったのは十八人だった」

「数えたのか」

「祭りの日に出くわすとそうなるんだって」

「一日でか……確かに迷惑な話だな」

「でしょ? 勘弁してしか出てこない」


心底うんざりだと長い溜息を吐き出した。それを勢いにして立ち上がり、休憩は終わる。





クロノが草を払いながら前を歩き、その後ろをユウヤと姫様が手を繋いで付いて行く。

しばらくするとユウヤの笑い声が小さく聞こえだす。


「……なんで白金の証を持つ人が、草を払いながら前を歩いてるの?」

「今さらなんだ……おかしいか?」

「や、知らないけど。お屋敷の中でふんぞり返ってるもんじゃないの?」

「お屋敷でふんぞり返っている内にこの道が消えて無くなるからな」

「クロノがする事じゃなくない?」

「これもハイランダーズには大切な仕事だが?」


本来なら国の内外に関わらず我が王、自国に敵意有りと見なされれば戦場が立ち、そこで勝利する事がそもそもの仕事。


しかし隣国との大戦から五十年以上経過し、国内でのいざこざはあったものの、周辺の国とは良い関係が続いており大きな戦は起こっていない。


そのためこの二十年で本来の仕事から外れた探索や収集、狩猟等に重きを置いた、それら専門のハイランダーズが増えてきた。


大きな組織を動かすなら資金は多いに越したことはない。


希少品を手に入れてそれを高く売り、収益を得る。

個人で商うより安全面も流通経路も確立されて、品物は捌きやすい。


働きが良ければ歩合で臨時収入になるし、安定した給金までもらえるならばと志願者の絶えない職業だ。

人手不足とは言えない。


「国の為なら草も払うさ」

「ご立派な精神ですこと」

「お褒めに預かり光栄だな」


全体の九割は青銅の証の持ち主、ほとんどが地元の男性で構成されている。


地方ほど自分を飾るのに興味はない、良く見せる気も必要もない。むさ苦しい男ばかりの集団は、騎士団と名は付くものの洗練とは程遠くかけ離れている。


それだからこそ気安く、またその地の民との垣根が低い。


地位と剣を振りかざして抑え込むのではなく、まぁまぁ酒でも飲もうや、でその場を丸く収める。

そういう者ほどやり手と見なされて周りからの信頼を得られる。

血筋や家名だけでなるのではなく、志の高さとその腕を買われていつしか騎士と認められる。



仕事に上も下もない。

上級職からそんな気風だから戦はなくても士気は高い。


突出した才があり、認められれば白金の証を持つのも叶う。

心意気もやる気も持ち合わせ、さらに上を志す団員は相当数いる。


「クロノみたいに真面目な人が上にいたんじゃ、下の人はやりにくくてしょうがないね」

「……似たようなことをよく言われるな」

「もっと楽したら?」

「その間にこの道が無くなると言わなかったか?」

「下の人に仕事をあげたらどうって言ってんだけど?」

「……こういう会話も何度かした記憶があるな」

「頑固者」

「よく言われる」

「打っても響かないなあ!!」

「……そっくりそのままお返ししよう」

「え? 意味が分からない。なんで返されるの?」


後ろを振り返ると、ユウヤも拾った木の棒で草を払いながら歩いている。納得行かなそうな表情で自分の足元を見ていた。


その左手は姫様と繋がれている。

姫様は空いた方の手に落ちていた小枝をひと抱え集めて、持て余すのか重そうにしている。


「姫様、それを持ちましょうか?」


クロノが聞くと、いいの! と庇うように抱きしめる。夜に火を使うために枯れ枝を集める大役を立派に努めようとしていた。


木の実や山菜、きのこを取りながら進む。

途中で行き当たった川沿いを歩き、今夜の野営地は川の近くに構え、魚を捕まえて豪華な食事を味わった。




その後二日間、特に問題なく、むしろ順調過ぎるほど道を進む事ができた。




ひとりで行くより、女、子ども連れなのに。

クロノは自分が思うより寄り道が多過ぎるのか、気が抜けているのかと疑いだした頃、森を抜け大きな道に出る。




草原の向こうにかつて砦だった建物が小さく見える。

その足元にクロノが現在住んでいる町があった。











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