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六翼の鷹と姫の翼  作者: ヲトオ シゲル
beat the wings
41/80

アルウィンはおもねらない。





今回はさらに短くなっております。













14の歳に拾われた。



肺を病んで、しかし医者に診てもらう金も無く、死ぬ寸前のところだった。

ハイランダーズのひとりに城都の道端で保護された。酷い状態の私にひと時も猶予がないと思ったのか、総長は迷うこと無く戴名して私の時を止めた。


街の隅で死にかけた、貧しくて医者にかかれもしなかったこの私が、白金の証をぶら下げる。


城都に居た頃からは考えられない裕福な暮らしで、みすぼらしさこそ無くなっても、見た目は変わらず14の時のまま。

体は小さく、周りに比べれば力だって無いに等しい。


自分に出来ることなどたかが知れていたが、それでも拾ってもらった恩に報いたい、救われた命の分だけでも役に立ちたかった。


特別に頭が賢くもない、記憶力も人並みにしかない。出来たのはよく見ること、ただそれだけ。


総長のそばに控えて、いついかなる時も見ることに専念した。

表情の変化を見ることに慣れれば、その内に声だけでも状態が読み取れるようになってくる。

きっかけは本当に些細だったと思う。

ちょっと離れた場所にあるものを、総長が欲しいと思った時に手渡した、とか、知りたい事を聞かれる前に答えた、とか、そんな事を重ねていくと少しずつ仕事を任された。


第一隊は第ニ隊と同じく20にも満たない少人数で、総長の予定の管理はもちろん、他隊の運営管理も担っている。


脇目も振らずに必死で居場所を確保して、周りに追い付きたくて努力した結果、大隊長の地位になった。




今回の長期視察から帰ってきた総長は、これまでとは別人ではないかと疑うほどに人が変わっていた。


変化を疎んではいない、不変なんてない、人は変わる。



弱き者は大切にするべきだという想いのある人だから、そこに基づいて行動したのだろう、ハルの適当過ぎる報告でも容易に想像がついた。

自分もその総長の行動に救われたうちのひとりだから尚更に。


力の無い者には優しく在るべきだと、芯に持っているから、それが部下やその部下たちにまで伝わって、ハイランダーズをハイランダーズにしている。それは今まで通り変わらない。


変わったのは、総長からべき(・・)を抜かした存在が現れたから。


変えたのは、ひとりの、あえて言わせてもらうが、ひとりの、小娘だ。






「アルウィン!! 総長どこ行ったか知ってるよね!」


総長の行動すべて、何でもかんでも知っていると思ったら大間違いだぞ、小娘……まぁ、知ってるけど。


「王騎士との打ち合わせに、王城へ。午後には戻ります、奥方様」

「アルウィン……もうそろそろ私のことは名前で……」

「何ですか? 奥方様(・・・)

「……いえ、何でもない……ありがとう、ございます」


そう、それでいい。

混乱するのは分かる。見た目はどう足掻こうと子どもくささが抜けきらない自覚はある。


ただ人生も二周り目に入っているのだから、それなりに敬う姿勢を持ってもらいたいのですよ、小娘様。


「んねぇ、もうちょっとさぁ。態度が柔らかくなんないのかなぁ? アメリは女の子なんだから、優しくしてあげなよ」

「お前は柔らか過ぎ……いや、ゆる過ぎだ。そっちこそ態度を改めろ、女の子じゃない、総長夫人だ」


拾ってもらった恩もあるから、頭が上がらない存在であるはずなのに、不思議とハルに頭を下げる気が起こらない。


「え? いいよ、別に。気にしてないから、ふたりとも私に気を使わないで欲しい」

「……他に用件は?」

「あ、ない……無いです」

「行こうか、アメリ……アル、総長には裏庭で遊んでるって伝えといてよ」


するべき事はした後だと分かっているから、どうぞ好きなように遊べばいいと思いを込めて、執務室を出て行くふたりに溜息で返事をする。





「誰よりも雪遊びの似合う人が、一番に年寄りくさい」


モーリスが絶妙な間合いでお茶を手渡してくる。


「勘弁してくれ……ここまで心象を固定するのにどれだけ苦労したと思ってるんだ」


同じく長年苦労して侍従長にまでなった男が苦笑いで見下ろしている。


「ハルの言う通り、兄さんはもう少し柔軟になった方がいい」


いくら皆が知っていても、これほど見た目の違う弟に、兄と呼ばれると腹が立つ。

モーリスのさらりとした嫌味も、確実に嫌な部分を逆撫でするので、いくら長生きしていようが慣れることはない。


「侍従長……去年の資料を書庫から持ってきてくれ」

「はいはい、大隊長殿」


笑いを噛み殺して部屋を出る、父によく似た弟に、その息子の見た目の兄が、手元の紙を丸めてまるで雪玉を作ると、自分とは違う大きな背中に力いっぱい投げつけた。














□□□ざっくりすぎる解説□□□



第一隊はハイランダーズにおける運営管理をしている部隊です。戦場に出ることはない部隊。

20以下の少数で多岐にわたる雑務に追われ、まぁ、多忙ったらない。アルウィン本人は平凡だと言ってますが、それでは拾われないし、大隊長にだってなれません。


14歳で戴名してそのままの姿。その後、弟であるモーリスを呼び寄せますが、モーリスはおっさんの年齢になるまで戴名しませんでした。

なので、見た目が親子のようになっている変な兄弟。



ちなみに、戴名すると前述した通り、子どもを作る事は出来ません。子どもが欲しい場合、王に申請してその間だけ一時 名前を外してもらい時を動かします。

名前が外れている間は普通の人と同じく、病気にもなれば、成長もします。


とは言え、病気で死にかけたアルウィンや、姫様パワー(力技)で復活したアメリなんかは、名前を外して時が動くと大変なことになります。


現状を丈夫な体で、健康を維持することは可能ですが、死ぬ(かもしれない)運命の人の時を動かすことは危険なので、アルウィンは見た目を大人っぽくは出来ないのです。


↑近々本文に出てくる予定の戴名の基礎知識ですが、それまではざっくり解説で補足したままにしておきます。





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