よく晴れた日の午後。
とても。
とてもよく晴れた日だった。
空気はからりと乾いて少し肌寒い。
少しずつ木の葉の色も変わり始め、日差しの色もなんだか落ち着いたような気がする。
ネルとアメリに役目を渡して半年が過ぎ、やっと自分たちや周囲も呼び名が変わったことに慣れて落ち着いた、そんな頃。
ネルはこの世界の人ではなくなった。
ふたりとも最後まで泣いている姿を見せなかった。弱音も吐かなかった。
俺たちには穏やかに、泣き腫らしたような顔で恥ずかしそうに笑う。
相当な痛みがあったと思う。
苦しげな声は日を追うごとに増していた。
それを必死に隠そうとしていたから、俺たちは気付かないフリを続ける。
思い合い、気遣い合って、お互いに意地の張り合いをした。
弱音を吐いて甘えてもらいたい、頼って欲しいと考えた事もあった。
辛さや弱さを分けてもらえないほど情けない親のつもりもなかったから。
ただ自分ならどうだろうと考えた時に、ネルやアメリのように、ぎりぎりでも踏ん張ろうとするんじゃないかと思えて。
それなら甘えて欲しいと思うのは身勝手なこっちの都合でしかない。
ネルが居なくなった今も、その意地の張り合いは続いている。
サザラテラの端、墓地の一角にある、代々のユウヤとサヤ達のための場所。
ネルはそこに埋葬される。
その間、姫様はよく分かっていないのか、それともすべて解っているのか、アメリに抱っこされたまま大人しくしていた。
アメリはいつもと変わらない。
驚くほど。
表に出せば少しは楽になるだろうに、泣きも、嘆きもしない。
気を済ませたくない、楽になりたくないんだろう。アメリと姫様にとっては、ここからが始まりだから。
こっちがよっぽど情けない顔をしていたらしい。
俺たちと目が合うとアメリは少しだけ口の端を持ち上げて、笑い返してくる。
ずいぶん前から覚悟はしていた。
少しずつ、少しずつ。
姫様が生まれたと聞いたあの日から。
ネルがサヤを受け継ぐと聞いたあの日も。
ネルの体が取り返しのつかない程弱っていくのを見ながら、それでも俺たちの前では笑い合うふたりの姿に。
いつの間にか諦めを含んで笑うようになったふたりに、それでも俺は、俺たちは、諦めないと思うことでなんとか立っていた。
俺たちはふたりの、お父さんとお母さんだから。
これからアメリと姫様が居なくなっても。
それでも俺たちはこの思いを手放して、諦めたりしない。
このまま冬を越えて暖かくなれば、俺たちは娘を見送る事になるだろう。
それまではせめて、穏やかで落ち着いた、優しい時間が過ごせるように。
アメリがこの世界を諦めたくなくなるように。
自分を簡単に諦めたくなくなるように。
良いお父さんとお母さんでいよう。




