ファンタジア
微笑む太陽が空に燦々として上がっていて、キノコで出来た家が意識を持って揺れ、人の顔をした花がげたげた笑う中を突き抜ける少女の影が一つ、肩で息をして焦っている。
額に汗を浮かべ、ぬぐう暇があるなら振り返るしかないと足を前に進めるが、足が疲労でもつれて倒れこんでしまう。
そこに先程まで少女だけしかさせなかった足音が止んだのに、まるでタイルの上をずぶ濡れの人が歩いているような音が立って近づき、奇声じみた金切り声を上げている異形の影が一つ。
「マァッテヨォ……ィコオ……ネェ」
影は青い絵具で塗ったみたいな肌をしていて、粘土を水に浸けたかのような容姿をしている。
少女は上げる声も忘れ、這いつくばったまま逃げようと腕で体を引き寄せ、無我夢中になっていても追う影は少女に詰め寄るばかり。慈悲がないその影は少女の脚にのしかかると、ねっとりした体を這わせ、体から触手のような物を伸ばして腕を掴むと、少女に唾液が糸を引いているかの如く見える口を見せつけた。
「ツゥカマエ……ターァ」
クッキーでできた道の上、臭気とともに泥を被った少女が蠢く異形に食われて一緒になり、プリンみたいに体を揺らして口を広げた。
「チイコ……タベタァ。ツギ、サガスゥ……ヨ」
そう言うと重心を前に動きだし、今までの足音を二つ増やして徘徊し始める。