E14 夏ひらく青春
ソファに座っているとアンが膝の上に乗ってくる。
頭を撫で続けてやるとうっとりと目を閉じた。
もう眠いのだ、このまま寝かしてやろう。
シャワーを浴びて酔いも覚めてきたので、ちょっとだけ酒が飲みたくなってきた。
プラムはまだジュリーの入浴を手伝っているし、「もう休んでいい」と言ってしまったから酒を持ってきてくれと頼むのも悪いな。
俺が勝手にコネクティングルームに入って酒を持ってきてもいいものなのだろうか?
「あら、もうお帰りになっていたのですか?」
寝室のドアが開き、バスローブ姿のジュリーが出てきた。
「ああ、シャワーだけだから早いモンだ」
「そうでしたか。今度私にもシャワーを体験させてくださいね」
「ああ」
ジュリーの後ろから甕を持ったプラムが出てきた。
「プラム、悪いけどまたお酒の用意をしてくれるか」
「畏まりました」
「ジュリーも飲むかい?」
「うふふ、いただくわ」
「お酒は何がよろしいですか? 葡萄酒、蒸留酒、ロール侯爵から頂いたお酒もございますが」
「今晩は蒸留酒がいいな」
「畏まりました」
結局、俺が寝るまでプラムを働かせてしまう。
エリックじいさんが建ててくれている、俺とジュリーが住む新居が完成するまでは此処に住むからプラムには苦労をかけてしまうな。
「どうぞ」
ワゴンに蒸留酒とグラス、フルーツの盛り合わせを載せてきた。
高圧温水洗浄能力で作ったお湯から瞬間移動で熱だけを部屋の外に転送すれば、あっという間に氷になる。
できた氷を念動力で浮かせ細かく砕き、クラッシュアイスにして2つのグラスに戻し蒸留酒を注いだ。
「うふふ、こうして飲むとお酒が甘く感じますね」
「だろ?」
今日も1日、いろいろなことがあった。
ジュリーとは昨日、初めてお城の庭で話をしたばかりなのに今朝、婚約した。
そして、今は一緒に蒸留酒を飲んでいる。
「今日はいろいろありすぎて疲れたみたい。もう酔ってしまいましたわ」
「先に寝てていいよ」
「いえ、ノリユキさんと一緒に・・・」
「そうか?」
切りも良いところなのでノートパソコンを閉じた。
アンはソファで眠っているので起こさないようにジュリーと寝室へ向かった。
昨夜は同衾したと言っても酔っ払って眠っていただけなので何もしていないはずだ。
事実上、今夜が「初夜」になる。
「ジュリー・・・」
「ノリユキさん・・・」
ジュリーは婚約者がいたと言っても幼い頃に1、2回会っただけだし他に恋人もいなかっただろう。
だとしたらジュリーは「初物」なんじゃないのか?
「ちょっと待ってね」
「ノリユキさん?」
枕元に置いてあるサバイバルナイフの柄の部分に付いている方位磁石で方角を確かめた。
都合がいいことにベッドは西向きに置かれている。
「わっはは、わっはは、わっはは」
「いきなりどうしたのですか?」
「いや、日本の風習で『初物は西を向いて笑いながらいただくと福が来る』って言うのがあるんだよ」
「何ですか、それ?」
「ま、いいから、いいから。ここは俺に任せてよ」
「・・・はい」
ジュリーはやはり初めてだったみたいだ。
シーツにお印ができた。
と、いうことは俺は「無実」だったのだが、今となってはそんなことはどうでもいい。
それよりもどうやってジュリーを日本に連れて帰るか、だ。
国籍も戸籍もない人を嫁に貰うと言ったら手続きが面倒くさそうだ。
自分で手続きしてもいいけど弁護士に丸投げした方が楽だな。
でも地球上にない国の人間の戸籍を作ったらマスコミが五月蠅そうだ。
だいたいジュリーが地球人と同じ「人間」なのかも調べないと・・・。
もし「似てて非なる者」だとしたら俺とジュリーの間で子供は出来るのか?
そんなことを考えていたら酔いも回って何時の間にか眠ってしまった。
「ノリユキさん!」
ちゅっ!
「わ!」
目覚めのキッスは突然だった。
枕元に置いてある時計を見たらまだ5時だ。
王様の朝食会は7時だからまだ2時間もある。
「ジュリーは早起きだなぁ」
「うふふ、いつもはもっと早く起きて城の庭の手入れをしているんですよ」
「あぁ、そうだったな」
ちょっと早いが起きてしまおうか。
ジュリーに案内してもらってお城の庭をアンと散歩もしたい。
「ねぇ、ノリユキさん・・・」
「なんだよ」
「うふふ」
むぎゅっ
「わぁー! 何するんだよ!」
「アンちゃんが起きる前に、ね。良いでしょ?」
「マジかよぉ。俺、こう見えて結構オジサンなんだぞぉ・・・」
「回復魔法も使えるんでしょ?」
「そりゃ、使えるけど・・・」
本当のことを言えば俺は超回復で一晩寝れば体力は回復するし、超体力で2回戦、3回戦だって戦える。
技だって多彩だ。
念動力を併用すれば三所攻めどころではない。
超感覚で弱点を見つけ、高速思考で責め立てたらどんな女だってイチコロだろう。
しかし自分の嫁さんになるジュリーにそんな事をしていいものなのだろうか?
「少しだけ、ねぇいいでしょ?」
「ちょっとだけよ、あんたも好きねぇ」
手っ取り早く終わらせるために俺の本気の1/10くらいで責め立てたら、ジュリーはあっという間に果てた。
「たまりませんわぁ」
手早く着替え、顔を洗うとリビングではアンが起きて待っていた。
「おはよう、アン。これからは毎日ソファの上で寝ることになっちゃうな」
「わんわん?」(えー、なんでぇ?)
「うふふ、おはようアンちゃん。私がノリユキさんの奥さんになるからよ」
「わんわん!」(やったね!)
アンはジュリーに飛びつき顔を舐めだした。
ジュリーも嬉しそうにアンの頭を撫でている。
「おはようございます、一ノ瀬様」
「おはよう、プラム。これからアンとジュリーを連れてお城の庭を散歩してくるよ」
アンとジュリーを両腕に抱えると瞬間移動でお城の庭の東屋へ跳んだ。




