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中年エスパーの大冒険  作者: 奏多 晴加
序章 少年時代
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A2 男の勲章

 高校デビューを控えた春休み。我が家に激震が起こった。

 父親が一軒家を購入した。母親も知っていた。知らなかったのは俺だけ。


 一軒家購入は俺の高校受験後に決めたそうだが、一人息子なんだから話くらい聞かせてよ!!

 父親いわく「サプライズだ!驚いただろ?」とのこと。

 そういうやつだ。昔から。

 そして、そういうやつれて結婚して、子供までつくっているのだから母親も対して変わらない。同類なのだ。


 中学3年間、毎日のように校内を千里眼で監視しつづけていた歩いて10分の高校には電車とバスで通うことになってしまった。

 よかったことといえば、ずっとアパート暮らしで自室がなかった俺に六畳の個室が与えられたくらい。

 そして18段変速、ドロップハンドルのスポーティな自転車が買い与えられた。


「これから家のローンも始まるから、学校へは自転車通学してね!」


 3年間の通学定期代を考えれば、多少高くても高性能な自転車の方が最終的には安上がりになるんだとか。

 雨天時の通学はどうするんだ!? 雨合羽あまがっぱを着て、チャリンコぐのか!?

 いろいろ言いたいことはあったが「硬派な男」を目指していた俺は黙って従った。

「ツッパリくん」はドロップハンドルの自転車を愛車になんかしないことをこの時点では知らなかったのだ。

 幾ら千里眼を使って調べても、見る意識は自分である。

 移動手段に注目していなきゃそんなことすらわからないのだ。


 引っ越しが終わり、いよいよ高校の入学式である。

 本当は学ラン、ドカンといったツッパリの定番「変形学生服」に、びしっとリーゼントをきめて出席したかったのだが、お小遣いが少なくて買いそろえられなかった。


「こうなったら夏休み明けの2学期デビューだ!」


 まずは高校生らしく、アルバイトでお小遣いをめよう。

 服装をそろえたらエレキギターを買って、ロックンローラーになろう。

 ボーカルはモテる、ギターもモテる、ギターをきながら歌ったら2倍モテるに違いない!!

 俺は硬派なツッパリで、歌ってけるロックンローラーになろうとしていた不良なのに入学式では何故なぜか新入生代表の挨拶をさせられた。

 まぁ成績だけはよかったからね。


 クラス分けを確認し、教室に入ると自分の失敗に気がついた。


(ほとんど同じ中学のやつらじゃないか!)


 高校デビューするには俺のことを知らないやつらが多い方が良い。

 何てったって今までの自分と180度違う自分になる、大イメージチェンジなのだから!

 それなのに俺のことを知っているやつらばかりなんて!!


(フジャッケンナ! フジャッケンナ!)


 少し考えれば、これは当たり前のことなのだ。

 前に住んでいたアパートから徒歩圏内にある高校ならば中学校からも近い。

 偏差値がずば抜けて高いわけでもなく、普通の生徒が通う公立高校ならば近所の中学生が多く受験する。

 引っ越し先の一軒家からチャリンコを超体力で30分もいできたのに・・・。

 普通の高校生なら1時間くらいかかるよ!? まぁ普通の高校生なら電車・バスで通うと思うけど。


 俺の高校デビュー計画は再検討となった。


 自己紹介では華麗にツイストを踊りながら「武石中学からきた、スーパースターとは俺のことだ!ヨロシクぅ!!」とキメる予定だったが、そんな雰囲気ではなかったので普通に出身中学と名前を名乗っておいた。

 入学初日は顔合わせ程度で終わったが、さすがに高校ともなると部活の勧誘がすごかった。

 180cm、90kg(ただしデブではない、筋肉なのだ!)の身体は1年生では大きく、柔道部やラグビー部、バスケットボール部等から勧誘があった。

 幾ら超体力で身体を鍛えていても球技や格闘技は未経験。ずっと「1人で本を読むのが好きな子」だったので団体競技も向いていないと思う。

 入学式で新入生挨拶をしていたおかげか「勉学を優先したいので・・・」と断ると、あっさり引いてくれた。


 高校の校則にはアルバイトを行うには学校の許可が必要と書いてあったが、俺は「硬派なツッパリくん」なので一々許可など申請せず、生活指導担当教諭に見つからないように働くつもりだ。

 当時はバイクブームで高校でも「三ない運動」を行っていた。

 これは高校生に「免許を取らせない」、「バイクを買わせない」、「バイクを運転させない」という、3つの「ない」で三ないなのだが無視シカトだぜ!

 バリバリでブッチギリだぜ!!


「硬派なツッパリくん」の俺としてはバイトもするし、バイクにも乗る。

 ガソリンスタンドでアルバイトしながら当時、バイクでは国内最大排気量だったナナハンに乗ることが目標だ。

 そして美少女の学級委員長と二人乗り(にけつ)して、喫茶店でマスターにコーヒーを入れてもらうんだ!

 まぁ学級委員長は、半ば押しつけられるようにして俺がなったんだけど。


 下校ももちろん自転車である。超体力でいではいるが、なるべく目立たないようにしていた。

「自転車だって、これくらいスピードはでるよな!?」と、原付きバイクを目安に走った。原付きって「原動機付き自転車」なのだから、自転車相当で間違いじゃないはず。

 当時は馬力競争が激しく、静岡県浜松市の自動車も作っているバイクメーカーで出していたギリシャ語のアルファベットの名前がついたバイクは「原動機付き自転車」にもかかわらず、平気で時速80kmもスピードを出せた。

 しかも原付きはヘルメット着用義務がなくノーヘルで運転できた。


 ノーヘルで時速80km、しかも筆記試験だけでもらえる運転免許で高校生が乗り回しているんだから事故も多かった。

 だから大人たちは「三ない運動」なんて始めたんだと思う。

 俺はこのバイクを参考に自転車をいでいたが、さすがに登り坂でも一切速度が落ちずに時速80km前後で走っていたら目立つ。

 すぐにでも家に帰りたかったので好奇の目は気にしなかったけど。


 うちに帰り、母親にはアルバイトをしたいと相談した。

 さすがに家族にまで内緒にしてまで働けないと思っていたからだ。

 母親も家のローンが始まり、パートで働こうと思っていたようで新聞に挟まれていた求人広告を幾つか取ってあった。


「ねぇ、これがいいんじゃない?」        


 母親が差し出したのは新聞配達の求人だった。


「新聞奨学生なんて制度もあるし、高校生にはぴったりでしょう」


 これが真っ暗な青春の始まりだった。

 新聞配達のアルバイトは早朝に朝刊を配達し、学校が終わったら夕刊を配達する。

 学業には支障も出なさそうだし、免許をとればバイクで配達もできる。

 バイトでバイクに乗れる!

 余り世の中の仕組みを理解していなかった俺は「最高にイカすバイトだ!」と思い、すぐに新聞配達店にいってみた。


 結果は即採用。

 身体も大きく、体力があるということで「バイクの免許が取れるまでは自転車で配達できるだろう」と配達店のオヤジは言った。


 いざ働いてみると、めちゃめちゃ過酷な職場だった。

 朝は3時に起きて販売店へ行く。3時は朝じゃなくて深夜だろう!

 そして新聞を満載したトラックがやってきて、ウチが担当する分の新聞を下ろしていく。

 俺たち配達員は総出で新聞にチラシを折り込んでいく。これがつらい!

 チラシや新聞紙で知らない間に指先を切る。軍手を貸してくれるが、軍手なんてしていたら滑ってチラシがつかめない。

 指先を細かく切るのは痛いので、バレないように超回復をしながら作業していた。


 その後、順路表に従い配達に出かける。この順路表が曲者くせもので、順路記号を理解していないと訳がわからなかった。

 不着や誤配、破損等々の失敗があるとペナルティで給料が減らされてしまうので、丁寧に正確に配達しなくてはならない。

 最初の1週間くらいは配達店のオヤジが指導してくれたが、ついてこなくなったらすぐに千里眼を使い、事前に配達経路を確認していた。

 おかげで効率よく配達できた。


 俺はえらく頑丈な自転車を使い、前後に新聞をたくさん詰め込んで配達していた。

 自転車をぐのは超体力で何とかなった。

 ハンドル前につけられたかごに、たけのこのように新聞を立てて数多く積むのだが、最初の頃はハンドルを取られてけそうになることが多かった。

 けると新聞を路上にばらまいてしまうので大変だ。破ればペナルティもある。

 俺の場合はけそうになっても、念動力テレキネシスで押さえつけていたから大丈夫だったけど。


 配達は一軒、一軒の新聞受けに、チラシで厚くなった新聞を破れないように突っ込んでいくので面倒である。

 早朝で人の目がないことを超感覚で確認すると、念動力テレキネシスでパパッと入れ込む。

 おいしいのは集合住宅だ。

 特に開放廊下のあるマンションは、一気に配達できる。

 1階に集合ポストがあるマンションなんて、階段を上り下りしなくていいから最高だね!

 給料は歩合だった。たくさん配ればたくさんもらえる。わかりやすくて良い。

 担当の順路表次第だが、ベテランは集合住宅が多く、俺のような下っ端は一戸建てが多い地区が割り当てられていた。


 普通に考えれば自転車はバイクよりも新聞が積めないし、高校生のアルバイトなので細かい地区を担当させたのだろう。

 ウチの販売店はオヤジの人がよかったのか、配達を終えて帰るとおばちゃんが朝飯を用意して待っていてくれた。


 学校が終わり帰宅して着替え、夕刊配達のため販売店に行く。

 夕刊配達は日曜、祝祭日や年末年始はお休みだが、ほぼ毎日ある。

 朝刊と違い夕刊配達はパートのおばちゃんたちが多い。

 ヤングで初心うぶな俺は、おばちゃんたちにいじくられまくった。

 これも社会勉強だと思い、へらへら笑いながら「やめてくださいよぉ~」といじられるがままにしていた。

 おばちゃんたちは俺の顔が赤らむの可愛かわいかったのだろう。どぎつい下ネタをガンガン言ってきていた。今ならセクハラで懲戒解雇だろ!


 夕刊配達を終え、一通りいじられてから帰宅すると18時になってしまう。

 当時は夕方に女子高生が集まって騒ぐテレビ番組が流行はやっていたが、見る暇がない。

 勉強も習慣になっていたが、する暇がない。何てったって帰宅後は夕飯を食べて風呂に入ったらすぐに寝ないと身体が持たないからだ。

 20時には寝た。それで何とか睡眠時間が確保できる。


 給料はよかった。高校生のアルバイトながら「一人暮らしができるんじゃない!?」というくらい稼げた。

 過酷な労働環境だったせいか、一緒に働いていた人の多くは長続きせずに辞めていった。

 辞めたらすぐに求人広告を出して人を雇わないと残された配達員の負担が大きくなるので深刻だ。

 俺は体力があり、毎月のように変わる配達先もすぐに覚えるので配達部数がどんどん増えていった。

 更に稼ぐには集金や勧誘の仕事もすればいいのだが、まだ高校生なので配達に専念していた。


 まいったのは夏休みである。

 夏休み明けの2学期に「デビュー」しようと思っていたのだが、新聞配達に夏休みはない。

 正確には休刊日が月に1回ある。月曜日の朝刊配達が休めるだけで夕刊の配達はある。36時間くらいの休日なのだ。

 学校は休みなので昼間は時間がつくれるが、海やプールに遊びにいくという気分ではない。何てったって夕刊配達の時間までには帰らなくてはならないので、時間が気になってしょうがない。


 いつもの生活のペースだと図書室で読書をしながら千里眼で女子観察、なのだが夏休みなので学校の図書室は使えない。

 駅のそばにある公立図書館を利用したが混んでいる。

 市民なら無料で利用できて、おまけに冷房が効いているから学生が集まる。

 席がいていないときは仕方がないので家でファミ○ンをしていた。ドラ○エが大ブームで学校でも攻略方法や進捗状況を友達同士で情報交換していた。


 朝刊配達を終えると夕刊配達時間まで、ずっとドラ○エをしていた。

 ヤスが犯人のゲームもしたし、縦スクロールのシューティングゲームでは裏面まで攻略した。すぐに操作キャラが死んじゃうゲームは頭にきた。

 こうして高校生になって初めての夏休みは、新聞配達にファミ○ン、ときどき図書館で読書という毎日で終わってしまった。    

 図書館での読書がなく、ファミ○ンをパチンコに変えれば新聞配達店で働いているオッサンたちと大して変わらない生活だった。

 さすがに悲しくなり夏休み後半にはなるべく千里眼を観光地に飛ばし、夏休み気分を味わった。


 そんなわけで2学期デビューする予定は延期とした。

 10月には誕生日を迎えるので、運転免許が取れる。

 バイクに乗ったときにデビューするのだ!


 バイクの免許は教習所は行かずに運転免許試験場で一発合格を狙った。

 教習所費用がもったいないと思ったことと、超体力、超感覚、そして千里眼があれば筆記、実技とも問題ないはずである。

 16歳の誕生日当日に試験場へ行った。学校は休んだ。母親には「高校の創立記念日で休校なのだ」と言っておいた。

 うそである。でも大丈夫!

 俺は硬派で、ツッパリで、バイクに乗っちゃう悪い男なのだから!


 朝刊配達を終え、新聞配達員のお兄さんにヘルメットを借りてそのまま試験場へ行った。

 俺は原付き免許ではなく大型バイク試験、通称「限定解除」を受験した。

 父親は「俺らの頃は自動車運転免許のおまけで大型バイクの免許もついてきた」といっていたが、俺が高校生の頃は大型バイクに乗るための免許証は難関試験だったのだ。

 筆記試験は普通に合格した。他の受験者が試験場付近で売っている過去問題集を買って読んでいたのを千里眼で盗み見て、覚えただけで大丈夫だった。


 実技は苦戦した。何てったって本物のバイクには乗ったことがなかったのだから。

 運転操作は本を読んで覚えていた。取り回しは超体力で難なくクリアした。

 クラッチをつなぐ操作は初体験だったので戸惑った。

 超感覚、超体力で何とかなると思ったが、何ともならない。頭の中で思考がグルグル回っていたら、突然「高速思考」ができるようになった。

 周りの景色がゆっくり動いている。


「あぁ、これは黒い幽霊社に拉致されて、勝手に改造手術をされて、長いマフラーをなびかせている9番目の試作サイボーグが持っている特殊能力と同じだ・・・」と思った。


 これだけ世界がゆっくり動くのなら落ち着いてクラッチミートもできる。

 超感覚でエンジンやミッションの動きを感じるだけでなく、千里眼で透視すれば目で見て確認できる。

 一本橋いっぽんばしやスラローム、クランクだって念動力でバイクごと身体を支えれば、初心者の俺でも背筋を伸ばしたまま、ニーグリップして走ることができる。

 ある意味、ズル。不正行為だ。だけど大丈夫。

 俺は硬派で、ツッパリで、バイクに乗っちゃう悪い男なのだから!


 即日、運転免許証が交付されたが、試験場からの帰り道にふっと「うん?加速○置を使えばバイクなんていらないんじゃない?」という、疑問が頭に思い浮かんだ。

2016/01/20 誤字訂正

2016/02/07 誤字訂正

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