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中年エスパーの大冒険  作者: 奏多 晴加
第二章 時の過ぎゆくままに
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C1 時の過ぎゆくままに

 お城に入るのだからしつこいくらいの身体検査や身分証明証の提示があると思ったが、ラプラーさんが挨拶するとすんなり入れた。

 2人組は何故なぜかついてくる。お城に戻ったのだから護衛の仕事はおしまいだと思うんだけど。

 大通りとでもいうべき広い通路を歩いていると突然、人が現れた。瞬間移動テレポーテーションしてきたのか?

 とんがり帽子に黒いローブ姿でラプラーさんと同じような格好をしている。


『イサ、面白いやつを連れているな』

『面白いって、誰のこと?』

『そのでかいやつのことだよ』

此方こちらは異世界から来たばかりの『迷い人』です』

『・・・此奴こいつの魔力の大きさは何なんだ?』

『え?』

此奴こいつの魔力の大きさに気がついていないのか?』

『・・・魔力があるのですか?』

『あぁ、莫大ばくだいだ。族長・・・魔王よりも大きいんじゃないのか?』


 突然現れた女性とラプラーさんが会話をしているがポンギー語、しかも早口なので何を話しているのかさっぱりわからない。

 ラプラーさんが俺をジッと見ている。


『しかし魔石や魔方陣のことを知らない様子でしたが』

『自分で魔法が使えるなら魔石や魔方陣はいらないだろ?知らなくても不思議じゃない』

『・・・この方は魔法使いなのですか』

『あぁ、間違いない。これだけの魔力があって魔法が使えない方がおかしい』

『本人は魔法のことなど一言も言っていませんでしたが・・・』

『異世界に来たばかりで警戒しているんじゃないのか?』

『何で・・・』

『イサが怖かったんじゃない?』


 突然現れた女性がケラケラ笑いだした。ラプラーさんは俺を見ている・・・というよりにらんでいる感じだ。一体、何を話しているんだ!?


『では、この方も魔族・・・』

『顔を見たら同族って感じはしないが、な』

『・・・言葉がわからないというので、慌てて連れてきたというのに』

『ん?言葉がわからない?』

『日本語を話していて、ポンギー語はわからないようです』

『そうなのか?』

『ゴーシさん、ちょっと此方こちらに』


 名前を呼ばれたのでラプラーさんに近づいた。


『ほら、分かっているじゃない』

『名前を呼ばれたので来たのでは?』

『おい、デカイの。名前は何だ?』


 突然現れた女性が俺に何かを言っている。何を言っているのかわからないが、とりあえず笑っておこう。にへらっと笑ってお辞儀した。


『・・・此奴こいつは馬鹿なのか?』

『ちょっと変わっていますが馬鹿ではないと思います』

『おい、木偶でくの坊!』


 また何か話しかけられた。これは逆ナンなのか?俺にはアンがいるので誘いにはのらないぞ! アンを抱き上げて頬ずりした。


『・・・此奴こいつは何なんだ』

『言葉が通じていないだけだと思うのですが』

『こんなに魔力があるのにポンギー語が通じないのか!?』

『ですからドーラに言葉がわかるようになる魔法をかけてもらおうと・・・』

『あー、分かった、分かった』


 指をくいくいして俺を呼んでいる。いやいや、だから俺には可愛かわいい娘がいるから。初対面の女性に誘われても困っちゃう。

 アンを小脇こわきに抱え、手を振って「NO((ノー))」と誘いを断った。


「あの、ゴーシさん・・・」

「はい?」

此方こちらが魔法使いのドーラなんです」

「この人が!?」


 魔法使いのドーラと紹介された女性が俺に近づき、背伸びをして人差し指を俺の額にちょんと当てた。


「どうだい?これで言葉がわかるだろ」

「あ!」


 驚いた!もっと仰々しい儀式をするのかと思っていたのに、ちょんと触っただけで言葉がわかるようになった!


「お代は・・・今回はサービスしておいてやろうか」

「え、いいんですか?」

「この世界に来たばかりで金なんて持っていないんだろ?」

「日本のお金なら少しは・・・」

「そんなもん、ここじゃ役に立たないからな」

「じゃあ、せめてものお礼にこれを・・・」


 ポケットから板チョコを取り出して差し出した。何かあったときの非常食代わりに持ってきたが、何事もなくお城に到着したので食べなかった。


「何だい、これは?」

「チョコレートです」

「チョコレートって何だ?」

「お菓子です。甘くて美味おいしいですよ」

「ふーん、じゃもらっておくわ」


 チョコレートをドーラに手渡したとき、気がついた。

 ん? ん? ん?

 頭の中になんかいる!

 多分、普通の人では気が付かないくらいの小さな気配だ。顔はニコニコ笑いながらも意識を集中して違和感の正体を確かめる。

 どうやら俺の意識を誰かに向けて発信しているようだ。頭の中に盗聴器を仕掛けられたイメージ。思い当たるのは先ほど魔法をかけられたとき、だ。

 此奴こいつは俺をハッキングしたいのか?

 精神支配マインドコントロールなら俺もできるんだけど。

 この盗聴器は俺の頭の中を動き回って情報収集するようだ。両手ですくい上げるイメージで捕まえた。こりゃ虫だな。悪い虫だ。

 発信ルートがぼんやり見えてきた。ワイヤレスではなく糸電話みたいな感じだ。


(俺相手にこんなことしやがって・・・後悔させてやる!)


 思いっきりエロいことを考え、そのイメージだけを虫に流し込んだ。


「え、え、え」

「ドーラ、どうしたの?」

「あ、いや、え、え」


 ドーラの顔がみるみるうちに赤くなってきた。耳まで真っ赤かだ。

 更にエロいイメージを虫に流し込んだ。まだVHSとかβというカセットテープの時代から俺はエロいビデオをていたんだぞ!エロさの年季が違うのだ。


「あ、あ、えー?そんなこと・・・」

「ドーラ、熱でもあるの?」

「いや・・・。イサ、ちょっと・・・」


 ドーラはラプラーさんを廊下の隅に呼び寄せ、何か耳打ちしている。


彼奴あいつには気をつけろ」

「魔族かもしれないから?」

「いや、彼奴あいつは・・・エロい!」

「え?」

「四六時中、エロいことばかり考えている。頭の中はエロいことでいっぱいだ!」

「まあ、男の人ですし・・・」

「違う!普通の男の100倍以上エロい!とにかく何かエロいことをされないように気をつけろ。彼奴あいつの前では気を許すんじゃないぞ!」

「・・・ゴーシさんは紳士ですよ」

「はぁ?彼奴あいつはゴーシというのか?」

「えぇ、カルロス・ゴーシと名乗っていただきました」

「ふーん」


 ドーラが俺に近づいてきた。俺のエロいイメージで身体が火照ってきたのか?でも、相手してやらないぞ!俺にはアンという可愛かわいい娘がいるのだ!


「真面目そうな顔をして、本性はどスケベなのね。一ノ瀬紀之(・・・・・)さん」

「え?」


 何で此奴こいつが俺の本当の名前を知っているんだ!?俺が頭の中の虫に気がつく前に個人情報を盗んでいたのか!

 俺は両手で包んでいる虫を押し潰した。


「ひっ!」


 やはりドーラと虫はつながっていたようだ。虫を潰したら驚いた顔をした。


「人の頭の中に無断で入ってきちゃ駄目だろ」

「ふふふ、気がついていたんだ」

「当たり前だ、初対面なのに失礼なやつだな」

貴方あなたのことをもっとよく知りたくて・・・つい」


 ドーラが撓垂しなだれかかってきた。今度は色気攻撃か。しかし俺には効かない!

 何故なぜならば若い頃、散々キャバ嬢にやられてひどい目にあって免疫がついているからだ!


「俺のことを知るには名刺の裏に書かれているレジュメをみてほしかったんだけど・・・。すまない、ちょうど名刺を切らしていて・・・」

「ふふふ、いいのよ。これからゆっくり、紀之(・・)さんの口から聞かせてもらえれば・・・」

「おいおい、まだ午前中だぜ」

が落ちるのを待っていたらあたし、おばあちゃんになっちゃうわ」

「そんなに早くババアになるやつの相手はしたくないんだけど」

「ちっ!」


 ドーラににらまれた。って、勝手に俺の頭の中をのぞいたお前が何でにらむんだ!?

 逆ギレだぞ。


「おい、イサ!此奴こいつの本当の名前は一ノ瀬いちのせ紀之のりゆき、かなりエロいオヤジだ!そこの2人にも言っておくが、此奴こいつには気をつけろよ。油断していると赤ちゃんができちゃうぞ!」


 わ!マジで逆ギレしやがった!有ること無いこと、言いやがって!


「何を大声で・・・」

「この国では適齢期の男が不足しているから、はらまされることは別にかまわないのだが・・・」

むしろ子種があるなら、彼方此方あっちこっちにばらいてほしいものです」


 はあ?何を言っているんだ、此奴こいつら。若いお嬢さんが言う台詞せりふじゃありません!お父さんは悲しい!


「・・・ゴーシさんは一ノ瀬さんというのですね」

「え、あ、ああ。ゴーシはビジネスネームで本名が一ノ瀬なんですよ」

「・・・ではこれからは一ノ瀬さんとお呼びします」

「あはははは、一ノ瀬でもゴーシでも、どっちでも構わないよ、はははは」


 ラプラーさんはちょっと怒っているのか?


「・・・一ノ瀬さん」

「はい・・・」

「城まで来たのですから、王様に会っていきましょう」

「え!?」

「いってらっしゃーい!」

「ドーラも一緒に来てくださいっ!」

「え、あたしも?」

「どうせ城の中でプラプラしているだけなんでしょ?」

「あたしは忙しいのよ、回復魔法を頼まれているし・・・、そうそう、城壁の修復も頼まれているのよ」

「後にしてください!」

「・・・はい」


 うん、ラプラーさんは怒ると怖いな。これ以上怒らせないように気をつけよう。


「では謁見の間に案内しましょう。コーメ、先に行って侍従長に話をつけておいてくれ」

「了解しました」


 金髪さんに言われてひなが走っていった。まいったな、王様ってこの国で一番偉い人なんだろ? 偉い人は苦手なんだよな。


「行きましょうか」


 金髪さんが先頭を歩いて案内してくれている。


瞬間転移魔法(ウォープドライブ)で行けばあっという間なのに・・・」

「王様だってお支度があるでしょ、いきなり現れたら困ってしまうじゃない」

「あたしはいつも瞬間転移魔法(ウォープドライブ)だよ」

「・・・だからドーラは礼儀知らずって言われているのよ」

「はっ、関係ないね」


 ラプラーさんとドーラは何だか親しそうだ。ドーラはラプラーさんのことを「イサ」とファーストネームで呼んでいたし。


「あの、ラプラーさん・・・」

「はい?」

「あん?」


 2人同時に返事した。いやいやドーラは呼んでいないし。


「2人はお知り合いなのですか?」

「知り合いも何も・・・イサは話していなかったのか?」

「魔法をかけてもらったら、すぐに帰るつもりでしたので・・・」

「ふーん。イサはあたしの妹だよ」

「はぁっ!?」

「ドーラはワタシの姉なのです」

「姉妹だったの!?」

「顔が似ているだろ?」


 全然似ていない。ドーラはがらっぱちだがラプラーさん・・・ではなくイサさんはおっとりとしたお嬢様というイメージだ。イサさんの格好が魔女っ娘なのは、魔法使いだったからなのか!?


「イサさんも魔法使いなんですか?」

「えぇ、まぁ、ボチボチですが・・・」

「イサが使える魔法なんて大したことないよ。一族の落ちこぼれだし」

「そうなんですか」

「お恥ずかしながら・・・」

「あたしは大魔法使いだぞ。あっちこっちの国を旅して魔法で人を助けたり、道路を整備したり、荒野を開墾したりと大忙しなんだ」

「へぇー」

「ドーラは魔法でお金を稼いでいるのです」

「旅の行商人みたいなものか」

「馬鹿野郎!そんなもんと一緒にするな!あたしが相手にするのは国だ。国に請われて仕事をしているんだからな!何処どこの国へ行ってもドロシー様、ドロシー様って敬われているんだぞ!」

「ふーん」


 魔法使いってことは、確か魔族なんだよな?姉妹ってことはイサさんも魔族だったのか。

 魔族と人とは殲滅せんめつ戦争をしているってイサさんは話してくれたけど、どうなっているんだ?

※ドーラ(Dora)はドロシー(Dorothy)の愛称です。

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