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中年エスパーの大冒険  作者: 奏多 晴加
第一章 異邦人
12/57

B7 人生はきまぐれ

「城へは通訳兼案内人としてワタシも一緒に行きます」

「ラプラーさんも?」

「はい」


 城に行くメンバーは俺、アン、ラプラーさん、護衛の金髪さんとひな5人(・・)か。


「それと帰ってきて間もないのですが、タームも連れて行きます」

「タームも!?」

「タームは役に立ちます。ひとりで城まで往復できますし」

「はぁ」


 これで5人(・・)と1匹か。産まれたときから自由な恐◯探険隊と同じだ。


「ここから城まではどれくらいの距離なんですか?」

「荷馬車で1日くらいです」


 さっき一緒に歩いたとき、荷馬車は時速8~10kmくらいだったから8~10時間歩いたとして80km前後。東海道線だったら東京駅から小田原駅くらいか。

 高速道路があれば俺の車で片道1時間くらいだけど、未舗装の凸凹道じゃ3~4時間はかかりそうだ。

 タームは一昨日の午前中にここを出て、昨日の午前中に城についた。そのまま帰路について一晩中ロバを走らせれば今朝になる訳か。


「じゃ、すぐに出発ですか?」

「はい。ロバも馬も一晩中歩いていたので草臥くたびれていますから、村で馬を借りて出発しましょう」

わかりました」


 そうだった。移動手段はロバや馬だ。ずっと歩きっぱなしと言うわけにはいかない。途中で休み休み来たのだろう。それなら城まではここから50km前後かな? 案外近いのかもしれない。

 だったら俺の車を出すか?

 燃料も高坂たかさかSAサービスエリアで給油してから高速道路を100kmくらい走ったから、あと50リットルは残っている。

 キャンピングトレーラーを外せば燃費も良くなるから城までの往復くらいできるだろう。


「あの、俺の車で行きませんか?」

「え?」

「4人までなら乗れますよ」


 俺としてはタームは乗せたくない。女3人までなら許す。大体、タームを乗せたらアンの座る場所がなくなってしまう。


「あの荷車をいていくのですか?」

「いいえ、キャンピングトレーラーは置いていきます」

「荷物は何処どこに・・・」

「荷室が広いから4人分くらいなら大丈夫でしょう」

「誰かひとりは乗れないのですね」

「あぁ、タームは置いていきましょう。帰ってきたばかりで疲れているでしょうし」

「でも何かと役に立つので連れて行きたいのですが・・・」

「俺の車なら、多分半日もかからないでお城まで行けると思います。今から出発すれば日没までには戻れますよ」

「え!そんなに早く戻れるんですか」

「道さえ舗装されていればもっと早いと思います」

「・・・そうですか、ではお願いしましょうか」

「はい、お任せあれ」


 俺は早速キャンピングトレーラーを外し、車の荷室に置いてあった使わないであろう荷物をキャンピングトレーラーに移した。持って行く物はナイフ2本とペットボトル2本の水くらいでいいだろう。


「ゴーシさん、これは入りますか?」


 ラプラーさんの後ろに馬のくらを抱えた2人組が立っている。


「それは置いていってください。それこそ明日にでもタームに届けさせればいいじゃないですか」

「そうですか、ではこれは?」

「ヘルムも盾も邪魔になるから置いていってほしいのですが・・・」

「食料は?」

「自分で飲む分の水だけを用意してください」

「・・・かめは乗せられますか?」

「あー、無理。かめは勘弁して」


 仕方ない。俺はキャンピングトレーラーのゴミ箱から、捨ててあった空のペットボトルを取り出した。


「これを差し上げますから、この中に飲み水を入れて持って行ってください」

「・・・ありがとうございます」


 身体ひとつとペットボトルに水を入れるくらいなんだから、すぐに出発できると思ったが、女の支度は時間がかかる!


「お待たせしました」

「・・・結局、剣は持って行くんですね」

「護衛が役目の方ですから、武器がないと・・・」

「はぁ。座席では邪魔になるから荷室に置いてくださいね」

「それだとすぐに抜けないのでは?」

「道中はそんなに危ないんですか!?」

「いえ・・・まぁ・・・」

「はっきり言ってください!」

「あ、あ、あの、時々・・・本当に時々なのですが魔物が出ます・・・」

「はぁ? 魔物ぉ?」

「動物が大地から染みだしている魔力にさらされて、時々魔物に変化してしまうのです」

「え!? 人間は大丈夫なんですか?」

「人間は大丈夫ですが、あの、その・・・、動物でも一部の種類だけ・・・ちょっと変化しちゃって・・・」

「はぁ」


 歯切れが悪い。これから一緒に出かけるのだからはっきりと教えておいてもらいたい。


「つまり道中に魔物が出る場合があるので護衛が必要なのだ、ということですか?」

「はい」

「タームはひとりでも平気なのでしょ?」

「タームは勘が良いので魔物が近づく前に逃げ出せます。それに・・・いざ襲われても剣で闘えます。ああ見えて俊敏で強いんですよ」

「ふーん」


 タームが闘って勝てるんだったら俺でも勝てる。それにロバがいている荷馬車と違って俺の車のエンジンはフランス製のディーゼルエンジンだ。

 休みなく走れる分、魔物も追いついてこないだろう。


わかりました。剣は座席に持ち込んでも良いですが車内では絶対に抜かないでください。それと剣を立てておくと床に穴が開いちゃいますから寝かせておいてください。それと手甲や具足、肩当てはシートがほつれちゃいますから外してください。それと・・・」

「ゴーシさん・・・」

「はい?」

「護衛の2人が不安になるので、少しくらいの防具は認めてあげてください」

「はぁ」


 結局、盾だけ荷室に入れてほぼフル装備のまま、金髪さんとひなは後部座席に座った。

 助手席にはかばんを抱えたラプラーさんが座った。


かばんも荷室に入れましょうか?」

「いえ、大事なものですからこうしておきます」


 かばんと言ってもドクターバッグのような大きなものだ。重くないのかな?

 アンは後部の中央席で我慢してもらった。ここなら前も見えるから少しの間だけ我慢してくれ。

 シートベルトは・・・説明が面倒だし、この世界では道路交通法もないだろうからしなくていいか。俺が自動車運転免許を取得したばかりの頃はシートベルトをしなくても良かったし、後部座席のシートベルト義務化なんてつい最近のことだ。


「では出発!」

「はい、よろしくお願いします」


 俺の車は凸凹の山道を下った。

 しばらく走ると麓の村が見えてきた。ここまでの道は俺の「疑似分体」が確認している。

 村の道もタームの荷馬車が通れるくらいだから幅は十分にあったが、ところどころに穴があって走りづらい。

 村人が好奇の目で見ていたが先を急ぐのでそのまま通り過ぎた。


「この道標を右に行ってください」

「はい」


 ここから先は知らない道だから「疑似分体」を先行させておいた。

 城へ向かう道は比較的整備されていた。「すべての道はローマに通ず」という言葉があるが、この国の中心にお城があるから街道整備をしているのだろう。

 村の道は「田舎の畦道あぜみち」という感じだったが街道は道幅も広く、ところによっては石畳が敷かれている。

 これならある程度スピードを出しても大丈夫そうだ。


「ーーーーー」


 金髪さんが何かを言っている。


「何て言っているの?」

「馬の方が速い・・・と」

「・・・」 


 お前の馬は1日かけて50kmを走るんだろ? 一時的な速度を比べるんじゃなく走った距離とその平均速度を比べろよ!

 でもちょっとムカついたのでアクセルを踏み込んだ。

 山道よりはマシなだけの未舗装路を時速40~50kmで走ったがかなり揺れる。

 金髪さんたちのことはどうでもいいが、アンが酔ってしまうのではないかと心配になり少し速度を落とした。それでも時速30~40kmは出ている。


 この速度で走り続けられれば城までは2時間もかからないと思う。

 先行させている「疑似分体」では魔物らしき生き物を見つけられない。


「ラプラーさん、魔物が見当たらないのですが」

「魔物に襲われるのは休憩しているときや寝ているときなので・・・」

「走り続けていれば大丈夫ってこと?」

「馬やロバには休憩が必要なのです、この車のように休憩なしで走り続けることができません・・・」

「そうですよねぇ」


 バックミラーでちらっと金髪さんを見た。窓ガラスにへばりつくように外を見ていやがる! お前は初めて新幹線に乗った子供か!

 お前の馬より俺の車の方が優秀だろ? 俺は完全勝利のため、燃費を良くするために切っていたエアコンを入れてやった。


「ーーーー!ーーーーー!」

「何て騒いでいるの?」

「いきなり冷たい風が出てきた・・・と」

「満席でちょっと暑かったからものですから、冷房を入れました」

「冷房?」

「あぁ・・・冷たい風で車内の温度を下げています」

「ーーーーーーー」

「ーーーー!ーーーー!」

「冷凍魔法なのか、と聞いています」

「魔法ではなく科学で技術でテクノロジーなのです!」


 ラプラーさんがどうやって訳するのか、試してみた。


「ーーー」

「ーーー!」


 何か、とても短い言葉で訳されたな。


(ついでにビデオも再生して驚かせてやろうか。どうせナビも使えないし)


 アンのお気に入りの、銀座にある老舗が考案したパンをモチーフとしたアニメのDVDを再生した。

 俺も結構好きな主題歌が流れ出すとアンだけでなく、ラプラーさんたち3人も食い入るように画面をている。


(大人しくなって、いっか)


 俺が好きなのは冷凍庫みたいな名前をした悪役と同じ声優さんが演じているキャラクターだ。連邦軍の補給部隊を率いている女隊長と同じ声の主人公に殴られるのはお約束なのだが「はひふ○ほ~」でいつも笑ってしまう。

 DVDを再生したタイミングが悪かったのか3話目の途中でお城が見えてきた。


「あれがこの国のお城ですか?」

「そうです。カイア城です」


 お城までは1時間半で着いた。何だかんだで「木造平屋の分校」から50kmくらいしか離れていない。東海道線で言ったら東京駅から藤沢駅までの距離と同じくらいだ。

 タームはこの距離を1日かけて歩いたのか。しかも帰りは夜通し真っ暗な道だ。御苦労なことだ。

 大きな門の前にいた警備の兵士にラプラーさんが声をかけると、すぐに門が開いた。

 ここから先がお城なのか。そう思ったが、お城らしき建物はまだ先にあった。ここいらは「城下町」なのであろう。城壁で守られている分、敵からの攻撃が届かない。


(敵って、魔族らしいよ)


 門を過ぎてからはぐっと運転が大変になった。道の真ん中を人や馬車がのんびり歩いているからだ。いてしまわないように気をつけて運転した。

 石畳の坂道を登るとお城の真ん前に到着した。いよいよ魔法使いとの御対面か。おら、わくわくしてきたぞ!


「ーーーーーーーーー」

「ーーー」


 ラプラーさんが衛士えじに声をかけると木製の跳ね橋が閉じ、お城に入る道ができた。木製の橋の上を1690kg+5人分(・・・)の重さが通ると崩れ落ちそうだったので念動力テレキネシスで車を軽くして通った。


「ここから先は馬から下りて歩くのです」


 ラプラーさんがそういうのでみんな、車を降りた。馬駐うまとどめはあるが車が汚されちゃいそうだったので建物の端にめてドアロックしておいた。

 お城に入ると言ってもいきなり王様やお姫様に会うわけではないと思うから、服装は気にしなくてもいいな。魔法使いに会いに来たんだし。


「行きますか」


 俺たちは城の中に入っていった。

2016/01/20 誤字訂正

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