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中年エスパーの大冒険  作者: 奏多 晴加
序章 少年時代
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A1 少年時代

 俺が生まれたのは太平洋たいへいよう戦争が終わってから20数年後。


 アラフィフとなった現在から思えば、成人してから現在に至るまでがほぼ同じ期間だから「俺が生まれるほんの少し前まで戦争をしていたの!?」という感覚である。

 20年前なんて中高生からしてみれば生まれる前の話だが、50年近く生きていたら「つい、この間のこと」なのだ。

 若い頃には気がつかなかったが「戦争を知らない子供たち」という、言葉や歌があるくらいなのだから、俺の生まれた頃はまだ戦争経験者も多く、国の復興という目標の下に大人たちはしゃかりきに働いていたのだろう。日本は急速に経済発展していった。


 そんな高度成長期に俺は普通の家庭に普通に生まれた。特に特徴も特技もなく普通の男の子。

 ウルト○マンが好きだったが宇宙人より地球人、巨人になるより普通に大人のサイズが良いと思っていたので、大人になったら仮面○イダーになりたいと思っていた。

 幼稚園児の頃は毎日のように変身ごっこで友達と遊んでいた。みんながみんな、悪を倒すヒーロー役がよくて3号、4号、5号・・・と、勝手に仮面○イダーを増やし、怪人役は友達の家で飼われていた大人しいおじいさんワンコがつとめていた。

 端から見れば幼稚園児が集団で老犬をいじめていたのだから、現代社会なら動物愛護団体から保護者に抗議が来てもおかしくない。まぁ大らかな時代だったということで勘弁してもらいたい。


 元気で明るく、幼稚園には友達も多かった。

 年長ねんちょうさんになる頃には大人になっても仮面ラ○ダーになれないことにも気づいていたし、毎年クリスマスになるとプレゼントをくれるのは父親だということも知っていた。

 少し早熟だった、悪くいえば「ませたガキ」だったのかもしれない。

 俺を「ませたガキ」にしたのは父親だったと思う。テレビでプロレスをていても「台本があってどっちが勝つか決まっているんだ!」、引田○功さんが演じる世紀の大脱出にハラハラしているのに「脱出を失敗していたら、新聞に大怪我けがや死亡の記事が載っている!」等と夢も希望もないことを幼い俺の前で言っちゃう人だった。


 その父親の「開いた口が塞がらなくなった」のが超能力である。

 特番出演のために海外からやってきた超能力者が力を込めるとテレビ越しなのに家にある壊れた時計が動き出し、スプーンを擦るだけで曲げた。

 そして「テレビの前の皆さんに力を送ります。御家庭でもスプーンを用意して曲げてみてください」と言い出した。


 そんな面白そうなことはやってみたくなるよね?

 (うち)でも家族そろって「曲がれ!曲がれ!」と念じながらスプーンを擦りだした。

 幼かった俺は「念じれば必ず曲がるはず!」と真面目に信じ、一心不乱にスプーンを擦り続けた。


 すると・・・。


 鉄製のスプーンはグニャリとあめ細工のように曲がった。

 本当に曲がってしまったのである。

 両親は驚いて大口を開けたまま俺の曲げたスプーンをしばらく眺めていた。

 そりゃそうだ。超能力者はスプーンの柄の部分を曲げていたのに対して、俺はすくう部分を曲げていたのだ。大人だって腕力では曲げることが難しい部分である。


 テレビの中で日本全国から「スプーンが曲がった!」という報告の電話が殺到していたが、(うち)でも未就学児童がスプーンの1番硬い部分を曲げていたのである。


「お父さん、お母さん!テレビ局に電話しよう!!」


 しかし我に返った両親は電話をさせてくれなかった。

 母親は「たまたまスプーンが曲がったからって、いちいち電話しなくてもいいの!」といい、父親は「本当に超能力があるのならお前、大学とか研究機関で解剖されちゃうぞ!」と怖いことを言い出した。

 父親いわく「そんな不思議な力があれば、お前のような子供は実験材料にされちゃうんだぞ。昔戦争があったときには敵国の捕虜を生きたまま解剖してなぁ・・・」と、解剖の様子を生々しく話した。

 幼かった俺は知らない大人が突然(うち)にやって来て問答無用に連れ去られるのではないかと不安になり、外に遊びにも出られなくなって夜は怖くて眠れなくなった。


 今から思えば父親は子供がスプーンを曲げられるくらいのことでテレビ局や週刊誌の記者が(うち)に押しかけ、今までの穏やかな生活が壊されるのがいやだったのだ。だから怖い話で脅したのだと思う。

 素直に「知らない人に超能力があるって言っちゃ駄目だよ」と諭してくれなかったのは、当時の俺はそんなことを言われても御近所さんや友達に「俺って超能力があるんだぜ!」と隠れて自慢するような「くそガキ」だったからだと思う。

 そういう性格を十二分に理解していた両親は口止めには一番効果的な怖い話をして脅したのだ。

 母親も同じ思いだったのだろう。未就学児童にはまだ早い、今ならR-15規制が入るような生々しい解剖の話を全く止めなかったのだから。


 小学校に行くようになっても世の中は超能力ブームだった。

 給食で出てくる「先割れスプーン」はみんなが力尽くで曲げるので、どれもグニャグニャになっていた。

 俺は自分の持つ超能力が他人に知られるのが怖くて「先割れスプーン曲げ大会」に一切参加しなかった。先生が「給食のスプーンを曲げるのはやめましょう」と毎日のように注意していたのをよく覚えている。


 超能力ブームではスプーン曲げ以外でも念写やESPカードを使った透視も流行はやっていた。

 ESPカードの模様に仕掛けがあることは大人になってから知った。カラクリがわかればESPカード透視は誰にでもできると思う。

 俺が試してみたのはトランプの透視である。当時は一般小学生がESPカードなど手にいれる方法がなかったからだ。

 トランプを伏せて一生懸命見つめているとうっすら模様が透けて見えてきた。


 透けて見えるから「透視」なんだね。


 学校が終わるとまっすぐ(うち)に帰って毎日のようにトランプを透視して遊んでいた。おかげで少し意識するだけですぐに透視ができるようになった。

 念写はインスタントカメラなんて持っていなかったので試せなかった。

 スプーン曲げは両親から禁止されていたので、お道具箱に入っていたハサミを曲げて遊んでいた。

 スプーンは母親の管理下である台所の食器棚にあったが、お道具箱の中のハサミは俺のものだったので好きに取り出すことができたからだ。

 ハサミは1度曲げるとまっすぐに曲げ直さないと使えなくなる。

 ただ2枚の金属片を重ね合わせてもハサミとしては使えない。隙間を調整して刃と刃を1点で重なるようにしないと切れないのだ。

 それに気づくまでハサミが使えなかった。図工の時間ではおそるおそる隣の席の女の子に話しかけ、ハサミを借りていた。


 ハサミを曲げたり直したりを繰り返していて遊んでいたら繊細な作業を超能力でできるようになったが、しばらくしたらぽっきりと折れた。

 新しいハサミが欲しかったが超能力遊びをしていたことが両親にバレて叱られることを恐れた俺は言い出せずにいた。

 図工の時間で紙を切るようなことがあるたびに隣の女の子にハサミを借りていたが、毎度毎度のことなので「いい加減ハサミを買ってもらったら!?」と拒否されるようになった。


 困った俺は「超能力で紙を切ることはできないか?」と思うようになった。

 もちろんそのまま何もないところで紙が切れだしたら超能力がバレてしまう。

 折れたハサミを紙にあてて、紙を切るイメージを強くしていく。(うち)での自主練習のおかげですぐに実践できるようになった。


 ここまでイメージしたことが何でもできると自分でも超能力者だという自覚が芽生えてくる。

 当時のテレビは夕方に子供向け番組の再放送をしており、そこで「バ○ル2世」という超能力者が主人公のアニメを夢中になってみていた。

 俺には3つの(しもべ)はいなかったが超能力はある。

 「バ○ル2世」を真似まねて超体力や超感覚、フライング能力など一通り試してみた。


 超体力は身体をひたすら強くするイメージ、超感覚は透視に似たイメージで聴覚を研ぎ澄ませた。フライングはスー○ーマンやウル○ラマンが自由に空を飛びまわっていたのでイメージがしやすかった。

 テレパシーやエネルギー衝撃波、催眠術は相手がいないとできない技であり、誰かに超能力者とバレたらいけないと思っていた当時の俺ではできるかどうか、わからなかった。


 超体力の実践は学校でもできた。授業中でも休み時間でもひたすら身体を強くするイメージを持ち続けた。

 おかげで小学校低学年なのにブルー○ーカーの広告に出ているモデルさんのような体つきになっていた。ひ弱な僕も超体力のおかげでこのとおりさ!

 フライングでの飛行実験は目立つため控えていた。子供が空を飛んでいたらUFOどころの騒ぎじゃなくなるし。

 まだ小さかった俺は自分の部屋を持っておらず、母親に気づかれないように座布団に触れるか触れないくらいで身体を浮かして居間のテレビを見ていた。


 小学生の間はこのようなことを毎日行っていた。

 筋肉は運動で鍛えられる。頭脳は勉強で鍛えられる。

 起きている間はずっと何かしらの超能力を使っていたので、成長期の俺はとんでもない自己鍛錬をしていたのだ。


 そして思春期である。


 中学生になった俺は女の子に興味津々である。

 「女の子をみたい」、「スカートの中をみたい」、「着替えをのぞきたい」と悶々もんもんとする毎日で、考えることの80パーセント以上は女のことだった。

 服の上からでも透視能力で裸を見ることはできる。しかしずっと凝視していたら女の子に気味悪がられる。


「透明人間になりたい!」


 思春期の男子なら1度は思い描く「おとこの夢」である。

「透明人間になりたい」と強く念じてみたが、結果的には透明人間にはなれなかった。

 身体が透明になる、というイメージがどうしてもできなかったのだ。本当に全身が無色透明になったら網膜に映像が映らないので「のぞき」なんてできないし。


 しかし「思う念力岩をも通す」なのだ。

「みたい」、「みたい」と思い続けていたら、意識を飛ばして遠くの景色を見ることができるようになった。千里眼の発動である。

 それほど遠くに意識を飛ばせなかったため、放課後は閉館時間まで図書室で本を読みながら部活に励む女子をていた。そりゃもうウハウハだった。


「超能力者でよかった~!!」


 初めて自分の才能に感謝した。



 3年生になると千里眼はかなり遠くまで飛ばせるようになっていた

 本人が現場にいないのだから犯罪ではない。カメラを仕掛けて写真を撮っているわけではないからセーフ!

 と、自分を納得させて近隣の高校にまで忍び込み、女子高生のお姉さんたちまでのぞいていた。いや、これはのぞきじゃない。女子観察なのだ。崇高な思考で行っている神聖な行為なのだ。


 毎日のように図書室にいるし本を読むことも好きだったので、女子観察に満足すると文学作品から科学技術書まで何でも読んで知識に変えていった。

 なぜか成績はよくて、学年でもトップクラスだったので進路相談では担任から進学校を薦められた。

 俺は千里眼を使えばカンニングし放題であり、筆記試験だけで入学判定をしているのであれば、今すぐにでも日本最高学府に合格できる自信があった。

 そのためバスや電車を乗り継いで通学する進学校よりも、歩いて通学できる近所の公立高校を選んだ。こちらの方が楽だからだ。

 母親も俺が良いのであれば問題ないと言ってくれた。

 担任だけは「もったいない、もったいない」とずっとつぶやいていたけど。


 また成長期でもあり、普通の人の数倍もスケベなことに毎日脳みそを使っていたせいなのか、食欲も旺盛となった。両親が驚くほど御飯を食べた。

 女の子は背の高い男子に憧れると本で読んだので、超体力で身長が伸びるイメージを持ち続けた。

 成長に骨が追いつかず、全身が痛かった。寝ていると骨の伸びる音が聞こえるようだった。

 あまりの痛さに超能力で何とかならないかと思い、治療のイメージを強く持ち続けていたら、超回復ができるようになった。

 超体力で成長を促進し、超回復で成長痛を和らげる。


 中学校の卒業式では身長が180cmにもなっていた。

 超体力の鍛錬で筋肉もついた。ぱっと見だったら若手プロレスラーのようだ。

 超能力鍛錬を毎日、続けていたので敵が来ても返り討ちにできそうだ!


(敵って誰よ?)


 卒業式を終え、(いえ)に帰って急に「高校デビュー」を決意した。女子観察ばかりしていた反動だろう。男女交際がしたくなったのだ。というか彼女が欲しい。

 約1ヶ月ある春休み期間中にイケてる男に生まれ変わり、モテモテ男子になるんだ!

 早速「イケてる男子高校生」を調査した。まずはモテる人を真似まねすることから始めるのだ。

 千里眼を東京とうきょう原宿はらじゅくに派遣した。俺の中では当時、イケてる男子は原宿はらじゅくにいるものだと思っていた。


 原宿はらじゅくを調査しつつ、渋谷しぶや池袋いけぶくろも見ておいた。

 都内だけでなく横浜や千葉、埼玉に至る広範囲を調査した。ここで人生の選択を誤った。

 素直に身の丈に合った「知的で優しい委員長キャラ」でデビューしておけばよかった。

 身体も大きくなっていていたので、勝手に喧嘩けんかも強くなっていると考えた俺は「硬派なツッパリくん」でデビューをしようと決めてしまった。

 当時は横浜銀○とか、ビーバップ何ちゃらとか、なめんなよ!とかが流行はやっていたんだ!!


 所謂いわゆる「黒歴史」、忘れたいというよりはやり直したい過去である。

2016/01/09 誤字訂正

2016/01/15 ルビ、脱字訂正

2016/01/18 脱字訂正

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