運命の再会(?)
「ようし、お前らぁ~、数学のテストを返すぞぉ~!」
朝っぱら酔っ払いじみたから教室内に声が響き渡った。ここは東京都の市立高校、城ヶ崎高校の2年E組の教室。今は1学期期末テストのテスト返し真っ最中である。
「石田~、植野~……」
次々と順番が呼ばれていく。
「葉加瀬~」
(6点か……もっととれると思ったのにな)
テストを受け取った男子高校生(彼女いない歴=年齢)は、ゆっくりと自分の席に着いた。クラス平均62点のテスト。彼にとって別に悪い点数じゃない。だが、彼はどこか満足できない。
おっと、紹介が遅れた。彼の名は葉加瀬賢人。日本人の母親とアメリカ人の父親を持つ高校生だ。といっても、父親のアメリカ人とは長い間会っていない。彼は幼少の時にアメリカから日本へ引っ越してきたらしい。だから顔も、背丈も、好きな女のタイプも、向こうで何やってんのかも彼は全く知らない。
「賢人~、テストどうだった?」
気がつくと一人の女子が顔を覗きこんでいた。ポニーテールにされた艶のある黒髪、ふくよかなバストときゅっとしまったウェストを兼ね備えた抜群のスタイル持ち主、幼馴染みの御堂千春だ。
「どうって? 別にフツーだけど」
「えっ、何それ? フツーって。ごまかさないでせて見なさいよ」
するといきなり、手からテストが引ったくられた。
「6点……。確かにアンタにとってはフツーね。まぁ、バカ賢人にしては低いんじゃないの?」
「はぁっ?! 俺はバカだよ! 今さら知ったのかよ……てか、お前人を馬鹿にしてんだから、俺より点数高いよな?」
「フッ、クラス一番の96点様に何を言う!」
ドヤ顔をして見せる千春。
(そうだよね、やっぱりそうだよね……)
「ところでさぁ~、賢人、最上君のこと何か知らない?」
「最上? 別に何も知らねぇけど」
最上ってのは彼のクラスの一人。理由は分からないが、2年の途中からグレてしまった。当然賢人もクラスメートの一人として、彼の消息は気になっていた。
「でも、なんでまたアイツのことを?」
「うん、なんか変な噂があるのよ」
「変な噂?」
「彼、危ないバイトしてるらしいのよね。あ、もちろん噂だよ」
「でもなんか、心配だな……」
「うん……。変なことに巻き込まれてなければいんだけど……」
午後16:30、特に部活にも入っていない賢人は商店街にあるカラオケ店でのバイトを終え、帰宅しようとしていた。既に日の落ちた空は6月の空にしては珍しく、鮮やかな赤に染められていた。
「すいません、お先に失礼しまーす」
そう言ってカラオケ店を出た直後、賢人は見たことのある後ろ姿を目にした。
(あれ? あの後ろ姿……。あの人……、あっ! もしかしたら…!)
「最上? もしかして最上じゃないか?」
「えっ? 山下? 山下なのか……?」
「山下? えっ、誰だよそれ? 最上じゃ……? あ、さーせん、人違いでした」
最上だと信じていた少年が走り去るを眺めながら、賢人は思った。賢人は商店街を後にした。
帰宅すると妙な違和感を覚えた。
(ん? このニオイ、タバコ……? でも、ウチにはタバコなんか吸う人はいないし。誰か来てんのかな? まぁ、いいや)
「だだいまー。今バイト終わった」
「おかえりー」
(え? ちょっと待てよ。この声聞き覚えねぇぞ)
明らかに聞き覚えのない声、それも男の人の声だ。高くてヘリウムガスを吸ったようなその声は、ファンキーとでもいえばよいか。親戚や近所の知人の中にも、声の主として思い当たる人はいなかった。居間から聞こえてきたその声の主を確かめようと賢人は、居間に入った。
次の瞬間、彼の視界には見たこともない男の顔が入ってきた。明らかに日本人じゃない。そして、腹がデカい!!男はにこやかに笑うと、ポテチを口にほうばりながらこっちに向かって歩んできた。
「……久しぶりだな、賢人。大きくなったな」
「あの、どちら様ですか? てか、なんで俺の名前知ってんすか?」
「ああ、そうか。失礼、自己紹介がまだだったな。僕は……」
男が話しかけようとした途端、
「あら、賢人。おかえり」
聞き慣れたいつもの声が響いた。
「あ、母さん。だだいま」
「あ、静子。まだ話してなかったのか」
(え? い、今……母さんのこと静子って。ま、まさかこのデブ……)
「賢人、いい忘れてたわね。この人があなたのお父さん。アメリカに住んでいるあなたの実の父親よ」
「えっ? えっ? えええええええ~っ!?」
「ファッツだ。アル・ファッツ。ニューヨークに住んでいる。改めてよろしくな」
アメリカ人とは思えない日本語で男は言った。そして男は手を差し出してきた。
(このデブが俺の親……? 実の父親だと……? 太りすぎだろ……)
「な、なんか急展開で整理ないんですけど」
「おと、父親に対しても敬語とは関心関心。」
こうして賢人は父親との再会をした訳だが、この男の素性を彼はまだ知らなかった。そして、この直後にこんなにも自分の人生が変わるとは思いもよらなかった。