咲の見つめた先に。。。
「ハハッ、流石に痛かったろ?」
悪魔のような声が咲に問いかける。
「今後、私の道を塞がないで」
神木は理解ができなかった。たったそれだけのことだなぜ彼女が打たれたのかが。と、思った側で、
「K.Oっ!!!!!!!!!!!!勝者ァ、春先伊深っ!!」
実況の男子は勝者を決めるコールを鳴らした。
それを聞いた伊深は満足気な顔を見せる。
………何故?
「はい、じゃぁ勝者の春咲さん、今回はどんな感じでしたか?」
端で伊深に問いかける実況者。そこには周りの男子のニヤケた顔も映る。
実況者の言葉に引っかかった。
今回?
言い回し、それを聞いてひとつの仮定が生まれる。
毎回こんなことやってんのか?僕が知らないでけで?………何故?………何故?………何故?………そこに何がある?やって何の意味がある?
行き場のない疑問や、思いは、
「何が楽しいの?そんなの?」
思いを含んだ疑問は気づかないうちに口から出て行った。
小さいが言葉は人へと伝わる。それは皆の不意を突いた。沈黙が漂う。その時にやっと僕は言葉を口にしたのを気づいた。
何言ってんだ?僕は?
事態に、頭が真っ白になる。切り返しの言葉すら思い浮かばない。
「あ、え、」
口が滑った。最悪だ。
空気というものは時に最悪のものだということを知った。何も言うことができないこの空気。
脳内では、自分の居場所が無くなることを映した。
いままで周りの色にしか合わせなかった何色でもない僕。その日常が今日終わった気がした。
詰めること数秒。救いの鐘。
五時限目の始まりを知らせる。
どうすればいい?
僕は自分に問いかける。五時限目が始まるが、それでもお互いにお互いを視る僕たちに終止符を打つようにパチンと合掌音。それは、先程まで実況者をしていた男子のものだった。
「うん、これにて今日は終了!さぁさぁ、皆さん五時限目ですよー、気合入れて頑張っていこう」
言うと、少し間を空け「ウィーすっ五時限目頑張っちゃいましょー」と気を取り直した先程僕の周りで話していた男子の一人が言う。空気が和み、他の男子や伊深も何もなかったように話し始める。
ただ、咲だけは僕のことをじっと凝視した。
いつもの無表情の中に今は何か言いたげなものを感じた。
だが、僕は罪悪の中それを無視して咲を通り越す。もしかしたら先程のことを忘れさせる最後のきっかけかも知れないから。居場所を無くさずにいられる最後のチャンスかも知れないから。
通り越すとき、咲は何か可哀想なものを見るような目をした。意図はわからない。でも、
その目は確実に僕を見ていた。