神木夕と言う人間は。。。
「でさー、アレがさー、マジやばかったんだよー」
「そうかー?あれがああするのが一番だっただろ」
僕の周りで誰かが話してる声を聞く。話が進むにつれ、内容が全くわからなくなっていく他愛も無いごく普通のテレビやネットの話。と、そんな時、話を挟む出来事に沈黙が走る。
ガシャンと、大きな音を立て椅子が倒れる。
目線を向けるとそこには維持が悪そうな女子ともうひとりの女子。
場面から考えると、維持の悪そうな女子が椅子を蹴ったようだ。
「私さぁ、そうやって無視されるの一番嫌いなのよね」
腕を組み仁王立ちする維持の悪そうな女子。
一歩、もうひとりの女子は机で黙々と読書をしている。
そんな光景を見て、先程まで周りで話す男子の一人が小声で言う。
「お、出ました!東方、お嬢こと春先 伊深っ」
ニヤニヤと相撲の御膳立てののように実況する。
「続いて西方、無感情、冷酷の姫こと上井 咲っ」
そうやってこちらは笑っているが、あちらでは物凄い雰囲気を漂わせる。
脅威、それに近いものが伊深からは感じられる。だが、その脅威にも近いほど咲にも威圧を感じる。
見ている分ならいいが、あの中に入りたくはない。それに、
状況を見て、神木はふと思いつめる。
「さてさてー、神木 夕さんはどちらにかけますか?」
マイクを持つような手のつくり方をして、それを僕に向ける。
僕はああ言う雰囲気が嫌いだ。なぜみんなこう楽しんでるんだ?あんなの見て?何が面白い?
内心思った。だが、それを言葉にすることはできない。ただ、それを見ていることしか。
「ちなみに、今の投票は春先5p、上井4pと少々春先が圧してるようですが、神木さんはどちらに?」
「僕?…僕ねぇ………」
見たいわけではない。ただ、ここで離れると、と何かを恐れている自分がいて、その恐怖に負ける自分がいるから。ただ、ここにいる。
「どちらでもいいかな、それより、早く止めないと。」
そこに、万一何かあったら大変だから、という正義感はなく。ただ、言い訳として、建前として逃げているだけ。
「ねぇ、聞いてんの?さっきから本ばっか読んでるけど?」
伊深は咲を睨んだ。だが、咲の反応はない。
「おぉ、先行春先。攻めてきました。」
ほんと何が楽しいやら、実況を続ける。
「聞いてんのかって!?」
打音。咲の机を伊深は叩いた。その後、咲の胸ぐらを掴み面と向かう。すると、咲は初めて口を開いた。
「五月蝿いわ、正直、迷惑。」
声は小さい。だが、その言葉にはトゲがあった。
「てめぇ、」
拳を握る伊深。と、それを見て咲は、
「暴力はいけないわ、それに女の子なのだから言葉使いは丁寧に」
軽蔑と注意で返す。
「へっ、ビビってるだけだろ?」
伊深は咲に挑発する。
「………」
「図星?っ、ハハハハハハビビって声も出ないってっwwマジうけるwww」
伊深は嘲笑する。
言われているがやはりなんの反応も示さない。
「―――そう言うのがムカつくんだよっ!!」
怒鳴り、伊深は打った。
咲は勢いよく尻を付いた。
打たれた頬が赤く染まる咲、もう見ていられないと思うが行動に表せない僕に、僕は呆れを覚える。そんな僕がいた。