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Rambling Journey  作者: 高柳由禰
第14話 リュシアンの旅
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シンシアの歌魔法

初めは一人で旅をしていたリュシアンだったが、すぐに仲間が加わることになった。まずはアミスとクリフという双子の兄妹、次に女の吟遊詩人だというシンシアである。しかし、シンシアに関しては戦力にならないだろうと皆、思っていた。シンシアもそれはわかっていたので早速自己主張を始める。


「皆さん、聞いて下さい。私の魔法は少し特殊なのです。この竪琴は魔法楽器と呼ばれるものの一つ。楽器に魔力が込められています。そして旋律を奏でてそれに合わせて歌を詠唱することで通常の魔法と同じ効果を引き出すことができるのです」

「例えばどんな魔法?」とアミス。

「攻撃魔法から回復魔法、補助魔法まで私が取得できるものは全て使えるようになりました。今度魔物が現れたら実際に使ってみましょう」


その後、道中で魔物が現れるとシンシアは早速魔法を使った。シンシアが竪琴を奏でながら美しい歌声で歌うと滝のような水流が現れ敵を押し流した。その次は竜巻を起こして敵を吹き飛ばした。その威力はなかなかのものである。


「ええ~?使い方は普通の魔法と違うけど、かなり強いじゃん」とアミス。

「これで私を旅の仲間として認めてくれますか?」


しかしリュシアンはなんだか引っかかりを感じた。


「シンシア、あなたが私達と旅をしたいというのには何か特別な理由があるのではないですか?」

「えっ?い、いえ、そんなことはありませんよ!だって私、本当にただの吟遊詩人ですし、歌のことしか考えていませんよ!」

「シンシアさん、その慌てぶり、怪しい」とクリフ。

「そ、そんなことはありません。さあ、皆さん行きましょう!」


その後、シンシアの魔法の実力を思い知ることになるリュシアン達であった。水の魔法も風の魔法も威力が凄まじく、どんな敵でも簡単に葬り去ってしまうのである。そして歌と旋律を奏でて唱える回復魔法も。アミスとクリフの2人分の実力をそなえているように感じる。このままでは自分達の存在意義がないと、アミスとクリフは危機感を感じた。


「ねえ、クリフ~。あのシンシアさんって何者だろう?何か目的があって私達に近づいてきたのかなあ」

「そうだねえ。僕達に出会ったこと自体は偶然みたいだけど、リュシアン様を見て目つきが変わったね」

「玉の輿狙ってる?」

「それは違うと思う。っていうかリュシアン様はお堅い性格な上に、既に婚約者がいるでしょ」

「ん~、そうだねえ~。それにあんな魔法、見たことないよ。この大陸の人間じゃないのかなあ」

「他の大陸の人間がここに?余程特別な事情が無い限りそんなことする人はいないはずだけど…」


シンシアに直接問いただしてもうまくはぐらかされてしまう。何か隠していることだけはバレバレなのだが、具体的なことはわからない。


「シンシアさんは水と風の魔法が得意なんだね~」とアミス。密かにライバル意識をしてしまう。

「はい。私は海辺で育ったせいか、水と風の魔法に適性があるのです」

「私は火と地の魔法が得意だよ~」

「それはちょうどいいですね。私と正反対ではないですか。私達が2人で地水火風の複合魔法を使えば強力なダメージを敵に与えることができますよ」

「へえ、そんなことできるんだ」

「ええ、神託を受けた魔導士系の勇者なら一人でできるという話ですし―――あ、いえ、何でもありません!」

「シンシア、あなたは他の地域の勇者のことも知っているのですか?」とリュシアン。

「い、いえ、今の話はたまたま知っていただけですよ!」


慌てた様子のシンシアにリュシアンは眉をしかめたが、それ以上は尋ねなかった。シンシアはあまり嘘をつくのが上手ではなさそうなので、彼女の秘密はおいおいわかってくるだろう。

シンシアの実力のおかげで道中の戦いはかなり楽になった。主に武器攻撃はリュシアンが担当、魔法攻撃はアミスとシンシアで行った。クリフは主に回復役で、時々武器のモーニングスターで攻撃した。




道を進むにつれて日が暮れてきた。リュシアン達は今夜は野宿をすることにした。夜もシンシアは竪琴を奏で、優しい歌を歌う。シンシアの歌声は非常に美しく、聞いているだけで心が洗われるようだった。傍にいるとついつい聞きほれてしまう。


「シンシアさんの歌声って本当に綺麗~。声域も広いし。高い音から低い音までいろんな音が出せるんだ~」

「アミス、何の話?」とクリフ。

「何って歌の話だよ。人は歌える音階がある程度決まってるんだ。合唱でソプラノとかアルトとか聞いたことあるでしょ?あれはその人の声の高さによって、出せる声域によって分けるんだよ。私はメゾソプラノ。高い『ソ』の音までしか出せないんだ。シンシアさんの声域はとても広いんだね~。一般人の声域は2オクターブくらいなのに」

「ごめん、アミス、よくわからない」

「音階の話わからない?音楽の授業でやったでしょ?ドレミファソラシド」

「僕の音楽の成績知っててそういうこと言う?」


クリフはがっくりとうなだれてしまった。傍で聞いていたリュシアンとシンシアは怪訝そうな顔をする。


「クリフは音楽が苦手なのか」

「そういうリュシアン様はどうなんです?」

「私は皇族の一般教養として一通り学んでいる」

「そうですか…シンシアさんは当然音楽得意でしょうし、そうなるとこのメンバーで僕だけ仲間外れなんですね…」


クリフは今度はいじけてしまった。


「ふーんだ、いいんだ、いいんだ、どうせ僕なんて音痴だし音符も読めないし、音楽の才能ゼロですよーだ」

「『音符が読めない』じゃなくて『楽譜が読めない』でしょ?そういえば音楽の授業のたびに楽譜に階名書いてやったっけ?」とアミス。

「アミスと違って僕はピアノ習ってなかったからね!」

「何?クリフはピアノが弾けないのか?」とリュシアン。

「リュシアン様!ピアノ弾けるのが当然みたいな言い方しないで下さいよ!お偉方と違って一般庶民は全ての子供がピアノ習ってるわけじゃないんです!そんなにお金のある家ばかりじゃないし、親が子供に習い事させる気がない場合もあるし。でもピアノ習ってるかどうかで音楽の成績は大きく変わってくるんです!まず、学校の音楽の授業だけじゃ音符は読めるようになりません!いつも隣の席の女の子に音符の読み方ドレミファソラシドを書いてもらわないと楽譜が読めない。当然学校の授業だけじゃピアノなんか弾けるようになりませんよ!」


リュシアンは庶民の学校の授業のことなど全く知らない。クリフの力説を聞いて何か国として教育制度を見直さなければならないのだろうかと思ったが…


「まあまあ、落ち着きなよクリフ。ピアノ弾けなくても人生においてたいした問題じゃないって」とアミス。

「そうですねえ。別にピアノが弾けなくても生きていけますし、音楽がわからなくても歌は歌えますよ」とシンシア。

「ううっ…」

「まあ、学校の音楽の授業なんてどの大陸も変わらないんですね」とシンシア。

「シンシア、あなたはこの大陸の人間ではないのですか?」とリュシアン。

「はい。私の故郷はこのグラシアーナ大陸から遥か遠くにあります」

「何故他の大陸の人間がここに?」

「私の最大の目的は世界各地を旅すること。様々な叙事詩を紡ぐこと。第二の目的は、人を探しているんです。誰を探しているのかは言えません」

「そうか」


シンシアはそれほど頑なに秘密を守ろうとはしていないのだろうか。徐々に自分のことを話していく。


「ところで皆さん、今日はもう寝ましょうよ。私が子守歌を歌います」とシンシア。

「それって戦いの最中に敵を眠らせてたやつ?」とアミス。


シンシアは歌と竪琴を使った特殊な魔法を使うが、水と風の攻撃魔法の他に敵を眠らせる歌も歌っていた。魔力が籠もった特殊な歌魔法であり、標的にした敵だけを眠らせる。


「今夜は別の歌を歌いますが、あれなら不眠症の人も眠らせることができますよ。寝付けなくて困った時はいつでも私に言って下さいね♪」


シンシアの歌声を聴きながらリュシアン達は眠りについた。

トラブルはその後に起こる。

一通り歌を歌い終わったシンシアも眠りについた後、真夜中にそれは起きた。


「おかしら、あそこに人がいるようです。魔導士の結界を感じます」

「結界を破ることはできるか?」

「フフ、この僕になら可能ですよ。見たところ男と女がそれぞれ二人ずついるようです」

「野郎に興味はない。女だけ攫え」


主に人身売買を生業とする賊に見つかったのである。賊の頭領は魔導士の男を一人仲間に引き入れていた。魔法が使える者がいると何かと便利だからである。リュシアン達が野宿をするにあたって、アミスが結界を張っていた。だが、賊の一味の魔導士の男が呪文を唱えるとアミスの結界は破られた。それを感じてリュシアン達もすぐに起きたのだが、賊の襲撃も隙が無かった。魔導士の男は魔法力吸収の呪文を唱え、アミスの魔法力をたちまち吸い取ってしまった。そして魔法が使えなくなったアミスを攫っていったのである。シンシアの方はただの女と見做していたので他の賊が普通に攫っていった。アミスは武器のロッドを、シンシアは竪琴をそれぞれ持ったままだった。


「アミス!僕の妹が!それにシンシアさんも!」

「クリフ、落ち着くんだ!奴らの馬を奪って後を追うんだ!急いで!」


リュシアンとクリフは馬に乗っている賊を蹴落として馬を奪い、後を追いかけた。賊も攻撃をしかけてきたが、リュシアンは馬上の戦いも得意としている。荒くれ者の賊達はリュシアンの敵ではなかった。クリフはもたつきながらも馬の腹を蹴ってリュシアンに続く。クリフも鉄球の武器モーニングスターを振るって戦いたかったのだが、馬上の戦いは初めてな上、鉄球が馬に当たったら可哀想だと思うと身を守ることしかできなかった。とにかく賊から引き離されないように気を付けながらひたすら後を追うのだった。

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