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Rambling Journey  作者: 高柳由禰
第13話 Tricky Love
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ティカとセドリックその2

時は一ヶ月先まで遡る。




セドリックは悪夢にうなされていた。夢の中では賭けの仲間達が何やら話し合っている。


「セドリックがまた新しい女を落とそうとしてるらしいぜ」

「今度はどんな女だ?」

「よーし、みんな賭けようぜ!セドリックが女を落とすことに成功するかどうか!」


しかし、セドリックが成功する方に賭ける者は一人もいなかった。これでは賭けにならない。

すると今度はどんな結果になるかを一人ひとり予想し始めた。


「ふられるに一票」

「全く相手にされないに一票」

「いいように弄ばれるに一票」

「散々弄ばれた挙句に捨てられるに一票」

「実はオカマだったに一票」


「おまえらあああー!ふざけやがってえええー!」


怒りの叫び声と共にセドリックは飛び起きた。


「くっそー!みんなして俺を馬鹿にしやがって!俺だって一生に一度くらい女を落としてみせるさ!くそっ!ティカさんは立派なレディだ。男を弄ぶような悪女でもないし、オカマでもない正真正銘のレディ!なんとかして俺のものに…」


セドリックは再びベッドに仰向けになった。天井を見上げながら今までの女性関係について考えてみる。何故いつも失敗するのだろう。女を口説くことに関して悪友達の話は参考にしている。本や雑誌でも女を落とすことに関して書いてあれば必死に読み漁った。自分の今までの経験でありったけの知恵を絞ってアタックしていったというのに結果は全て玉砕。一体何がいけないのか。

今度は起きて鏡で自分の顔を見る。特別に不細工ではないはずだ。世の中の多くの女性達の中で自分を気に入ってくれる人は誰かいると思うのだが…




セドリックはぶつぶつ言いながら部屋の外に出た。外はいい天気である。爽やかな空気に日光が優しく地面を照らす。しかしセドリックの気分は憂鬱だった。女性を落とそうとすると、いいように弄ばれることも多い。しかしセドリックはそれはそれで良しとしていた。好きになった女性に弄ばれるなら本望である。女に弄ばれるのを良しとする男は多い。男というものはそんなものかもしれない。セドリックはそこで逆のことも考えた。女に弄ばれたいと思う男がいるように男に弄ばれたい女もいるのではないかと。いるのなら何故自分の前には現れないのか。そんなことを考えているうちにセドリックは思っていることをつい口に出して言ってしまった。


「おかしい。世の中には男に弄ばれたい女もいるはずだ!」


そう言った直後に人の気配を感じた。はっとして振り向くとそこにはティカの姿があった。ティカは極めて冷たい表情でこちらを見ている。まずい。聞かれたら一番まずい人に聞かれてしまった。


「セドリック、あなたという人はまたそんなことを言って!」

「ティ、ティカさん、いや、これは違うんです」

「何が違うというの!あなたみたいな不誠実な人は見たことないわ!」


ティカはやたらとセドリックに突っかかってくる。ティカにとってセドリックは癇に障るのか、何か引っかかるのか。それが好きの裏返しで気になるというのであれば脈ありだが、単に人間として気に入らないというのであれば脈なしである。セドリックはそこをはっきりさせたかったが、どうすればよいのだろう。直接尋ねるのは得策ではない。


セドリックが逡巡していると、ティカは何か思いついたように態度を変えた。


「そうだわ。セドリック、あなたも神託を受けているのでしょう?それなら武術の鍛錬もすべきだわ」

「いや、俺が受けた神託は何か特別な役割があるってだけで別に俺が勇者ってわけじゃないんですよ」

「またそんなことを言って!もう少し真面目に考えたら?神託を受けた以上、世界に平和を取り戻す為に戦うべきよ!さあ、私と一緒にいらっしゃい!あなたがどれだけ武術の心得があるか見させてもらうわ!」


そう言うとティカはセドリックを無理やり引っ張って行った。行き先は訓練場。ありとあらゆる武器が置いてある。


「セドリック、神託を受けた戦士の一人としてあなたに練習試合を申し込むわ!」

「そ、そんな!レディ相手には戦えないですよ」

「戦いに男も女もないわ。女と戦えないというのなら、敵からそこを弱点としてつかれるわよ」

「相手がレディでもやむを得ない場合なら戦いますよ。しかしティカさん、あなたとは戦えない」

「それならこっちから行くわよ!」


ティカは女性の格闘家である。好戦的に攻撃を仕掛けてきた。ティカはサイロニアの名高い勇者ランドの相棒として共に戦ってきた。日頃の鍛え方も実戦経験もかなりのものである。拳の突きも蹴りもかなりの威力がある。セドリックは必死に防御したりかわしたりしていった。


(つ、強え…!!)


ティカのしなやかな身体から繰り出される攻撃はスピードがあり、まともに喰らったら全て痛烈な一撃である。セドリックはうまくかわしていったが、自分からは攻撃を仕掛けなかった。ティカはそれが不満そうだ。


(私の攻撃を全てかわすなんて、思ったよりやるわね。でも戦ったらどれだけ強いのかしら?)


ティカがいくら攻撃してもセドリックは反撃しない。それに苛立ったティカはセドリックを捕まえると投げ飛ばした。しかしそれもわざと投げられて受け身を取ったことがバレバレであった。ティカは大層ご立腹であった。


「もう!どうして戦おうとしないのよ!」

「それはあなたが美しいからです。ティカさん。あなたの美しさに見惚れてしまって」

「冗談はよして頂戴!」

「あの…嘘じゃないんですが…」


ティカとセドリックがそんなやり取りをしている一方、サイロニア王国は世界征服を企む悪の帝国ヴィランツとの戦いの準備を進めていた。そしてヴィランツ帝国の皇帝もまたサイロニアに対して何か仕掛けようと策を練っていた。




そしてここはヴィランツ帝国。ヴィランツ皇帝は魔族と契約を結んでいる。恐怖政治の為にいくらでも魔物を召喚することができた。そして人間の配下も数多く従えている。ヴィランツ帝国の皇帝の間は禍々しい邪気が渦巻いていた。


「ヴィランツ皇帝よ、どうする?」

「サイロニア王国の勇者ランド一行。あの四人組のうち誰か一人に消えてもらおうと思っている」

「勇者ランドを直接狙わないのか?」

「余は美男でもない男に興味はない。勇者アレルやリュシアン皇太子のような美形なら話は別だがな。弄ぶのならやはり女がいい。そう、勇者ランドより相棒のティカという女の方が。聞いたところによればあのティカという女は明るく前向きな性格で人々からも好かれる存在なのだそうだ。正義感が強く、弱者に優しく。苦しんでいる人々の救助活動も積極的にやっているのだそうだ。それにあの健康的な美貌。…いいな。ああいうのを見ていると………壊したくなる」


ヴィランツ皇帝は残虐な笑みを浮かべた。


「なかなか気の強い女らしいぞ。勝気な女は征服し甲斐がある。か弱い女と違って簡単には屈服しないからこそ、愉悦に浸れる。フフフ。あの明るい笑顔が全てに打ちのめされるのが楽しみだ」

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