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Rambling Journey  作者: 高柳由禰
第12話 勇者と魔族の奇妙な旅
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古代遺跡?

子供達だけの小さな集落を訪れたアレルとガジスは、近くにあるという古代遺跡に向かった。みんなでお弁当を作って、まるでピクニックである。子供達は無邪気で可愛く、歌を歌いながら歩いていた。そんな子供達をガジスはにこにこしながら眺めていた。


「中世の文明レベルの子供達は本当に純粋で可愛らしいねえ。日に焼けて外で元気いっぱいに遊んで」とガジス。

「ナルディアの子供はそうじゃないのか?」とアレル。

「ナルディアの子供はね、外で遊ぶより家の中でゲームしてることが多いよ」

「室内のゲーム?チェスとか?」

「いや、スマホのアプリとかネトゲとか」

「何それ?聞いたことがない言葉だな。それも超古代文明の産物なの?」

「そんな風に言われるとなんだか変な気分だな。そりゃあ他の大陸の文明レベルではできない技術だけど」


やがて、子供達の言っていた古代遺跡らしきものが見えてきた。アレルも含め、子供達はわくわくしながらその遺跡を眺める。不思議な形をしたものがある。あれは一体何なのか。子供達は元気いっぱいにはしゃぎながら遺跡へ向かった。


「うわあ!これは一体何なんだろう?」

「不思議な形だねー」

「古代人はこれを使って一体何をしていたんだろう?」


不思議な形をした物体や建物をしげしげと眺める子供達。アレルも同じく興味深そうにしていた。そして横にいるガジスに建物について聞いてみようと振り向く。ガジスは口をあんぐりと開けたまま硬直していた。アレルがそんなガジスの様子を怪訝に感じながらも遺跡について尋ねてみる。


「なあ、ガジス。これは一体何の遺跡なんだ?俺達のすぐ近くにある、この曲線状の道は一体どんな用途で使っていたんだ?」

「……………あー、これはだね、ジェットコースターだよ」

「は?」

「あそこにある大きな丸いやつが観覧車。そっちにあるのがメリーゴーランド――って、ここは遊園地跡地じゃないかあああああーーーーー!!!!!」

「ゆうえんち?ゆうえんちって何だ?」

「娯楽施設のことだよ…」


ガジスはすっかり脱力し、ぐったりと項垂れている。アレルの方は一体何のことやらさっぱりわからない。ガジスは荷物から電子辞書を取り出すと何やら調べ始めた。


「遺跡っていうのは過去の時代に建てられた建物のこと。だから何百年も前に作られたこの遊園地跡地も一応遺跡の定義に当てはまっていることになる。たとえ遊園地であろうとも。あああ、古代遺跡っていうから一体何が残っているのかと思えば…」


アレルは遊園地跡地の様々な物体や建物を眺めた。


「古代人っていうのは俺達には想像もつかないものを発明していたんだな。これらは機械なのか?動くのかな?」とアレル。

「もう錆びついて動かすのは無理じゃないかな。風化しちゃってるし。そこにあるメリーゴーランドのお馬さんに乗るくらいならできると思うけど」


アレルと子供達は興味津々でメリーゴーランドに近づいた。作り物の馬に乗ったりして遊んでいる。しかし機械の仕掛けはさっぱりわからない。ガジスは遊園地跡地のアトラクションを動かすことができないのを残念に思った。メリーゴーランドの一つでも動かして子供達に楽しんでもらいたい。だがあまりにも年数が経ち過ぎている。しかしよくもまあ、こんなものが残っていたものだ。過去の世界大戦で娯楽施設など全てなくなっていたと思っていたのである。




すると、どこからか邪悪な気配が漂ってきた。ガジスにとっては親しみ深い魔族の気配。それでいて悪意のこもった気配。アレルは既に気づいており、一緒にいた子供達を一ヶ所に避難させている。


「ここに古代人の遺跡があるという報告だったが、まさか先客がいたとはな」

「おまえ達は何者だ?もちろん魔族だってのはわかってる」とアレル。

「我々は大魔王ゼウダール様のしもべだ。おまえは勇者アレルだな?我ら魔族の間では有名だぞ。小さな子供の姿をしていながら、どの勇者よりも強いという噂だ。自然を操る力を持ち、その気になれば簡単に世界を支配できるそうだな」

「世界を支配するなんて興味ない」

「おまえを味方につければ世界は我ら魔族のもの。しかしおまえが我らにつかないというのなら倒すまでだ。だが強大な力を持つおまえを倒すには同じく強大な力が必要だ。だから我々は古代遺跡を探しては古代人の秘密を手に入れようとしているのだ。かつて超古代文明を築いた謎の古代人達、彼らは全世界を支配し、非常に高度な文明を持っていたとされる。古代人の秘密を手に入れれば我々魔族も世界を支配することが可能だ!この遺跡を見ろ!一体どんな用途で使っていたのか我々には全く想像もつかない!」

「そりゃそうだわな…」とガジスはぽつりと呟いた。


一方、一緒に来た子供達は怯えていた。


「勇者様、助けて!怖いよう!」

「俺が今からワープ魔法を使っておまえ達の家に帰してやるから安心しろ!先に帰って待ってるんだ!」

「わかった。勇者様も無事に帰ってきてね」


アレルはワープ魔法で子供達を元の集落へ送り届けた。そして魔族達に向き直る。


「この遺跡を調べたって何も出てこないぞ。戦う気があるなら相手をしてやるが、そうでなければとっとと帰るんだな」

「何だと!とぼけても無駄だぞ。これだけ様々な機械があるのだ。これこそ超古代文明の面影!重大な秘密があるに違いない!」

「いや、ここはただの遊園地跡地だから、いくら調べても本当に何も出てこないよ…」とガジスは遠慮がちに言った。

「はぐらかそうとしても無駄だ!この遺跡は我らが主君、大魔王ゼウダール様のものだ!」


ガジスは頭を抱えた。この魔族達はこの遊園地跡地の遺跡に古代人の秘密が眠っていると思い込んでいる。中世の人間や魔族からしたら何やらすごい機械がたくさんあるように見えるのだろう。しかしその実態はただの遊園地の遊具だと思うと、なんとも気が抜ける。それを知ったら怒り出すだろうが、あきらめて他の遺跡に行くだろう。とはいうものの、中世の人間と魔族にジェットコースターがいかなるものかを理解してもらおうというのは難題である。

ガジスがそうやって逡巡しているうちに大魔王ゼウダールのしもべ達はアレルに襲いかかった。アレルは自然を操り、巨大なハリケーンを起こした。そして魔族達を一気に片づける。勝負はなんともあっけなかった。アレルはわざと一匹だけ残しておいた魔物を捕まえた。


「おまえ、大魔王ゼウダールの僕とか言ったな。そいつは一体どこにいる?この近くにいるなら倒しておかないとな」

「ひっ…!あんなに巨大なハリケーンを簡単に起こすなんて。普通に戦ったら全く勝ち目がない!」

「さあ!おまえのボスのところに案内しろ!」

「ひいい!」


一匹だけ残された魔物はひどく怯えていた。今のは戦いとは言わなかった。人間であろうと魔族であろうとあんなに巨大なハリケーンに巻き込まれればひとたまりもない。このアレルという子供がその気になれば恐怖で世界を支配するなどいとも簡単なことだ。一方、アレルは鋭い目つきで魔物を脅しつける。大魔王ゼウダールの僕達はどうやらワープ魔法を使ってここまできたらしい。アレルとガジスは魔物にワープ魔法を使わせるとゼウダールの元へ向かった。




「ここは?また遺跡か?」とアレル。

「大魔王ゼウダール様は古代人の遺跡を見つけては秘密を探っていらっしゃる。ここはその一つ。この遺跡には魔力増幅装置があるので、ここを拠点にして魔力を蓄えているのだ」と魔物。


大魔王ゼウダールが拠点にしている遺跡、そこからは強大な魔力が感じられた。じっくりと見聞している暇もなく、遺跡の中から大魔王の手下が続々と現れ、アレルとガジスに襲い掛かってきた。ガジスは暗黒剣を抜いて構えたが、またしてもアレルが自然を操る力を使い、カマイタチで魔王の手下を全て一掃してしまった。


「…ねえ、アレル君その自然を操る力を使えばどんな敵も倒せるのにどうして普段はレイピアや魔法を使っているの?」とガジス。

「え?そんなのその時の気分で適当に変えてるだけだよ。ただ、あんまり自然を操る力を多用しない方がいいかなとは思ってる」

「戦いとしては普通に反則だしね」


アレルとガジスは遺跡内部に侵入した。大魔王の手下を倒しつつも奥へ進む。遺跡内部は様々な紋様が刻まれていた。


「ふーむ、ここはどうやら古代の大魔導士の遺跡のようだね」とガジス。

「へえ、じゃあ大魔王ゼウダールとやらは古代の大魔導士の力を借りてパワーアップしてるのかな。その方が戦っても手ごたえがあっていいな」

「アレル君、好戦的だねえ」

「強い敵と戦って倒すのは気分が高ぶるよ。ゼウダールってやつは『大魔王』と名乗ってるからには強いんだろうし、わくわくするなあ」

「そうだねえ。アレル君ほどの強い勇者に挑戦するとなると、やっぱりただの魔王じゃなくて大魔王クラスの実力を持った者になるんだろうねえ」


アレルはこのところ元気がなかったのでガジスは少し安心した。やはり子供は元気でなければ。大魔王との戦いを前に意気軒昂する。

遺跡の最深部に着くと巨大な不定形の魔物がいた。そこから感じられる邪悪な気配と魔力。


「おまえが大魔王ゼウダールか?」とアレル。

「いかにも。そういうおまえは…赤い髪の子供…神託を受けた勇者の中で最強の強さを持つ最年少の勇者アレルか!」


大魔王ゼウダールは急に怒りで震え始めた。


「おまえの噂は聞いているぞ。おのれ勇者アレル!おまえの圧倒的な戦闘能力を知ってわしが一体どんな気持ちになったか、わかるまい!」

「ん?」

「自然を操る力を持った勇者、その気になれば天変地異を起こして世界を滅ぼすことも可能だと?はあ?そんな奴どうやって倒せばいいんだよ!反則じゃないのか?自然を操るだけでどんな敵も簡単に倒せる。こっちはどんな手を使おうとも簡単にやられてしまうではないか!そして魔族側に引き込むことも失敗しているだと?だいたい何でそんな奴が魔王側じゃなくて勇者側にいるんだよふざけんなあああ!」

「…え…」


・・・・・・・・・・


アレルは大魔王ゼウダールの怒りの発言に対してなんと言ったらいいかわからなかった。一年前に戦った大魔王ルラゾーマの時もそうだったが、どうも自分が戦うことになる大魔王というのは馬鹿なんだろうかと思った。


「しかし!神託を受けた勇者は全て倒すのが魔王の使命。さあ、これが年貢の納め時だ、覚悟しろ!勇者アレル!」

「…………………………」

(勇者と魔王の王道的展開を考えると妙なことになってるな…)とガジス。


アレルは気を取り直して大魔王ゼウダールに向かった。


「まあ、そう怒るなよ。おまえがべらべらしゃべってる間に攻撃して倒してもよかったけど最後まで話を聞いてやったんだからさ」とアレル。

「こ、このクソガキ!」

「アレル君!相手を余計怒らせてるよ!」とガジス。

「フン!大口を叩いていられるのも今のうちだ!ここで会ったが百年目!この遺跡の魔力増幅装置で強大な力を得たわしの餌食になるがいい!」


ゼウダールは遺跡内にある様々な装置を作動させた。するとゼウダールの手下が無尽蔵に増えだした。


「ハハハハハ!この遺跡には面白い機械が多いな!これを使えばわしのしもべを無限大に増殖することができるぞ!」


見たところ、そっくりの姿をした魔物がどんどん召喚されていく。そしてどんどん増えていくのである。


「ガジス、あれは一体何の装置だ?」

「古代の大魔導士が開発した、何らかの生命体の実験装置のようだ。あれを使えば下等の魔物であればいくらでもクローンを作り出すことができる」

「クローン?」

「とにかくスライムの細胞分裂みたいにどんどん増えていくんだよ!」

「フハハハハ!その通り!これだけ多くの魔物を相手に勝つことができるか?勇者アレル、おまえは魔道に関しても興味があると聞いているぞ。おまえもこの遺跡には興味があるだろう?自然を操る力を使って破壊したら研究ができないぞ」と大魔王ゼウダール。

「別に高等呪文を使えばおまえ達だけ片づけるのもわけないんだけどな」


アレルがぽつりと言うと沈黙が起きた。


・・・・・・・・・・


「…クッ!戦闘能力の点では弱点なしか。ならばこれでどうだ!この遺跡の装置を使えば亜空間におまえ達を閉じ込めることもできるのだぞ!」


大魔王ゼウダールは遺跡内の巨大な装置を使い、亜空間を作り出した。そしてアレルとガジスを取り込んでいく――

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