12-3
職員カードを使って中に入り、何も変わらない研究所の中を一人歩いていた。非常勤としての出勤時間より一時間以上早く、所長はまだいないかもしれない。と思いながらも懐かしい建物をなんとなく歩き回る。
プログラミング部を回り、研究部を覗きこみ。技術部でバンボルを前に首をかしげている職員が目に入ってふらりと部屋に入り込んだ。どうやら足の関節部分で悩んでいるらしく、頭の上から部品を眺める。
「……右足の付け根の関節、調度曲げるところの球の部分の右側にあるネジが少しずれてるぞ。三ミリくらい左に寄せて止めてみろ、少し鉄板が引っ張られていい具合になるはずだ」
「えっあっはいっ! ありがとうございます!」
頭上からの声に驚いたのだろう、肩を跳ねながらもその職員は指示通り、ネジを付け替えていた。その様子を見守ると頭を掻き、部屋を出て再び廊下を歩き出す。背後から再度、礼の言葉を投げかけられ、指示が間違えていなかったことに少しだけ安心した。
そうして寄り道をしながらたどり着いたのは、所長室だった。相変わらず鍵がかけられないその部屋に遠慮なく入ると、見えたソファに深く座り込む。
部屋の中は綺麗に片付いており、よく散らかしては当時の所有バンボルに整理されていた所長の机も整理整頓されていた。パッと周囲を見渡す限り、資料やデータはキチンと保管されているようで、息を漏らす。
「紙面による保管が受け継がれているのか……。三年保存から五年保存への切り替えに、より細かく分けられてる。……うん?」
――きみもよく知る人さ――
総務局長は確かに、そう言った。
だからてっきり、シャルやパルフェ、もしかしたらプログラミングの新人、ミシーかノイのうちどちらかが所長にでもなったのだろうとそう思っていたのだ。自分がファルケでよく人物像を知る人なんか数えるほどしかいない。
しかしいざ、所長室を見回してみると、どこなく男気を感じられなかった。ペン立てや壁に貼られているカレンダー、書類をまとめるファイルが、どことなく可愛い。
「おんな……? いったい、だれ」
<きゃああああああああ! ごめんみんな、おはよおおおおおおおお!>
耳をつんざく悲鳴が、館内放送で研究所一杯に響き渡った。あまりに甲高いそれに思わず肩が跳ね、驚いた自分自身に苛立ち大きな舌打ちを漏らす。
「るっせぇな……!」
<所長、所長! 館内マイクがオンになってますよ!>
<えぇええ! うっそぉ……きゃあああああああ>
「うるっせぇな、そそっかしいな!」
一体なにを慌てているのかと時計を見てみると、すでに始業時間に差し迫っていた。自分がファルケ研究所に入ってから三十分は経過していたらしい。
「おいおいおい、所長が遅刻かよ。たるみ過ぎじゃないか……」
ノックも何もなく、勢いよく所長室の扉が開かれたと思うと、何者かが自分の腹部に飛びかかってきた。身構えるような暇もなく、まるで鉄の塊のような硬さ、子供位の大きさのそれはフェネアンの腰にきつく腕を回し、躊躇いなく彼の胸部に頭をうずめる。
「かふっ……」
その際、調度鳩尾部分に強い衝撃を受け、フェネアンは乾いた咳を漏らしてソファの上で身もだえた。低く唸りながらも突進してきた何者かを睨みつけようとし、上げられた顔に息を止める。
「フェネアンさん! 来てくれたんですね、本当に、本当に来てくれたんですね!」
「……トレー、トル?」
「そうです、ボクです! トレートル・セルヴォですよ、フェネアンさん……!」




