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ニヤニヤといやらしく上げられている口角に、ただ舌打ちをすることしか出来なかった。こちらを向き直った総務局長は冷ややかな笑みを浮かべたまま、わざとらしく顎に手を置いて首をかしげる。
「どうにも、研究所職員以外の者にバンボルの話を漏らしている者がリベレにいるらしくってね。大事なきみのためだ、本当は部外者に漏らしちゃあいけない情報なんだけど、特別に話してあげるよ」
掴んでいるシャッターが、バキリと音をたてた。視線だけを上げてみるとあまりに強く握り過ぎたのか変形してしまっており、やり場のない焦りをごまかすよう腕を組む。
「しかもその職員は部外者を自宅に招き、仕事の話をしているとのことだ。……ねぇ、フェイナ。ここの地区は研究所からも支部からも離れた場所にあるのに、ここ数年のバンボルの故障数が、これまでと比べて格段に少なくなってるんだよ。なんでだろうねぇ」
「てめぇ」
「その理由を、研究所所長さんに訊きに行かないといけなくて。いやはや、嫌われる仕事と立場だ」
「待ちやがれ!」
立ち去ろうとした総務局長の襟首を掴み、下唇をきつく噛みしめた。鉄の味が口内に広がっていくが関係なく、フェネアンは目つき鋭く彼の事を見続ける。
「……あぁそうさ。オレはあいつの家に何度も何度も何度も。この七年間、数えられないくらいお邪魔になった。一緒に飯を食わせてもらって……大好きなバンボルの話をしてもらったさ。てめぇ、元からオレの事諦めるつもりなかっただろ」
「今更だよ、フェイナ。……さて、きみの事だ。もうわかるだろう?」
「すべてはオレが研究所に戻ればいいってわけだ。それなら一切合切が丸く収まる……ってわけだろ! こんのクッソ野郎が!」
「いや、今回ばかりはきみ達のせいだろう。私のせいにしないでほしいな?」
それでも浮かべられている笑みの冷たさに、フェネアンは乱暴にその手を放した。煙草を咥えて煙を吐き出し、ガリガリと頭を掻く。
「今のファルケ研究所所長は誰なんだ」
「なぁに、きみもよく知る人さ。あとはきみ自身で確かめた方が面白いだろうから、私からは何も言わないよ」
「……今一度言わせてもらおう。マジで、死ね」
「ふふっ、それくらい元気な方がきみらしくていい。あぁ、また研究所に活気が戻る!」
今までの自身のやんちゃも恐らく、活気が良いくらいにしか思っていなかったようだ。長いため息を吐き出すと工房に視線を向け、総務局長を視界の端に入れる。
「なぁ」
「構わないよ。約束はキチンと果たしてくれるだろう? それらを片付けたら一度、セントラルにおいで。手続きをしようじゃないか」
言おうとしたことを読まれた上にそれを微笑ましく見られ、フェネアンは再度舌打ちを零した。今度こそ総務局長を工場から追い出すと依頼を受けている修理するべき家電を前に、頭を掻き毟る。
「覚えておけ……! 覚えておけ、リベレに居る総務局長の狗が! いつかぜぇったい、後悔させてやるかんな!」
響き渡る怒声と壁を殴る音、そして荒々しく机の上に叩き付けられたライターと煙草の音がいくつも重なりあって工場に響いた。
……そうして、フェネアンが修理工場の看板を外してから一週間後。
「あんの野郎、最初からオレを連れ戻す気満々じゃねぇか。IDの末梢もしてやがらねぇ」
セントラルに行っても何の手続きもなく、フェネアンはただ、職員カードを渡されただけだった。その情報をコンピュータで見てみると、経歴がそのまま残っている。違いがあるのは所長だった位が非常勤になっている程度。
そのことに苛立ちを覚えながらも、新しい、相変わらず膝下まである長い白衣を身にまとい、やる気なく煙草を咥え、両手をポケットに突っ込んで懐かしい職場の前に立っていた。茶色に染めなおした髪の毛は同じように前髪の一束を残して後ろで縛り、長いため息を漏らす。
「……結局か。オレは、ここから逃げられないんだなぁ」




