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痛む肋骨を無視し、青ざめて口をきつく閉ざしてしまった総務局長を嘲笑いながら、フェネアンは体を起こした。
「完璧だったろ。車に突っ込まれて、その破片で眼球を損傷……オレとほぼ同じだわな。散々調べたさ、この目を直すためにどこをどう弄ればいいのか、設定すればいいのか。あぁ、あとは実験が欲しかっただけ。バンボルの目を仕込むのと大差ねぇや。実に簡単だったよ!」
吐き捨てるように話すフェネアンの口元は、つり上がるような笑みを浮かべていた。痛むのだろう額に脂汗を浮かべて肩で息をしながらも、総務局長を睨みつけ続ける。
「畜生、だから鉄の塊ってぇのは嫌いなんだ。あぁ、大嫌いだ! 何もかもを奪っていきやがる、何もかもを!」
「フェネアン、落ち着きなさい! あぁ、大丈夫。きみが必死に守ったあの子は大丈夫だから」
「なぁ、どうしてあんな目に遭わなきゃなんねえんだ? ジェナが何をしたって。物心ついたときには病院にいて、やっと手術が出来て外に出て。初めて味わうのが激痛かよ、初めて見るもんが突っ込んでくる鉄の塊かよ。挙句の果てに、失明? ふっざけんな!」
「覚えているんだね、フェネアン。なにがあったのか、きみが、何をしてしまったのか」
激昂し、顔を歪ませ、目尻を痙攣させる彼を落ち着かせようと、総務局長は骨折に響かないように体を優しく押した。その手を鋭く払い、口の端から薄く息を吐いていく。
フェネアンに払われた手の甲は痛々しいほどに赤くなり、熱を持っていた。それでも何一つ文句を言わず、震える彼が吐き出す言葉を待つ。
「……あぁ、こいつはオレのもんだ。他の誰のものでもない、オレだけのものだ。オレは眼球を損傷し失明の危機にあったジェナに対し、近くにいたバンボルへ協力要請をしてその目をあいつに埋め込んだ。医者の制止を止め、メスを奪い取って脅し、手術室に立てこもって一人で施術した。……立派な違反だろ」
「フェネアン、私がきみを研究所職員にしたのはね、きみを路頭に迷わせたくなかったからなんだよ。残念だけど今の世の中……中卒のきみは、まともな職に就けない」
「誰が頼んだ! 一体だれが頼んだんだよ、研究所に働かせてくれって!」
グシャリと顔を歪め、立てた膝に突っ伏すよう体を折り曲げるとフェネアンは叫んだ。言葉を遮られた総務局長は口をつぐみ、肩を震わせる彼に戸惑う。
「親父と同じ仕事なんて、まっぴらごめんだ! 当たり前だろ、あいつ、オレの事を単なる実験台としか見てなかったんだぞ! お袋の墓参りにも一回も行かなかった、命日すら忘れてた! そんなクソ野郎の後を追って同じ仕事をしたいだなんて、思えるかよ!」
「フェネアンっ」
「挙句の果てにいざ研究所職員にならされてみりゃあ、人体へのバンボルの部品使用の禁止? もしかしたら、もしかしたらこの目を直せるかもしれない。て小さな希望すら砕きやがって! なぁ、オレが一体何度辞表を出した。何年出し続けた、何で何度突っ返されても出してたと思ってんだよ! オレが! ファルケに居たくなかったからだ!」
その叫び声のせいだろう、退室していたシャルが扉を勢いよく開いた。きつく目を閉じて体を小さくしているフェネアンに目を丸くし、入室するとそのまま扉を閉める。二人ともこちらに気づいているのかいないのか、振り向くことはなかった。
「ふざけんな、ふざけんな。ウィルス騒ぎで散々暴れて脅して、一般人にも迷惑かけてそれでも所長に昇任しちまって。オレのせいで仕事が増えたのを他の奴に回すわけにゃあいかねぇからガムシャラにやるしかなくて。ホント、なんなの? オレ昔から言ってんじゃん。辞めたいって言ってんじゃん。てめぇの、てめぇの自己満のせいでオレは閉じ込められっぱなしだ。ファルケに居たくないから、研究所に居たくないから辞表を出してんのに、言葉も読めないわけ?」
言葉を詰まらせながら、息を詰まらせながら吐露する様子はまるで、子供の様だった。頬を震わせながら噛みしめていたせいで口の中を切ってしまったのだろうか、咳き込んだ際にこぼれた唾液は赤く染まっている。
「……フェネアン。きみがその罪を認めるんなら、私は言い渡さざるを得ない。だけどそれはね、深い別れも意味するんだよ。きみはそれをわかっているのかい」
「誰にも渡さねぇ、誰にもごまかされねぇ。こいつは間違いなくオレの罪だ。オレだけの罪で、オレのもんなんだ。親父も何も関係ねぇ、オレのもんだ」
そう言うフェネアンは、深くうつむいたまま、泣いていた。総務局長は深く長いため息を漏らし、シャルはただ成り行きを見守る。
「……わかった。ファルケ研究所、フェネアン・アポートル所長。禁止され、禁忌とされている人体へのバンボル使用。その罰として職員の資格ははく奪、所持するバンボルは……トレートル・セルヴォは押収する」




