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会議室に戻ろうとしたら総務局長が現れ、すでに会議が終わったこと、グランが酷く心配をしていたこと、シャルからの叱責の電話が入っていたことを聞いた。人の電話に勝手に出るな、と眉を寄せたが、落ちたことにも気づかないほど疲労しているのに無茶はするな、と、咎められてしまった。
それからファルケまでは、ゆっくり帰る事。一ヶ月以上かかってもいいから無理をしないで帰ってくるようにとシャルからの伝言を受け、フェネアンは口をムッと歪めた。と言ってここで「そんなに軟じゃない」とでも反論すれば、帰ってからの説教が激化することは見えているので押し黙る。
「……で、報告会の結果はどうなったんです」
「今のところ、大した異変や事件はなさそうだ。これからも各研究所は人々のためのバンボル研究所であるよう、努力をしてほしい。という結論だ」
タブレットを受け取りながら訊ねると、まるで原稿があるように流れる返事を受けた。煙草をもみ消し、髪を一つにくくりながら視線を上げる。
「はっ。当然のことを確認するための会議なら必要ねえな、これなら今度はシャルの奴に出てもらうか」
小さく笑うと、フェネアンは立ち上がった。バカにしたつもりなのに総務局長は平然としているどころか、なぜか温もりのある瞳でこちらを見ており、目を細める。
「なんスか、気持ちわりぃ」
「ふふ、すまないね。……私はきみのお父さんと年齢が変わらないから」
「ガキ扱いしねぇでもらえませんかねぇ、それじゃあオレは副所長の好意に甘えてのんびり帰らせてもらいますわ。……トレートルのデータを復元させるのに協力してくれたことには感謝しますが、オレをここに縛り付け続けていることは、許さねぇ」
職員からも、一般人からも怯えられる自覚がある眼付きで睨みつけてみても、彼は静かに微笑んでいるだけで。そんな総務局長に舌打ちをしながらも荷物を手にし、背を向けた。部屋を出てみるとそこにグランが壁に寄りかかるようにして立っており、バツが悪そうな表情を浮かべると頬を掻く。
「グラン……」
「総務局長がきみのタブレットに勝手に出ちゃったときに、聞こえてたんだけど。フェネアン、きみは自殺願望でもあるの?」
厳しい口調で言われた言葉に、フェネアンは言葉を返すことが出来なかった。グランは緩く握った拳骨で額を軽く打ち、そのまま体を抱きしめる。
「あぁ、知ってる。きみがエトリックの影から抜け出そうとしているのも、そのためにすごく頑張っているのも、他の職員のために寝る間も惜しんで仕事に打ち込んでいるのも知っているよ。だからこそ、ボクは隣の大陸で、すぐに駆けつけられないからこそ、近くにいる人をたくさん頼って。……所長になりたての頃はちゃんと、力を借りられてたじゃない?」
「……心配かけた、すまん」
体を預けるように俯くと、グランはポン、ポンとフェネアンの背を叩いた。
「悔しかったね、ちゃんとわかってるよ。きみの事だ、意地でも参加しようと思ってた会議を抜け出すほどに、苦しかったね。エトリックの名を出されて」
「なぁ、オレはまだ足りないのか。まだ、あいつの七光で、と言われるほどにしか出来てないのか。オレはやりたくてやってるわけじゃない、ファルケを辞めてお前のところに行きたいんだ。なのにどうして妬まれる」
ヒグッ。と、喉が鳴る音が聞こえ、それほどまでに彼が弱っていたのかとグランは自身に与えられていた部屋へ連れて行った。問答無用でベッドに押し倒すと布団を頭から掛け、布越しに体を叩く。
「放って置きなよ、フェネアン。あいつらはきみが羨ましいんだ、バンボルにまっすぐ向き合えるきみが、他の人のために後先考えずに突っ込んで行けるきみが。ボク達はわかってるよ、ちゃんときみが頑張ってることも、責任感が強すぎて、時に脆い事も。ちゃんとわかってるよ。今は休んで、ちょっと頑張りすぎたんだ。だから今はゆっくり休んで」
しばらく震えていた背も、寝息と共に落ち着いていき。グランは眼鏡を外してやると深いため息を吐く。
「……いつか、研究所を抜け出せるといいのに。総務局長はどうして、きみに執着するんだろうね」
非常勤でもいいし、ただのお手伝いでも構わない。自分の研究所で彼と正面からバンボルに向かって仕事がしたいだけなのに。ため息二つ、眠りについたフェネアンの事をぼんやりと眺めるのだった。




