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リコルド  作者: 夢野 幸
二部 第七章 使えるもんは使うだけさ
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7-4

 総務局長は微笑んだままフェネアンの資料をしまい、ゆったりと腰を掛けた。ふと時計を見上げ、自分がうたた寝していた間に開かれていたのだろうプロジェクタを閉じている。


「さて、少し休憩時間を設けようか。アポートル職員、きみはあてがわれている部屋で休んでいるといい、報告はこの報告書をみれば良く解る。裏も表も包み隠さずに書いてくれているようだ、これ以上の報告内容はあるかい?」

「良い面だけ晒して、なにが報告書なんスかね。そんなもんガキでも書ける、サッサと辞めたい仕事だが押し付けられている以上、やるべきことはやるだけだ」


 吐き捨てるように言うとフェネアンは素直に立ち上がり、ゆらりと会議室を後にした。目の下に刻まれたクマはあまりにも酷く、実際に疲れてもいたのだろう大人しく休みに行ったらしいフェネアンに、グランは思わずホッとする。

 ふと、バイブ音が響き、今まで彼が座っていた椅子に目を向けた。ヒョイと座面を見てみるとタブレットが落ちており、それを受けようとして違う手に取られてしまう。


「総務局長……」


『こんのくっそがきゃあああああ! てめぇ、オレがなんつったか覚えてっか! お前この二週間で睡眠時間をどれだけとったか言ってみろ、ごまかしても無駄だからなトレ君もこっち側だからな! バッカじゃねぇの、生身の人間で平均睡眠時間三時間以下とか死ぬ気かこのボケが!』


 スピーカーにしているわけでもないのに、マイクからはシャルの声がはっきりと漏れていた。グランが彼にしては珍しく荒々しい口調だと思っていると、総務局長はタブレットを耳にあてず遠ざけている。


『挙句の果てに会議まで一週間しかねぇのにセントラルまで向かいやがって! 睡眠不足に、過度な運動に? ろくに食事もとってねぇだろうなてめぇの事だから! おい、アン! 聞いてんのか! アン、アン?』


「落ち着いたかい、ファルケ研究所副所長」


『は……え、あれ。これうちの所長のタブレット……いや間違えてないよなぁ』

「私はセントラルの総務局長を務めさせてもらっている者だ、これは確かに、フェネアン・アポートルのタブレットで間違いないよ」


『そ、総務局長! え、すんませんてっきりうちの所長だと! で、うちのあのバカ所長はどこです。あんにゃろう車や飛行機は絶対使わないからセントラルまでは二週間くらいかかるはずのところを、一週間で行ってますし、その前は欠けた職員の分やバッカみたいに増えてる依頼を一人で抱え込んじまってましたし。

 ホント、ぶっ倒れるどころかいつポックリ逝くかわかんねぇくらい無茶してるんですよ。ちったぁ他人を頼ることを覚えてくれればいいものを!』


 電話をしている相手に驚きながらも、気はやはり、フェネアンにあったらしい。

 シャルは口調が乱れていることも気づかないように言葉を続けた。総務局長は緩やかに口の端を上げたままタブレットを耳元に戻し、会議室を静かに出る。


「フェネアンが出してくれた報告書は、全てを包み隠さず書いてくれていてね。会議でこれ以上の事を聞く必要はないから、部屋で休んでもらっているよ。……いつもあの子を支えてくれているようで、感謝の言葉もないよ、副所長」


『は、いや、そりゃあ所長がファルケに来たばかりの頃から知ってますし、あいつの友人であるつもりですから、当然のことです。えっと、総務局長?』


「あぁ、そろそろまた会議を開始するから、通話を切らせてもらうよ」


 まだ、タブレットの向こう側でシャルが何かを続けていたが、総務局長は通話を切るとタブレットの電源を落とした。ファルケ研究所所長にあてがわれている部屋がある方向へ顔を向け、静かに目を伏せる。


「……あぁ、きみは真面目すぎるんだ。もっと肩の力を抜いて構わないのに、私はきみを路頭に追いやる気は、毛頭ないんだよ」


 長くため息を漏らし、会議室へと姿を消した。




 低いうなり声に目を覚まし、明かりのない空間にビクリと背を震わせ、休む前に目隠しをつけたのだと思い出した。手探りで眼鏡を指に引っ掛けると目をきつく閉じ、目隠しをはぎ取ると即座に眼鏡をかける。首元に手をやると、べっとりと汗をかいていた。


「……所長になってからは、前よりも頻繁に見るようになっちまった。くそ……」


 今度はさっきのうたた寝とは違い、意識もはっきりしていた。煙草に手を伸ばすと火を灯し、片手で顔を覆いながら頬杖を着く。


「いつまで引っ張る気なんだ。……この目がある限り切り離せねぇのか、バンボルとある限り付きまとうつもりなのか。いい加減にしてくれよ」


 母が車に目の前で轢かれ、自身もその事故で目を失い、それでもエトリックが良い研究材料が出来た。と、大ケガを負い搬送されていっているらしい母には目もくれずバンボルの目を組み込まれた時の、夢。

 何度見ても見慣れない、いい加減に見たくない悪夢だ。


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