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適当に荷物を放り込むと所長会議用の資料、タブレット、使う気は一切ないインカムだけを持って会議室に向かった。すでに自分以外の所長は席に着いており、開いている席にドカリと腰を落とす。周囲を見てみるとグランがこちらに軽く手を上げており、フェネアンもそれに応えるようヒラと手を振った。
「さて、全員そろったようなので、これから会議を……実質、報告会なのだが。を、始めていこうと思う」
上座に居た男が立ちあがり、インカムを耳にしてそう言った。その綺麗なファルケの言葉にフェネアンはぼんやりと耳を傾け、手元に配られている書類へザッと目を通す。
(……なんだこれ、ほとんどの研究所がてめぇのいい所ばっかり書いてやがる)
資料を見ながら、「自分をよりよく見せよう」としている研究所――悪いことは一つも書いておらず、成功した事案ばかりを書いている研究所の所長に目を向けてみると、どうやら出世欲が高い人ばかりだった。思わず欠伸をもらし、背もたれに寄りかかる。
(このままじゃいずれ、また金に目がくらむ奴らが出てきそうだな。……バンボルを道具扱いするようなら、ちぃっとばかり仕置きしてやればそれでいいか)
クッと上がりかけた口の端を引き締めるように止め、耳に引っ掛けたインカムを突き、ゆっくりと椅子に座り直したのだった。
「――ファルケ研究所、所長!」
強い口調に、フェネアンはビクリと肩を震わせた。サッと周りを見渡し、混乱している脳を悟られないよう、表情筋を働かせる。
ここは確かセントラルで、自分はファルケ研究所所長としてここに居て、今は――
「……あ……」
「よく、眠っていたようだね?」
所長会議に、出席している最中だ。気づけば視線はこちらに集中しており、グランに目をやると彼は目を閉じて静かに首を振っていた。「フォローは出来ないよ」ということだろう。
「すんません……」
「ちょっとばかり手柄を立てたからと、調子に乗っているんじゃないか。あのガキ」
「まったくだ、エトリックの名をいいことに、自分が良いようにやっているんだろうな」
「おいおい、聞こえていたらどうするんだ? あの不良に殴られてみろ、 病院送りにされるぞ」
「大丈夫だって。見てみろよ、インカムも外れてるんだ、解ってないだろ」
素直に謝ろうとしたさなか、ぼそぼそと話す声が聞こえ、フェネアンはギチリと奥歯を噛みしめた。こめかみに青筋が立つのが判り、自身を落ち着かせようと歯の隙間から静かに息を吐き出していく。
「どうも、失礼いたしました。親父の名は有名だわ、数年前にちぃっと手柄を立ててしまったせいで依頼の数は多いわ。職員のカバーをするために徹夜続きになるわと、疲労の回復が間に合っていませんで。あぁ大丈夫ですよ、不良とは言われ慣れているもので、そんくらいじゃあ別に病院送りにはいたしません」
インカムから聞こえてきていたフェネアンに対する陰口に眉をひそめていたグランが、今度はサーっと青くなった。青筋は立てたまま飄々と言い放ち、口の端を歪めて笑う彼の後ろには鬼が見えている。
「……あぁ、インカム? 最初っから使ってねぇよ。訛りが入った途端使えなくなるガラクタなんざ、使う気も起きないんでね!」
「アポートル所長、落ち着きなさい。……さて、きみの研究所の報告書、だが」
短く息を飲む音がいくつか聞こえる中、フェネアンは声を掛けてきた職員に目を向けた。その声は、よく聞くと喫煙所で聞いたもので、あれは総務局長だったのかと目尻を痙攣させる。
「まず訊ねたいことが。……この、万引きとは、一体なんだろうか?」
室内にざわめきが起きかけたが、フェネアンの一睨みで静まり返った。気怠そうに立ち上がると自身が持ってきた資料を机に放り投げる。
「そのまんま、ですが。残念ながらうちの職員に個人経営の雑貨店で万引きをした者がいる、まぁお店側の好意により厳重注意に終わりましたがね」
「彼に対する処分は?」
「一年間のボーナスカットと、一か月の出勤の禁止」
なんか文句でもあるのか、と続けそうになった言葉を飲みこみ、座った。背もたれに体重を掛けるように背伸びをし、胸ポケットにあるライターで遊ぶ。
「使えるもんは使うだけさ、オレの研究所に居る職員は全員、オレの財産。勝手に使いつぶさせねぇし、潰れるのも許さん。やる気がある奴はもちろん育てる、やる気がねぇで、バンボルを、てめぇの欲求を満たすための道具だとみなす奴は、問答無用でたたき出してやる。これがオレの方針だ、そもそも幾度となく出してきた辞表を突っ返してきた挙句、所長に昇任させたあんたに四の五の言われる筋合いはねぇっすよ。なぁ、総務局長さん?」
挑発的な言葉にグランは呆れ、総務局長はただ静かに笑っていた。その表情にフェネアンは眉間のしわを深くしていき、拳を硬くする。
「……そうか。わかったよ」




