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昨日入って来た新人職員以外は、おおよそ理解が出来たらしく、困ったように唸りながら首をひねり始めた。そんな先輩たちに彼らは戸惑いの色を見せ、フェネアンは再び説明を始める。
「バンボル通しの会話、それはチップに内蔵された『会話』というデータを音声と共に電波を飛ばして行われる。……もし一体の、ウイルスに感染されたバンボルが居て、そいつがところ構わず相手かまわず話かけまくると……」
「……その電波に乗って、あっという間にウイルスが広がってしまう……?」
「ご名答」
と、フェネアンはプロジェクタを閉じた。胸ポケットから煙草を取り出すと煙をゆっくりと吐き出し、輪にして頭上に登らせていく。
ふと、職員の視線が一点を指していることに気づき、フェネアンはそれを追った。
「よう、目を覚ましたか、ガキ」
家の前から拾ってきた少年が、ソファの上にキョトンと座っていた。それを見てフェネアンはつけたばかりの煙草を名残惜しそうにもみ消し、少年の前に腰を降ろす。
「お前、どっから来たんだ。なんでオレん家の前で倒れてた? 親は? 名前は?」
少年はフェネアンの目をじっと見つめ、周囲を見渡すときつく眉を寄せた。今にも泣きだしてしまいそうなその表情に少年の頭へそっと手を乗せると、深くため息をつく。
「……泣くなうぜぇ、良いからオレの質問答えろガキ」
「おいコラそこの凶悪犯罪者! 余計に泣かしてどうすんだ、代われ!」
シャルが慌ててフェネアンを押しのけ、少年に視線を合わせるように腰を落とした。フルフルと肩を震わせているその子に柔らかい笑みを浮かべ、優しく頭を撫でてやる。
「えっと、キミの名前は? どこから来たんだい?」
「……ボクの名前は、トレートル・セルヴォ。えっと……」
丸い瞳でシャルをまっすぐに見つめ、キョロキョロと辺りを見回し、首を傾げた。フェネアンはそんな少年に舌打ちをすると会議室を突き抜けてドアに向かう。
「アポートル、どこへ?」
「他の地方の研究所ではどんな指示が出てんのか確認する、まぁ恐らく、揃ってマニュアル通りのことしか指示してねぇと思うけどな。てめぇらは指図するだけで良いかもしれねぇが職員に取っちゃいい迷惑だ、ちょいと話しをしに行くからその間にそのガキの保護者特定しとけ」
「外の人たちはどうするんです……?」
「あー、とりあえずバンボルに会話させねぇよう、命令させておけ。これ以上ウイルス電波広げさせんな」
と、会議室を後にした。その直後シャルは誰かに服を引っ張られ、そちらに顔を向ける。
「お、ノイ君とー……昨日アンに自宅送りにされた新人君か。大丈夫だった?」
「ミシーです、ちょっと打撲が痛むだけで済みました。えっと……この研究所には、副所長はいらっしゃらないのですか?」
「あぁ、いないよ。というよりも、居たんだけども別の場所に飛ばされちゃった」
タハーッと笑いながら頭を掻くシャルに、二人は揃って首をかしげていた。チラチラとドアの方を見ている辺り、彼らはいつフェネアンが戻ってくるかを気にしているのだろう。ソファの方を見てみるとトレートルも首を傾けたままドアの方を見つめており、他の職員たちもドアの方を気にしている。
「飛ばされた……と、言うと……」
「ほら、今見た通り、アンの奴が出す指示って割とまともだろ。すぐに仕事を抜け出して煙草吸いに行くし所長に噛みついて行くし、無許可で故障してるバンボルの修理、プログラムの修復とか平気でするし。超短気だし協調性なんかもないけど……前いた副所長よりも、知識も技術も持っててさ。それもプログラミングだけじゃなく、技術においても研究においても」
と、シャルはドアの方を見た。
「実質、あいつが副所長みたいなもんだ。普通に接すれば普通な奴だし」
自身のことではないのに。なんとなく彼が浮かべる笑みは、誇らしそうだった。




