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リコルド  作者: 夢野 幸
第六章 ~side パルフェ・アムール~
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 旅行鞄の中に荷物を突っ込んでしまい、職員専用道路を使って空港まで車を飛ばした。事故を起こしかねないスピードで駐車場に入り、停め終るとパルフェは一人、先に空港内へ向かう。

 モウェイルさんから急かされてしまったため、飛行機のチケットのことも何も考えていなかったのだ。研究所職員としての癖だろうか、インカムだけは職員カードやタブレット、小型のコンピュータと一緒に入っていたのは幸いだった。

 空港のロビーを駆け抜け、受付に到着すると呼吸も整えずに事情を話そうとした。それを受付嬢に止められ、パルフェは首をかしげる。


「えぇっと……ファルケの研究所の、職員さんですね」

「え、あ、はい」

「もうすでに、席は予約されていますよ。ご安心ください、三名様ですね、一時間ほどお時間もありますから慌てずに。念のために職員カードを確認させていただきますね」


 すでに、席は予約されている。


 その言葉に驚きながらも、パルフェは言われるがまま職員カードを渡していた。遅れてやってくる妻と娘を背に感じながら、ただ首を捻ることしか出来ない。


「どうして、飛行機の予約が? 一体だれが」

「申し訳ございません、それをお話しすることは出来ません」


 困ったように、どこか楽しげに微笑みながら彼女は口の前に指を立てた。胸の内にモヤモヤとしたものが広がっていくのが判り、眉間にしわを寄せてしまう。

 それで彼女は、再度話すことは出来ないと言っただけだった。渋々指示に従うようにして搭乗口まで足を進めていく。


「あなた、これは一体……」

「解らない、ボクにも解らないんだ。今は流れに身を任せよう」


 不安そうに表情を歪めている妻と、心配そうに眉を寄せて見上げてくる娘の手を握りながらパルフェは深く息を吸い込んだ。


「モウェイル先生は何も心配しないでと言ったんだ、信じよう」


 妻を安心させるための言葉か、娘のためを思っての言葉か。

 それとも、自分に言い聞かせるための言葉だったのか。

 それは、パルフェにも解らない。




 ホイシュレッゲの空港についてみればすでにタクシーが手配されており、連れて行かれた先は病院で「検査入院は必要だが手術の体制はすでにできている、何も心配はいらない」と言われ、挙句に病院の傍のホテルにまで予約が入っていた。

 パルフェは流されるままに部屋に入ると、ベッドに倒れ込んでしまった。顔を向けてみればソファには、ぐったりと妻が座り込んでおり、彼女も同じようこちらに顔を向けている。


「あなた、本当に何が起きているの。今日あなたが帰ってきてから、一日も経たないうちにこんなことになって。あの子のためには良い事よ、それでもどうして誰も、何も教えてくれないの」

「ボクにも解ってないんだ……一体だれがこんなことをしてくれる。移動費だってそうだ。全部全部、すでに受け取っています、だよ。……手術費だって、バカにならない。少なくとも五千万はかかるって言われてたのに、それすらもすでに支払われているって」

「ぜひお礼を言いたいのに、伝えても伝えきれないほど感謝をしているのに。それを伝える相手がいないなんて、ひどいことだと思わない?」


 なにも解らないままに、三日後には娘の手術が行われる。


「……あぁ」

「どうしたの?」

「所長に、ちゃんと連絡をいれなくちゃ……。流石に、三日も四日も、勝手に遠征するわけにはいかないよ……」


 と、パルフェは重い体をベッドから引きはがし、ホテルのテラスに出た。

 部屋だけではなく、食事もついており、シャワーもこうしたテラスもついている、一見して高価だと思われるこのホテル。こんなところに実質無料で宿泊しているこの現状に、どこか気味の悪さも感じた。電話帳からフェネアンの携帯番号を探し出してタブレットを耳に当て、叱責を覚悟する。


『――つー、つー』


「あれ……」


 一発目に怒号が飛んでくるはずだと、怯えながら電話を掛けたのに、通話中になっており思わずテラスの手すりに身を預けるようへたり込んでしまった。よかったのか悪かったのか、とりあえず通話を切ってしまう。


「……いやいや、あの所長相手に、最初の電話に従えって言われたから。なんて反論は出来ないよ……」


 大の大人を片手で胸倉を掴み上げるような、正直に言うと恐ろしいあの所長フェネアン・アポートルにそんな生意気で意図を捻じ曲げるような事を言ってしまえば、今度は吊り上げられるだけでは済まないかもしれない。

 そう思うと早めに連絡を取りたかった。しばらく夜風に当たって、深呼吸をすると履歴から再び、電話をする。


「……また時間を空けてから、明日にでも電話をしてみよう……」


 ギリギリと胃が痛み始めているような気もしたが、それを無視するように部屋に戻った。妻はすでにベッドの中で眠りについており、自身も同じように潜る。


(もし何かあったら、所長からも連絡が来るはずだ)


 こうして自分に言い聞かせるのも、今日だけで一体何回目なのか。

 ため息を漏らし、瞼を閉じるのだった。

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