4-2
仕事を終えて家に戻れば、その日にやった仕事の内容、初めて聞く単語や意味の復習。他大陸に通信した時に言葉が気になったのだろう、そちらはリベレ研究所所長の権限を持って、他大陸で仲の良い所長、または知り合いに連絡を取った。
「彼らなら力になってくれるよ。研究所の通信室から連絡を取ってみて」
「さんきゅ……」
出張五日目の夜の事。サラダボウルを手前に引き、口いっぱいにモグモグしながらフェネアンは視線をグランに上げた。グランはそんな彼に笑みを漏らしながら、ミートパイを食べる。自分で作っておいてなんだが、いい味に仕上がったと満足そうに目を細めた。
「……なんでオレに構う」
ぶっきらぼうに言うも、それはグランを嫌っているようではなかった。野菜ばかりを食べ進める彼にパイを切り分けてやりながら、片眉を上げる。
「なぜって、きみが悪いんじゃないか」
「はぁ……?」
「きみが面白い子だから。少なくともボクの周りにはいなかったよ、他大陸の言葉を覚えようとした子は。それに、研究所のことを嫌っているのに……バンボルのことは好きなんだね、見ていればわかるし、嫌いだったら興味なんて持たないもの」
皿に乗せられたパイをフォークで突きながら、フェネアンはきつく眉を寄せて上目づかいにグランを睨んだ。その頭をクシャリと撫でてみると、無反応でフォークを口に運び水で流し込む。
「……明日も色々聞いていいか」
「もちろんだよ、いっぱい聞いて。……実は今の時点で、ボクはきみが欲しい。ボクの研究所にね」
口に含んでいたパイを吹き出し、咳き込んだのを、水を飲んで抑えようとしたためさらに咽て、テーブルに突っ伏して息を荒げた。グランは慌ててそんなフェネアンの後ろに回ると背を擦り、散らかったテーブルを拭く。
「だ、大丈夫?」
「ふざけんな! いいか、オレはサッサとこんな仕事、辞めたいんだ。親父が……親父だからって、無理矢理に入れられて抜けさせてもくれない、奴らはオレが名を使ってラクして入ったと思ってるらしいが真っ平ごめんだ! なのに、お前のところでも、研究所は研究所だろ! 行かねぇよ!」
顔を真っ赤にしながら怒鳴り、イスを倒さん勢いで立ち上がると、グランを見向きもせずに自身の部屋に飛び込んでしまった。一瞬呆けたが追って部屋のドアに駆け寄り、耳をつける。
「フェネアン! ごめん、気に障ったのなら謝るよ。ボクはアポートルの名はいらない、きみが面白い子だから、欲しいって。そう思ったんだ」
返事はなかった。グランは眉を寄せながら目を閉じるとドアに背をつけ、頭を抱え込むよう座り込む。
「……また明日、おやすみ」
それ以上、どう声を掛ければいいか解らず。グランは力なく立ち上がると一人テーブルの上を片付け、夜風に当たろうと外に向かうのだった。
「――随分と直球ですね!」
グランにとって、事細かに覚えていられるほど印象に残った日だったのだろう。トレートルはグランを見上げると、短く言った。彼はケラケラと楽しそうに笑いながら、そんな子供の頭に手を乗せる。
「研究所職員の子供だからって、職員になるとは限らないでしょ。ボクの子供も一般企業に勤めてるし。反対に、親の名が知られている職員だったら、親の衣を借りて実力もないのに威張る人もいる。それなのに……フェネアンは真っ向から研究所を嫌って、エトリックの名を忌み、それでも自分で頑張った。周りの人に文句を言わせないほどに、ね。だからボクは、彼が欲しいんだ」
大きな手が頭を撫でる感触に、トレートルは薄っすらと目を閉じた。モゾリと体を動かすと抱きなおされ、グランも再び口を開く。




