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フェネアンの家に着くとグランは迷うことなく、家の最奥にある部屋へ向かった。トレートルはその後を着いて行き、コトンと首をかしげる。
「ボク、そのお部屋、入ったことないです」
「あ、そうなの? ここはね、彼のお父さんの……エトリックの部屋だよ。まぁ今はボクがファルケに出張で来たときに、泊まらせてもらってる部屋になってるけど」
部屋の中はベッドが一つと、その脇に棚が、その上にスタンドライトが。そしてベッドの向かいの壁に、本棚と机があるだけの質素なものだった。グランはベッドに腰を降ろしトレートルを膝の上へ抱えあげると、白衣を机の上に放り投げ目を伏せる。
「初めてファルケに来たときもホテルの予約をキャンセルして、ここに泊まらせてもらったっけなぁ……」
「――え? フェネアン、きみの家……バンボルに関する道具が一式揃ってるの?」
「まぁ……。全部、親父のもんだけど、あいつもう死んだし」
ファルケ研究所所長に、外食に行くこと、文字が解らないので通訳代わりにフェネアンを連れだすことを話すと二人は街に出た。フェネアンが迷いなく屋台のホットドッグを買おうとしたのを慌てて止め、適当なレストランに入る。文字が判らないのはフェネアンに通訳をしてもらい、食事を始めたところだった。
「実質オレのもん、研究所の奴らも人の財産にまではグチャグチャ言えねぇし、言わせねぇ」
「……ねーぇ、フェネアン。ボクさ、ホテルの予約取り消してもいい?」
グランが言うと、フェネアンはパスタを口に運ぶ手を止めた。無表情で凝視してくる彼にグランは困ったよう眉を寄せ、頬を指の腹で掻く。
「出張の時間も、研究所の中で出来ることも時間は限られてるけど、さ。道具がそろってるんなら、持って帰ってきて出来るじゃない? ダメ?」
小首を傾げながら言うと、フェネアンはぎこちなくパスタを口に突っ込み、モグモグと頬を動かして飲み込んだ。視線を逸らしている彼に、無理な要望だったかなとグランはわずかに目を伏せる。
「……解った。親父の部屋なら少しも触ってねぇから、たぶん使える。ただし他は超散らかってる」
「本当に! ありがとう、じゃあ一週間、よろしくね。その代り食事は全部ボクが受け持つよ、ホットドッグばかり食べてちゃあ体に悪いよ!」
笑うグランに苦い表情を浮かべ。フェネアンは無言のままに皿の上を綺麗にしていくのだった。
グランはフェネアンの家に自身の荷物を運び、散らかり放題散らかっている家の中を、家主である彼の同意を得て一緒に片付けた。インスタント食品のゴミが目立っており、いよいよフェネアンの食生活が心配になったグランは出張中、外食をせずに手料理を彼に食べさせることを決めた。
それからエトリックの部屋の家具を、自分が使いやすいよう設置し直し、二人は再び研究所へ向かった。
グランは所長に会うなり、「この子を一週間貸してほしい」と、フェネアンを自身の連れにすることを頼んだ。所長は怪訝な表情をしながらもそれを了承し、何の相談もなく勝手に決められたフェネアンは目を丸くしたまま、グランを凝視する。
出かけるとき、仕事をするとき、指導をするとき。グランは常にフェネアンを傍に置き、彼が興味を示した物は何でもさせた。
ファルケでインカムを使用せずにグランと会話が出来たのはフェネアンだけであり、他の職員も「扱いにくい奴を引き受けてくれて助かった」程度にしか思っていないのだろうことは、彼らの顔を見れば解る。フェネアンもまた、そんな彼らの表情に、舌打ちを漏らすことが多々あった。




