2-3
真顔で言うシャルに、フェネアンも簡潔に返した。眼鏡にそっと触れながら立ち上がると、煙草を指に挟んだまま席に腰を降ろし資料へ目を落とす。
「お前、技術部は畑だろうが」
「今の話の流れだと、人体構造に食い込みますけど? 医療分野に入っちゃいますけど?」
「仕方ねぇだろ。レンズを仕込まれてるのがバンボルじゃなくて人間なんだから。……ほら、セントラルの依頼の奴だ、お前も目を通しておけよ。オレ宛になんかあったら頼む、オレはちょっとプログラミング室にこもる」
軽く背伸びをし、あくびを漏らすとフェネアンは机の上にあった書類をシャルの
前に放った。自身はグランから受け取った書類を手に扉へ向かう。
「お、おい! セントラルからの依頼って、これ、企画書……」
「向こうにチェックを頼んだんだよ、オレが持ってるのは合同の奴。……トレと同じようなプログラムが、必要なんだと。介護用バンボルだしな、所持者との人為的なコミュニケーションがいるんだろ」
言うと、トレートルはフェネアンを見上げたままコトンと首を傾げた。それからチップが入っている額の辺りをペタペタと叩き、再びフェネアンを見上げる。
「人工頭脳、まぁお前ほど高度なものにはしないけどよ」
「人工頭脳……でも、どうして、こうどなものにしないんですか?」
トレートルの素直な疑問に、フェネアンはどこか苦い表情になった。それでもまっすぐに自分を見上げる瞳から逃げようとせず、彼の前まで歩くと視線を合わせるよう座り込む。
「まず第一に、今の電子チップでは容量が足りないから外部コンピュータを使うことになる、それだと台数はあまり置けないから、お前ほどの人工頭脳は、現時点ではほぼ無理だ」
「ボクのチップはセントラルのちゅーおーのコンピュータにデータを送って、向こうに記憶させてるんですよね。それで必要なじょーほーを、必要な時にボクに送ってくれる」
「そう、お前の場合中央管理室にある、バンボルを初期化させたときにお前が使ったあのコンピュータ。あれがオレ達人間でいう脳にあたる、研究所のお偉いさん方は人工頭脳の技術、研究を一切する気はなかったらしく、オレ達もそんなもの頭の隅にすらなかった。だから研究は全く足りてないし、ご丁寧にお前の生み親も情報を残してなかったしな」
簡単な説明に、トレートルとシャルは、コクコクとうなずいた。フェネアンはそんなトレートルの頭をポンポンと叩いて腰を上げる。
「第二に人工頭脳の悪用問題、野良ボルも知ってるだろ。連中がもし人工頭脳を持っていたら……自発的にウイルスを生み出し、電子チップへ干渉して人へ危害を与えないとも限らない。残念なことに、そんなことはないさ、とも言い切れない。人間が相手ならぶちのめせばいいが、バンボルならそうもいかねぇ。研究所の責任になる。そうなりゃオレは研究所を追われて万々歳だが、他の連中がなぁ」
気怠そうにぼやくと今度こそ資料を手にし、扉に向かった。フェネアンの足音が部屋から離れていくのを確認すると、シャルはトレートルを突いて笑う。
「それにあいつ、トレ君みたいな優秀なバンボルが増えるのがたぶんイヤなんだよ。半分以上は事実なんだろうけど」
その言葉にトレートルはどこか、照れくさそうに俯くと体を震わせたのだった。




