二部 プロローグ
腕を後ろで組んで胸を張り、口元に薄く笑みを浮かべる四十代の男性が、研究所の中を歩き回っていた。四角い眼鏡を指先でチョイと上げ、太い眉を軽く動かすと技術部の部屋に入る。
「あぁ、きみきみ。そこを組み立てるときにはこうした方がいい」
オイレ管轄の訛りで、馴れ馴れしく男性は言った。バンボルの組み立てをしていた短髪の男性はキョトンと振り返り、はぁ、と気の抜けた返答をする。眼鏡の男性はそんなこともお構いなしにバンボルを覗き込んで、やれやれと言わんばかりに首を振っていた。
「一体だれがこんな指示を出したんだ? 全くなってないじゃないか、このまま組み立ててしまえばこのバンボルは走ることが……」
「出来なくていいんだよ、そいつは」
低い声に、男性は眼鏡を上げると振り返った。前髪が一束チョコンと跳ね、こちらは小さめの丸眼鏡をツンと尖った鼻に乗せた……この大陸では珍しく背が高く、目つきの悪い男が咥え煙草をしながら立っている。
太腿ほどの長さがある白衣は裾が破れ、両手をポケットに突っこんでいる彼は舌打ちをし、ギロリと男性を見下ろした。
「そいつは近所の婆さんが所持しているバンボルだ、足腰が悪くなったらしくてな。そのバンボルとの歩幅が合わなくなってしまって調整をしてほしいとの依頼だ、走れなくなるのはそいつも了承済み。……クライアントの依頼書も碌々目を通してねぇ老害がシャシャッて口出すな」
吐き捨てるように言われたそれに、男性は頬の肉を震わせ顔面を赤く染めると男に詰め寄った。
「貴様、私はお前よりも目上なのだぞ! 口の利き方には気を付け」
「口バッカの無能はファルケにゃあいらねぇよ。オイレから異動してきた奴か? 使えなくて飛ばされたクチだろ」
「フェネアン所長! このバンボル、もうすぐ調整も終わりますよ」
短髪の男性に声を掛けられた男――フェネアンは男性を蹴飛ばすように脇へどかすと煙草を灰皿に入れ、バンボルを見た。口元を緩め、頭に手を置くと存分に撫でまわす。
「今年入って来た新人にしちゃあ上出来だ。じゃ、あとはミシーとノイに回してプログラムを確認してもらえ」
「はい!」
フェネアンに褒められ、満面の笑みを浮かべた新人君はそのバンボルを連れるとすぐに部屋を後にした。その背を見送り、先ほど蹴飛ばした男性を睨みつけるよう振り返る。
「うちは実力主義なんでな。……オイレでどの部のどの地位にいたかは知らねぇが、現時点でてめぇはあいつよりも、下。飛ばされた先の所長の顔くらい、把握しておけばどうだ?」
「フェネアンさーん! またお客さんですー」
タブレットが震え、煙草を指に挟みながら取ってみると、幼い声が響いた。フェネアンはため息をついて頭を掻き、再び煙草を咥える。
「おー、すぐ行く。トレ、客に茶を出しておいてくれ」
「はーい」
元気のいい子供の声にわずかに笑みを零しつつ。フェネアンは所長室に向かい、歩き始めた。




