00-1
――今日で、バンボルのウイルス騒ぎから、半年が過ぎようとしていた。
初期化をしたあの日、あの後一時間もしないうちに総務局長がセントラルへ戻り、拘束されていた職員一同から事情を話され、すぐに中央管理室へ駆けつけていた。
後に聞いた話しで、途中廊下で倒れていた副局長は即座に病院へ送られ全治三か月の診断を受けたらしいが、そんなことは知ったことではないとフェネアンは鼻で笑い飛ばす。
無表情で佇むトレートルと力なくうなだれているフェネアンの二人を連れ、他の職員たちと共に二人は事情聴取を受けた。だがトレートルは一切口を利くことなくフェネアンも威嚇をするばかりで話にならず、二人は一度ファルケに返されていた。
そしてそれから一か月ほど経った頃、話に収拾をつけた総務局長は副局長の「反乱」に加担した職員を洗い出した。それはセントラルの職員だけではなく、所長達が加わっている研究所もあったらしい。
彼らは総じて研究所を後にされ、現在は副所長が所長の地位に着いていた。
ファルケを後にしてセントラルに着くまでのフェネアンの所業は、バンボル騒ぎを収めるために行われた善意の元行われたものであるとされ、一切の罪に問われなかった。そして――
「よ! 所長!」
「………」
「そんな顔するなよ、事実だろ!」
副所長がおらず、所長が反乱に参加していたファルケ研究所では、最も適している者としてフェネアンが所長の地位につくことを総務局長から命じられていた。シャルに背を叩かれると振り返り、ギチリと眉を寄せて盛大に舌打ちをする。
「ファルケ、オイレ、シュランゲ、ランケ、ブルーメ、ヴィンデ……この六つの研究所は所長が入れ替えだ。畜生、今度こそ研究所からおさらば出来ると思ってりゃあ……」
「いや、そもそもお前、所長の素質あったし。研究部でも技術部でも、専門の奴らとタメ張れるくらいの腕は元々あったろうが」
「親父の七光って言われるのだけはごめんだからな、意地で覚えてしまった結果がこれだ。なんであそこまでメチャクチャやって、在留の挙句昇任になるのかねえ」
長いため息とともに煙草を咥え、火をつけた。シャルはフェネアンが手にしている資料の束へ視線を止めると目尻を下げる。
「顔色を死人にしながら車に乗ってセントラルまで往復して……収穫はあったのか?」
ピクリと、フェネアンの目元が痙攣した。だが口元にわずかに浮かんだ笑みを、シャルは見逃さない。
「あぁ……セントラル、中央管理室に入り放題、自身の所属研究所施設の設備が使い放題。と言う特権がなければ、金の山を積まれてもこの地位には着かなかったろうよ。……あのガキが最初なんて言ったか覚えてるか? おじさんが、セントラルで初期化が出来ると言っていた。と言ったよな」
シャルは首を傾げ、しばらく考えると、コクコクとうなずいた。フェネアンはクマが浮かぶ瞳で口の端を吊り上げると、手にする資料を軽く振る。
「あのガキが作られたのは今から約五十年前、ドールがまだ生まれて間もないころだ。……オレが見た製作者はどう考えても、ジジイと言った方が良かった。腰は直角に曲がって杖を突かねぇと体も支えられねぇほどの、ヨボヨボだぞ」




