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笑う男に自身のタブレットを突き付け、唇の端を痙攣させるよう、微かに笑った。フェネアンはそれをそのまま地面に落とし、害虫でも潰すよう躊躇いなく踏み砕く。
それに副局長は目を丸くし、彼の表情にフェネアンは低く喉を鳴らした。
「丁度いい、一度ぶっ壊れたのを修理して無理やり使ってたんだ、どうせ買い替えるんならいらねぇもんな。これで少なくとも、オレがこのタブレットで誰に連絡を取っていたかは分からないな?」
「つまらないことを……。いい、やれ!」
男の号令で、バンボルたちは一斉に向かって来た。フェネアンも同じように足を踏みだし、ドライバーを持つ手に力を込めて短く息を吐き出す。
「まともに向かう訳ねぇだろ、こんな数のバンボル!」
背後に追いやっていたトレートルの上着を鷲掴みにし、自分に向け伸ばされたバンボルたちの手を踏み台にし、フェネアンは跳ねた。その勢いを殺さず体を捻り、壁に足をつけると踏み込む。大柄の男が宙を身軽に舞う姿に、副局長もトレートルも、言葉を失っていた。
跳ねた後下を見てみると、廊下に立っていた時には把握できなかった後方のバンボルも確認できた。その数およそ三十、明らかに子供向けのバンボルもいるところから、副局長が彼らを操作しているのだろうと想像がつく。
鷲掴みにしていたトレートルを胸元に抱き寄せるとフェネアンは副所長の正面に降り立ち、体を起こすのももどかしいようにして彼へ突っ込んだ。まさかバンボルの群れをあっけなく避けて来るとは思いもしなかったのだろう、動けもしなかった副局長はフェネアンの突進をまともに受け、体を吹き飛ばされる。
「――こいつでこいつらのチップに干渉して、好き勝手に操っていたってわけだ」
体を起こしている副局長に向け、フェネアンは彼からスリ盗った小型のパネルをチラつかせた、それを軽く操作すると、再びこちらに向かってきていたバンボルたちの動きが止まる。トレートルを降ろし、立ち上がった副局長を睨みながらパネルを床に叩き付けた。
「ケンカ慣れしてねぇ奴が、やり慣れてるやつにケンカを売るのは止めておけよ……。なぜバンボルの全廃棄なんて無茶な命令を下した、話してもらおうか」
「不良の小僧が……。エトリックの息子かなんだか知らないが、それだけで総務局長に気に入られ、ファルケの正職員となりおって」
「別にしてくれって頼んだわけじゃねぇよ、つか不良時代にとっ捕まって二十でこの業界にぶち込まれてから何度辞表書いたと思ってんだ、散々突っ返しやがって。……ほら、オレが元不良だって知ってんだろ、おっさん。そんなに気は長くないぜ?」
トン、と。つま先で床を蹴った音が、やけに大きく響いた。副局長は憎らしげにフェネアンを睨みつけ、唇を震わせながらも重い口を開く。
「すでに世界では、バンボルが飽和している」




