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少し、短め
廊下を歩きながら頭にきつく抱きついて来るトレートルを見上げ、長いため息をついた。
「この騒ぎが終わったら……お前はおじさんのところに帰るのか」
「え?」
「あー、いや、なんでもねぇ」
なんとなく、フェネアンの表情が浮かなかった。ふと何かを思い出したかのようにタブレットを取りだし、発信履歴から最後の番号へ電話を掛ける。
「アン! 大丈夫かい、今どこに居るの!」
「よ。……今はセントラルの施設だ、ウイルス騒ぎの発端とか、何とかは落ち着いたら全部話すよ。研究所の答えは、どうだった?」
答えると、電話の向こうでホッと息を漏らす音が聞こえた。フェネアンは目を閉じ、彼の返答を静かに待つ。
「うん、ほぼ全ての研究所で……作業は終わったって。ランケ、ブルーメ、ヴィンデの三つは確認が取れなかったよ……」
「……そうか、サンキュ。ここまで来たんだ、もう止まらねぇ」
「きみだからそこまで行けたんだと思うよ。ボク達なら、途中で折れちゃう」
トレートルが無言で、髪の毛を引っ張っているが、それでもフェネアンは電話を切らなかった。肩を揺らして笑い、白衣の胸ポケットから煙草を取りだし唇で挟む。
「じゃあ、切るぜ。お客さんの相手をしてやらないとな」
「お客さん? フェネアン、まさか」
グランが何か言いかけたが、フェネアンは問答無用で電話を切った。トレートルを降ろし、煙草に火をつけると肺一杯に煙を満たす。背後にはニヤニヤと薄汚い笑みを浮かべている、フワフワしている金髪の、自分と背丈が変わらないほどの男が無数のバンボルを連れて立っていた。
「お前だったか。セントラルの指示に真っ向から逆らい、他研究所の所長まで脅しているのは。……さて、インカムはつけていないようだが、言葉は解るかな?」
「てめぇらみたいな所長クラスで他大陸の言葉が判らない方が、問題ありだと思うけどな。こんなに大量のバンボル連れてきてどうしようってんだ?」
冷笑しながら言うも、男性は余裕の表情を浮かべていた。フェネアンは工具箱からドライバーを取り出して両手に構え、トレートルを後ろに追いやる。
「こいつらは例のウイルスに感染させている奴らさ。……第一条件」
「人間に危害を与えない、を、か。感染させているとは……クズ野郎だな」
「安心しろ、お前が死んだ後にお前へ協力したものはみな洗い出し、研究所から追放してやるよ。……総務局長がいない間ここを任されているのはオレだからな」
要するに、副局長であるその男に向き合い。フェネアンは少々もったいないな、と思いつつも今吸っている煙草を捨て、新たに咥えるのだった。




