9-2
日が水平線から頭を見せ始めた頃に、小船は港へ泊まった。たとえ人が住みやすい環境に弄っているとしても、外まではそういかないらしく、歯の根が鳴りそうになるのを食いしばって堪える。他の職員も寒いのだろう、白衣をきつく体に巻き付けていた。即座に施設内へ入り、掌をこすり合わせて暖を取る。
「さみぃ……。てめぇらバッカ白衣着やがって……」
「お前がそんな恰好をしているからだろう。さぁ、歩け……」
「じゃあま、送迎ごくろうさん!」
フェネアンの背を押そうとした職員は首筋に衝撃を受け、そのまま床に倒れ込んだ。振り返っているフェネアンを見て他の二人は目を丸くし、腰を引く。
「貴様、どうして手錠が!」
「ぶわぁか! こんなもん、チッとバンボルの外身を作る技術知ってりゃあ、簡単に開錠できるだろうよ!」
自由にした両手を伸ばし、一足で近づくと彼らが走り出す前に首元を掴んだ。そのままの勢いで体を壁に叩き付け、口が裂けたような笑みを浮かべる。
「甘い甘い、砂糖を舐めた方がマシなくらいだ! 髪をすでに縛ってあるのになんでヘアゴムを手首に巻いているか考えなかったのか、単なる予備だと思ったのか? この中に針金仕込んでたんだよ」
一人の腹部に膝を乗せ、片手を空けるとフェネアンは器用に腰紐を解いた。手錠を持つと首を押さえている職員の体をひっくり返し、背をこちらに向けさせ、後ろ手に嵌める。
力ずくで座らせると膝で押さえていた職員から足を放し、そちらも背中合わせに座らせた。紐で硬く結わいつけ、残忍に笑う。
「足まで砕いてやってもいいが、まぁそこまでする必要もないだろ。……ここで、大人しく、出来るならな。一言でも発したら砕く」
そこに鬼がいた。二人は半分涙目になりながら激しく頷き、満足したのだろうフェネアンは二人から離れると自身のバッグに近寄る。迷いなく口を開けると、二人が声無い悲鳴を上げた気がした。
「ぷぅ!」
「トレ、大丈夫だったか」
「大丈夫です―。眠ってましたぁ」
ふにゃりと頬を緩ませて笑うトレートルに思わず、自身の頬も緩みかけた。だがそれを引き締め、バッグの中から引っ張り出す。同時に白衣に腕を通し、工具箱を上着の下に隠すよう入れると、彼を肩に座らせ職員へ顔を向けた。
「もっと良く考えろって。こんなところで爆弾なんざ、使ってみろ。このオレの尊い命まで散ってしまうだろうが! ハッタリだよ脳足りんども!」
「えー、でもフェネアンさんなら本当にしそうだー。って思われたってことです?」
キョトンとしながら発せられた言葉に、フェネアンは笑おうと開いた口を、苦々しく閉じた。廊下を歩きながら頬を掻いて視線をトレートルに上げる。
「お前、チクチク痛い所突くよな」
「………」
と、トレートルはフェネアンの頭を数回撫でると何かを捨てる動作をした。それにフェネアンはますます苦笑していく。
「痛いの痛いのトンデイケーじゃねぇっての。バカなことやってないで進むぞ」
「はーい」
ポンポンと肩に座らせる子供の背を叩き、長い廊下を奥へ向かうのだった。




