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リコルド  作者: 夢野 幸
一部 第九章 えー、でもフェネアンさんなら本当にしそうだー。って思われたってことです?
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9-1

 すっかり日が落ち、月が海面を照らし始めた頃にようやく船は止まった。今の時間まで自分の存在に気づかれなかったのは幸いだが、昼頃に入った無線ですでに、レザール港であの警備員の男が保護されたこと、この船に侵入者がいることは連絡されているのを耳にしている。


「より一層、厳しくなりそうだな……」


 フェネアンは普段と同じように髪を縛り、予備のヘアゴムを手首に巻いた。煙草の煙を燻らせ(くゆらせ)、険しい表情で星空を見上げる。

 ――グランにはああ言ったものの、セントラルのお偉いさん方の目から逃れられるとは思えなかった。いかに変装をしてみようも、ファルケの職員でこんな無茶をするのは正直に言ったところ自分だけである。そもそも眼鏡と瞳の色はどう足掻いても変えられないし、突然のことなので髪もこれ以上、弄ることも出来ない。

 唸っていると貨物船のそばに、小船が並列した。梯子が降りて小船の上から四苦八苦しながらいくつか影が昇ってくる。

「来たか……」

 煙草を灰皿にねじ込み、ズボンのポケットに手を突っ込むとフェネアンは船室へ向かった、トレートルが緊張した面持ちでベッドに腰を掛けており、苦笑すると荷物を抱える。


「……さて、一つハッタリをかましてやろうか。トレ、もう一度バッグの中に入っていてくれるか?」

「はい。フェネアンさん、大丈夫でしょうか?」

「そんなに心配するなよ。……セントラルの奴らの乗船だ、行くぜ」


 と、トレートルを再びバッグの中に入れて。フェネアンは相変わらず警備服のまま甲板へ向かうのだった。



 甲板にはすでに自分以外の警備服の人々が揃っているようで、フェネアンは荷物を足元に降ろすと同じように並んだ。先ほど梯子を上って来たのだろう三人の研究所職員は肩を静かに上下させつつ、彼らの前に立っている。


「知っていると思うが、レザール港から連絡があった。きみ達警備員の中に、不審者が紛れている。……一人一人所属している会社と名前を確認後、顔を見せてもらう」


 職員が持つ書類は恐らく、彼らが雇った警備会社の名簿だろう。乗船時の点検が甘かったのはそういうことかと小さく舌打ちする。

「では、端のきみから……」

――どちらにしろ気づかれるのは見えているのだから、わざわざ時間を無駄にしてやることはない。


「そんな面倒くさいこと、する必要ないだろ」


 ファルケ研究所管轄地方の訛りで、フェネアンはシレっと言ってのけた。職員たちが一斉にこちらへ顔を向けるのがどこか滑稽で、喉の奥から笑い声が漏れだす。

「……! その身長でファルケの訛り、お前……!」

「フェネアン・アポートル職員!」

 職員の二人が声を荒げた瞬間、周りの警備員たちは即座に腰に下げる銃を彼に着きつけていた。予想できていたのだろう、フェネアンはヘラヘラと笑いながら軽く両手を上げる。


「やれやれ……。セントラルまでもう一歩だったのになぁ」

「クク、安心しろ、アポートル職員。すぐにでもお前が行きたかった場所へ行けるさ、ただし……すぐに消えることになるがな」

「今は総務局長もいらっしゃらない、セントラルでお前を庇いたてする奴はいない……そいつを捕らえろ」


 恐らく自分と同じ大陸の出身者だろう、苦も無く通じる言語で背の低い男が笑った。号令に従うよう先頭にいた警備員がフェネアンの手首を取る。そのまま冷たいものがあてがわれ、カシャリと、重いブレスレットが嵌められた。腰には紐が結われ、両手のブレスレットをつなぐ鎖の中心にも紐が走る。

「セントラルに総務局長がいない? どういうことだ……おい、その荷物を手荒に扱わない方がいいぜ」

 自身の足元に置いたバッグを手に取ろうとした職員を、フェネアンはジロリと睨んだ。その長身から見下すようににらまれ、一瞬怯んだように見えたが、唇をゆがめて笑う。


「犯罪者の言うことなんか、一々聞いて」

「だからお前らは頭でっかちの脳無しなんだよ。……オレの悪行身勝手を、ファルケのハゲ所長から聞いてねぇのか? バンボル騒ぎのこの機に乗じて……面倒くせぇ仕事を押し付けてくるてめぇらをまとめて吹っ飛ばしてやろうと爆弾を仕込んで来たのさ」


 不敵にクツクツと笑うフェネアンに、荷物を取ろうとした職員の顔からスーッと血の気が引いた。他の二人も厳しい表情を浮かべていき、フェネアンは口を吊り上げて笑うと手錠を掛けられた手をジャラリと動かす。

「なに、強い衝撃を与えないこと、口を空けないこと。それさえ守れば勝手にドォン……なんてことにはならねぇから安心しろよ。時間の無駄だろ、サッサと連れて行け、セントラルに」

 と、フェネアンは両手を塞がれた不自由な体で甲板を歩き、降りている梯子に足を乗せた。腰から紐が届く範囲でしか伸ばせない手で梯子を掴み、下に降りていく。


「おい! もう一度言っておく、てめぇらその荷物手荒に扱ったらタダじゃすまねぇからな! さっさと来い!」


 気づけばすでに、フェネアンは小船に乗り込んでおり。三人の職員は慌てて彼の後を追うよう、梯子に手をかけるのだった。

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