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船内に入ると警備員には個室に部屋が割り当てられていたようで、迷うことなく部屋に入るとすぐにバッグを開いた。ピョコンと出てくるトレートルを簡易ベッドの上に座らせ、長いため息をつく。
「第一関門は突破、さっき会ったやつらとの会話で二日後にランケへたどり着くことも解ったからそこも心配はしない」
「他に、何か心配することがあるんですか?」
「もし万が一点呼なんてものが存在した場合、詰む。まぁ……出航前になかったくらいだから思ったよりも緩いのかもしれないが、な。あとはお前のことか」
「ボク、ですか?」
「二日間、部屋の中に缶詰めになる。大丈夫か?」
「はい。ボクは大丈夫です」
ニッコリと微笑み、頷くトレートルの頭を撫でるとフェネアンは立ち上がった。肩口に揺れる髪をうるさそうに手で払い、内ポケットへ手を運ぶ。
「もう少し船の中を見てくる」
「行ってらっしゃい」
手を振るトレートルに笑みを浮かべると、フェネアンは部屋を後にした。
船内をふらっと歩き回り、甲板に出るとフェネアンは煙草を咥えた。
「あの島はセントラルに近いだけあって厳しそうだな……。オレの指示が通ってるかどうか、そもそも協力してくれるかどうかも怪しい、か」
肺一杯に煙を吸い込み、船が掻き分けていく波しぶきへ視線を落とした。
(それに、アイデクセからランケまでこんなにデカい船で二日もかかるわけがない。これは途中でどこかに寄るか……だけどどこに? 小さい島なら一応ありはするが、この船はそっちにも物を配っているのか)
「なぁ、聞いたか。なんでもセントラルのお偉いさん方の命令で、一度海上で停泊して検査をするんだと」
「面倒くさいよな。挙句今まで作業に使ってたバンボルまでウイルス騒ぎのせいで研究所に回収されて、戻って来るのにも時間がかかるって話だし。おかげで普段よりも人数を駆り出されてるし」
背後からの会話に、フェネアンは耳を澄ませた。一応警備員のフリをしながら煙草をもみ消し、周囲を見回る恰好だけする。
「何でもそのウイルス騒ぎに検査が関係してるとか。なんか勝手にセントラルとは違う指示を出してるやつがいるみたいだぜ」
(まさしくオレのことですが)
苦笑いし、フェネアンは荷の陰に隠れた。乗組員二人はまだ、自分のことに気づいていない。
「そいつメチャクチャな奴らしくてさ、どうやらファルケの奴らしいんだが……。所長は脅すわ研究所に乗り込むわ、人を殴るのにためらいもないとか」
「素手でバンボルもぶち壊すんだろ。本当に同じ人間かよ」
好き勝手に言っている乗組員たちへ肩を震わせながらも、フェネアンは深呼吸をして会話へ集中した。
「セントラルの奴らはそいつのことを危険視してるみたいで、こういう船なんかに紛れてないか検査してるって」
「どうするよ。この船に居たら?」
「怖くて夜も眠れねぇや! 勘弁願いたいね」
「本当だよ」
冗談めかして笑いながら船室へ戻る彼らに、フェネアンは長いため息をついた。再び煙草を口に咥えると眉間一杯にシワを寄せ、忌々しそうに唸る。
「どうするか……。セントラルの連中が来たら一発で終わるな」
背格好だけで見るならば、ファルケの人間だと気づかれない自信は十二分にあった。だがそこで、セントラルの人間が来るとなれば話は別である。いくら自分が研究所の末端にいる人間だとしても、彼らが研究所の職員である限り気づくだろう。
「あのクソ親父、無駄に顔だけは広かったから……。野郎、帰ったら墓に花の代わりに煙草一箱埋め込んでやる」
とりあえず今はどうすることも出来ず、二本目の煙草を満喫し終えるとフェネアンは部屋へ戻るのだった。




