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カラカラと楽しそうに笑っているフェネアンを、ジャケットを羽織った警備員は恨めしそうに睨みつけた。タブレットの向こうで、シャルが地面に膝から崩れ落ちているのが見える気がするが、それも一切気にしない。
「てぇことで心配すんな。……ランケに着いたらこっちから連絡する、バンボルの様子は、ハゲは?」
「バンボルは、ほぼ問題ないよ。所長はまだ文句垂れて作業の妨害なんかもしてくるけど……お前が蹴飛ばした新人君は中々出来る子だぞ、一緒に入って来た子もな。所長に従うふりして仕事のあらゆることについて質問攻めにして、上手い具合に動きを止めてくれてるよ」
「マジで。今度詫びのついで何か奢ってやるか……お、サンキュトレ。じゃあもう少し向こうにいな、兄ちゃんはこっちに来い、電話はとりあえず切るぜ」
「あんまりヒデェことしてやるなよ……」
通話を切るとフェネアンは警備員の体を鉄箱に押し付け、両腕を取ると背後に回した。トレートルが拾ってきた糸を見て思わず苦笑し、見せつけるようゆっくりと解いて行く。
「カッカッカッカッカ……。恨むんなら、使い古した糸を捨てていった釣り人を恨むんだな。あのガキにはこれが何かわからなかったんだろうよ」
「この、極悪人が……」
「お褒めの言葉、あ、り、が、と、う」
手際よく両手首を結わいつけ、地面に膝をつけさせると両足首も同じようにした。もがこうとするも釣り糸がすぐに皮膚へ食い込み、指を痙攣させ諦めたように体から力を抜く。その間フェネアンはトレートルを呼び戻し、自身の荷物の中から白衣を引っ張り出す。それを引き裂き、丸めると警備員の口元に運んだ。彼は大人しく口を開き、再び白衣を裂くと布を吐き出せないようにして後頭部で縛る。
「さて……トレ、少し窮屈だろうが荷物の中に入っててくれるか」
「こ、この方はどうするんです……?」
「少しでも見つかりやすいところに捨てていくさ。……この格好、どうだ?」
「……見た目は似合うんですけど、やってることがおまわりさんを呼ばれても仕方がないです、フェネアンさん……」
「うるせぇ」
フェネアンはインカムを耳に着け、電源を落とした。髪を解くとタブレットと煙草を内ポケットにしまい、工具を念のため背の服の裏に隠す。着替えをその場に捨て、空間を作るとその中にトレートルを入れた。膝を抱え、背を精一杯丸くするとどうにかバッグの中に納まる。
「悪いな、船の中に入って落ち着いたら出してやる」
「はい」
「おーい、そんなところでなにしてんだ。そろそろ出航だ、早くこっちに来い」
遠くの方で、服を奪った男性とは別の言葉を話す警備員の声が響いた。フェネアンはバッグを抱えあげ、手を上げて応答する。
「じゃあな、頑張って見つけて貰えよ」
悔しそうに唸っている男性に向け冷たい笑みを送ると、フェネアンはそのまま船へ向かい歩き始めるのだった。




