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刹那、警備員の手から拳銃が宙を舞っており、一瞬呆けて動けずにいる彼の頭部へ払いあげた足をそのまま振り落とし地面を舐めさせる。伏している彼の背を踏みつけると腰を落とし、冷たい笑みを浮かべた。
「ダメだねー、こんな物騒なもんを人に向けてるからって、油断しちゃあよ。……ちぃっとケンカを知ってるやつなら、こんなもん、ビビらねぇって」
「貴様……」
「丁度いい、お前の服そのままもらうわ。都合よくサイズも良いくらいみてぇだし?」
と、警備員が着ている制服のサイズを確認しながら、フェネアンは蹴飛ばした拳銃に背を踏みつけていない方の足を伸ばした。短い時間とはいえ、全体重を背に掛けられた男性は息が詰まったような低いうめき声を上げたがそれを無視し、拳銃を自身のそばに運ぶと眺める。
「セントラルからの支給品かい。……上の方々はよっぽど、他人を中に入れたくないんだな。おい、てめぇで服を脱げ」
先ほど自身に向けられていた銃口を今度は持ち主に向け、フェネアンは喉の奥で笑った。トレートルに荷物を持ってもらい、一度この場を離れるよう指示する。
「何者だ、名は。何が目的で……」
「つべこべ言わずに服をよこせよ。このまま脳天ぶち抜いてから服を奪ってもいいんだぜ」
「サイレンサーも着いていない銃でそんなことをしてみろ、他の奴らが気づく」
「他の連中が来る前に服をはぎ取っててめぇを海にでも捨てりゃあ、不審者は海に飛び込んだぞーで誤魔化せる、どうせお前ら、互いの面なんか覚えてねぇだろ」
「なぜそう思う?」
「インカムだよ。同じ会社の連中ならわざわざ翻訳機なんかつける必要はねぇ、つまりだ。お前らはこのバンボルのウイルス騒ぎにより急きょかき集められた連中……ってわけ」
不敵な笑みに、彼は息を詰まらせると仕方なく服を脱ぎ始めた。それを確認しフェネアンはタブレットを操作する。――発信者は、シャルだった。
「とんでもねぇタイミングで電話を掛けてきやがる」
警備員から視線は外さず、引き金に置いた指の緊張も解くことはせずにフェネアンは折り返しの電話を掛けた。コール音が鳴らないうちにシャルの声が響き、タブレットを耳から離す。
「何だどうした」
「アン! 大変だ、セントラルだけならまだしもランケ行の船も止められてるぞ!」
「いやいや、その情報おせぇし。すでに知ってるしランケに行くあても出来てるし」
「は? どうやって行く気だよ。研究所職員は乗船出来ないようになって……」
「バーカ、他にもあるだろ、船が。……脱いだな、じゃあ今度はこれを羽織れ」
肩と顔でタブレットを挟み、片手で器用にジャケットを脱ぐとそれを放った。向こうの物陰からトレートルが怯えるようこちらを見ているのが見えているが、気にしない。
「トレ、適当に縄か紐がないか探してきてくれ」
「アン……電話越しに物騒な会話が聞こえてくるんだが、お前、あてって……?」
「無謀にもオレに銃を向けてきた警備員がいたから、そいつの服を奪い取る」
「こんの極悪犯罪者!」
「おいおい、凶悪から格上げかよ……」




