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アイデクセ研究所で十分に体を休めると、フェネアンはトレートルを連れ港に向かった。現在運航している船便を全てしらべ上げ、想像通りだと頭を掻く。
「クソッたれ……。セントラルだけならまだしも、ここからランケに行く船もほぼ止められてんのか、正規ルートでセントラルに向かうのは無理そうだな」
「せいきるーとの他に、行く方法はあるんですか?」
「……あぁ、まぁ、ありはする」
どこか詰まったような言い方をし、フェネアンはガムを口に入れた。視線は静かに、それでも確かに周囲を確認しており、乗船チケットの代わりに職員カードを見せて船乗り場の傍まで歩く。船便がセントラルによる抑圧で随分と減っているせいだろうか、人の姿はほとんどなかった。
「一つ目は船を借りて自力で行く、だがこれはオレが船の操縦免許を持ち合わせてないため却下。二つ目は船を持ってるやつに乗せてもらう。これはこれで船便がこの状況じゃあ、法外にボったくられるのが見えてるから絶対使わねぇ」
「じゃあ、どうするんです?」
「……三つ目、は。ランケ、ブルーメ、ヴィンデ。これらの研究所があるあの島に、客船の他にもう一つ……セントラルからの影響を受けず、定期的に出ている船がある」
フェネアンが微かに顔を傾け、トレートルもそちらへ目を運んだ。丁度船へ荷を積み込んでいるところらしく、荷物を持ち上げると気だるそうに息を漏らす。
「あれに、忍び込むこと」
白衣を荷物の中にねじ込み、代わりに購入した暗い茶色のジャケットを羽織り、フードを深くかぶるとトレートルと荷物を上着に隠すよう抱え込みながら、フェネアンは貨物船に向かい歩いた。鉄箱の陰に身を潜めながら、周囲を見回し舌打ちをする。
「思った以上に警備員の数が多いな……」
ランケへの便が抉り取られている関係もあるのだろう、貨物船への侵入防止に加え荷を守るためか警備員がそこいらをウロウロとしていた。フェネアンは何かないかと視線を足元に向け、傍に転がっている鉄パイプへ手を伸ばす。
「フェネアンさん」
「最悪の場合は強行突破だな……。警備員を一人ぶん殴って、服を奪えばいい」
「随分と乱暴ですね……」
悪びれる様子もなく言ってのけるフェネアンに、ジャケットの隙間から顔を出していたトレートルは乾いた笑いを上げた。そんな彼を再びジャケットの中に押し込み、立ち上がるために足へ力を込める。
その時だった。タブレットから音楽が流れたのは。
「ヤベッ……!」
「誰だ!」
その上に運悪く、すぐ近くに警備員がいたらしい。彼は立ち上がろうとした格好のままでいるフェネアンの額に向け、銃口を構えた。冷たい汗が背を伝うのを感じながら、フェネアンは視線だけを上げる。
「現在ランケ研究所管轄区へは無断で入ることを禁止している、挙句……貨物船へ潜入しようとしていたところを見ると、正当な理由ではなさそうだな。……立て」
物騒な得物を向けられていてはどうすることも出来ず、フェネアンは未だ鳴り響いているタブレットへの着信を無言でブチ切り指示に従った。抱えるトレートルと荷物を地面に落とし、軽く手を上げる。
「そのまま手を後頭部で組め、こんな小さな子まで巻き込んでいるなんて」
「へいへい……」
フェネアンはゆっくりと手を広げ、そのまま後頭部に掌を運びながら。
口の端を歪めた。




