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翌朝おじさんは目を覚まし、背伸びと共に馬車の荷台から降りた。昨夜車輪に寄りかかって眠っていたフェネアンの姿がなく、首をかしげると周囲を見回す。
「アポートルさん? どちらに?」
「あー。ここ、ここ」
道を少し戻ったところからフェネアンが現れ、おじさんは首をかしげていた。同時に目を覚ましたのだろうトレートルも首を傾げ、来た道とこれから行く道を交互に見ている。
「フェネアンさん、どうしたんですか?」
「いやぁ、案の定というかなんというか。ほら、今バンボル騒ぎで警察も官庁も忙しんじゃねえの? 乗じてクソ共が賑わってるわけよ」
揃ってますます首を傾けていく二人に苦笑しつつ、フェネアンは煙草を咥えた。火をつけると深く吸い込み、長く吐き出す。
「簡潔に言うと、夜中に物盗りが群がって来たので揃ってぶちのめして先ほど警察に押し付けてきました。ってところだ」
「……え?」
サラリと言うフェネアンにおじさんは目を点にし、トレートルは瞬かせた。それから恐る恐るフェネアンに近寄り、そっと手を伸ばす。肩に乗せてもらいながら瞼を震わせ、顔を覗き込んだ。
「えっと、フェネアンさん……みなさんはご無事でしょうか……?」
「あ? いってヒビが入ったくらいじゃねぇの。ほらおじさん、サッサと出ようぜ」
「え、あ、え? ど、どういうことです? この道はいつも使っている道で今まではそんなこと……」
「だーかーら、バンボルの大量ウイルス感染の処理で、今まで手が回ってた場所に穴が開いてるんだろ。ちょっとした不良連中の相手なんか出来ないってわけだ、この大陸は隣の研究所とのイザコザでますますだったろうし」
戸惑いを隠せないでいるおじさんをよそに、フェネアンは荷台に乗り込むと欠伸をかみ殺した。
「帰りはちょっと無理をしてでも、この道を戻ったところにあるホテルに泊まれよ、話はつけてあるから。レザールまで送ってくれる礼……には無粋かもしれないけど、すでに料金も払ってあるぜ」
「あああ……良く判りませんが、ありがとうございます」
先ほどフェネアンが発した『ヒビが入ったくらいだろう』という言葉には一切触れず、トレートルも苦々しい表情を浮かべたまま。涼しい顔をしているフェネアンの膝の上に治まっているのだった。
その後は無事に港へたどり着き、フェネアンはおじさんに軽く礼を言うとトレートルを肩に座らせて歩き始めた。向かう先はなんとなく察しがつき、トレートルは黙っている。
しばらく歩くとやはり研究所が見え、フェネアンは職員カードを当てて扉を開けた。研究所職員が緊張した面持ちで睨みつけるが、すぐに和らげると何かを叫び一人が走っていく。
「フェネアンさん?」
「所長でも呼びに行ったんだろ。今日はここで泊まらせてもらって、明日向こうの島に渡るぞ。……セントラルまですぐそこだ」
口調は軽く、表情は鋭く。フェネアンは研究所の奥から駆けてくる所長に向けて緩々と手を振るのだった。




