7-1
シュランゲ研究所でひと暴れして、早四日が経っていた。
思った以上に回収されたバンボルの数が多く、研究所だけに任せてしまえば再び廃棄作業を始めるかもしれないということでフェネアンも修復作業に参加していたのである。眠りそうな職員は叩き起こし、所長をこき使い、自身も寝ずにウイルスの消去と外身の修復を続けていた。
トレートルはシュランゲに着て早々自身を襲ってきた青年の家に預けており、思う存分煙草を吸いながら作業を進める。
三徹目にようやく全てのバンボルの修復作業、ウイルス消去を終え、彼らの耳にタコを作るほどに自身の指示を職員の頭に叩き込み、トレートルを迎えに家へたどり着いたのは真夜中だった。家族の言葉に甘えるよう風呂に入ると、そのまま眠ってしまいそうなのを気合いで乗り切り、借りた布団に倒れ込む。
そして、彼が目を覚ましたのは、翌日の夕方だった。
「アポートルさん、ありがとうございました」
「あ……?」
目の下いっぱいにクマを作っているフェネアンは、促されるままに軽食を取っていた。最中青年に深々と頭を下げられ、ぼうっとした瞳でどうにか彼に焦点を合わせる。
「ごめんなさい、あんなことして……。チーネを取り返してくれて本当にありがとうございます」
「ございます!」
元気な声に視線を落としてみると、彼の弟と真夜中に自分が抱えて帰ってきたバンボルも一緒に頭を下げていた。膝によじ登ってくるトレートルの体を支えてやりながらコーヒーに口をつけ、面倒くさそうに舌打ちをする。
「別にお前らのためじゃねぇよ。やり方が気に入らなかった、から潰しただけだ」
「でも、ボク達のバンボルを取り返してくれたのは本当です。その……ボク、とっても失礼なことをしちゃったのに……」
「こうして、宿借りて飯食わせてもらってんだ、チャラにしてやるよあんなもん。……世話になったな、明日にでもオレ達はここを出る」
「どこに行くんですか?」
「セントラル」
食べ終えた食器を片付けようとすると彼らの母親にヒョイと奪われ、フェネアンは持って行き場を無くした手で頬杖を着いた。眼鏡を軽く上げ、あくびを漏らし、テーブルに突っ伏す。
「この大陸からなら、アイデクセを出てランケから行くのが一番だろうな。思った以上に時間食っちまったが……」
「アイデクセ……? 四つ隣の町ですよね、あそこに港はありませんよ?」
「あー、地方の主都名じゃなくてな、研究所の管轄名なんだ。だから詳しく言えば、アイデクセ研究所管轄の、えぇっと……なんて言ったかな、レザールって港から、ランケ研究所管轄行への船が出ていたはずだ。オレ達職員は大体、研究所の管轄で地方を呼んでんだよ」
簡単に説明をしてやると、青年はコクコクとうなずいていた。それから少し考え、家の奥へ入っていく。
「父さーん! 確かさぁ、今度レザール港に行くって言ってなかったっけ? いつだったっけ?」
「明日行く予定だよー。いやぁ、アポートルさんのおかげで研究所間でのいざこざも落ち着いたみたいだし、無事に荷物を運べそうだ」
「……フェネアンさん、どうします?」
「車なら絶対乗らねぇ」
奥から聞こえる会話に、トレートルが訊ねるとフェネアンは即答した。二つの足音が聞こえ青年と父親が姿を現し、突っ伏しているフェネアンの前へ腰を降ろす。
「アポートルさん、レザール港へ行きたいんですって? 明日の朝、そちらへ向かいますよ。一日掛かりになりますが、よければ一緒に行きませんか?」
「一日掛かり? 車で行くのであれば半日もかからない距離だろ」
「うちは馬車で荷物を運ぶんですよ、いやぁ、前に車が壊れちゃって馬車で行ってみたら、大いに受けてしまいまして。また馬を連れてきてくれーなんて言われたら嬉しくて」
どこか照れたように言い、ほくほくと微笑みながら頭を掻いていた。フェネアンは体を起こすと胸元に手を運び、苦い表情を浮かべて頬杖を着く。膝に乗っているトレートルの頭をポフポフと叩き、胴体に腕を回すと立ち上がった。
「それじゃあ、好意に甘えさせてもらおうか。ガキ、お前は先に寝てろ」
「フェネアンさんはどうするんですかー?」
「ちょっと呑んでくる」
と、トレートルを下に降ろし、玄関から出て行ってしまった。玄関の方をキョトンと見つめる彼に青年は微笑み、体をヒョイと抱えあげる。
「じゃあ、トレ君は先におやすみしようか。アポートルさんと同じ部屋になるけど、いいかな?」
「はい、フェネアンさんと一緒に寝ます!」
元気よく上げられる腕に微笑み、トレートルを部屋に連れていくのだった。




