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警備員のほかに白が視界の隅に入り、フェネアンは咄嗟に白衣でトレートルごと体を覆った。直後にスプレーが噴射されるが、白衣を思い切りはためかせてまとわりつく煙を吹き飛ばす。周囲の警備員が目を両手で覆い、体を折っているところを見ると催涙スプレーの類だったのだろう、フェネアンはスプレーを持つ職員に向けダーツのようにドライバーを投げつけた。
刺さらないまでも職員をひるませることはでき、別方向から突き出される棒は背を反らして避けながらスプレー缶を持つ腕を蹴り上げる。背を反らせ、片足を振り上げた不自然な格好をしている隙だらけのフェネアンに向かって、警備員や職員が飛びかかった。
フェネアンは体制を立て直すことなく床に背から倒れると、トレートルを胸元に抱きかかえ、グッと背を丸めて体を揺籠のように揺らし両足を振り上げた。自身に飛びかかってきていた彼らは、各々頭部をぶつけながらフェネアンの足に蹴り上げられ、倒れ込む。
相手を叩き伏せている間も片手は常にトレートルを庇うようにし、出来るだけ衝撃が行かないよう重心は激しく動かさなかった。未だ鳴り響く警報ベルを背後に流しながら、フェネアンは警備員や職員たちを皆、床に突っ伏させてしまう。先ほど職員に向けて投げつけたドライバーは拾い上げてポケットにしまい、腰に手を当てカラカラと笑った。
「お前らみてぇな、ケンカも知らねぇ奴らに、オレがやられると思ってか」
「フェネアンさん、これからどうするんですか?」
「なぁに、警備員と職員相手にこんだけ暴れりゃあ……城の主が出てこないわけには、いかないよなぁ? シュランゲ研究所所長さんよ?」
研究所入り口正面、先ほどバンボルを運んでいるのが見えた廊下の向こうの人影にフェネアンは投げかけた。トレートルを降ろし、ポケットに手を突っ込むと扉を開けてこちらに近づいてくる彼に、自身も歩み寄る。
「お前が噂の狂犬か、ファルケの所長から話を聞くぞ」
「おっと、オレも有名になったもんだ」
「何をしに来た、ここはシュランゲ研究所、貴様の管轄とは違うぞ。傍若無人な振る舞いをしようものなら官庁への通報も躊躇わない」
「そいつぁ困った! 警察なら、町にバンボルが一体でもある限り、奴らの修理、プログラミングが出来るオレ達研究所職員に手出しは出来ないが、その上の組織となりゃあ話は別だ。このままじゃあブタ箱行きか。いやぁ弱った弱った……」
頭を掻き、すっかり短くなった煙草を片手で携帯灰皿に突っ込んで新しく咥えた。言葉とは裏腹に表情は余裕で、自身より頭一つ半ほど背の低いシュランゲ研究所所長を見据える。




