5-4
船乗り場を離れた直後だった、フェネアンは背後に近づいてきた人物に向けて鋭く蹴りを放ち、驚いているトレートルの体を支えながら荷物で殴りつけたのだ。あまりに突然の暴行にトレートルは呆然とし、フェネアンの頭にきつくしがみつくと目を閉じて震える。
「ふぇ、ふぇねあんさん……」
「よう、何のつもりだ兄ちゃん。てめぇ……今、右手に包丁持ってたよなぁ?」
船乗り場を出た正面には大きなガラスがはまっており、フェネアンはそれを指さしながら倒れる青年に向けて口角を上げた。青年は諦めたよう、隠している包丁をそこに出すと体を起こす。フェネアンを睨みつける瞳には怒りが浮かんでおり、悔しそうに拳を握っていた。
「普通、いきなり人をぶっ刺そうとするかね?」
「うるさい!」
「お? うるさいとは何だクソガキ」
上着の胸元を掴み、フェネアンは青年と自身の視線を合わせるように体を持ち上げた。ニヤニヤと口角を軽く上げたような笑みを浮かべている彼に青年はわずかに青ざめるも、ギッと睨みつける瞳だけは一切変えない。
「事情も判んねぇうちに刺されてやるほど、お人好しでもねえんでな」
「お……お前たち研究所の奴らは勝手にボク達のバンボル持って行った! あれは父さんと母さんが……ボク達兄弟のために頑張って買ってくれた大切なものなのに、返せ!」
顔を真っ赤にしながら叫ぶ青年に、フェネアンは息をつくと腕を降ろした。青年がキチンと地面に足をつけたことを確認すると手を離す。
「なるほどな……。おい、バンボルパクられたのはいつだ」
「はぁ?」
「ほう、オレの言葉が理解できなかったようだな。バンボルを、持っていかれたのは、いつかと聞いている」
再び胸倉を掴み上げられると思ったのか、青年はビクリと肩を跳ね慌ててフェネアンと距離を取った。背が高い彼を見上げ、唇を痙攣させながらも拳を握る。
「お前たちが知らないわけないだろ」
「知らねぇんだよ。オレはここの職員じゃねぇからな」
トレートルを肩に乗せたまま首を鳴らし、気怠そうに目を薄く閉じた。足元に転がる包丁を海の方へ蹴飛ばし、青年の両手首をひとまとめに掴むと歩き始める。
「な、なにを!」
「とりあえずてめぇの家に連れていけ。このままここで話してても埒が明かねぇし、時間も体力も無駄だろ。このまま体を担ぎ上げて案内させてもいいんだぞ」
言いながらすでに腰へ手を回そうとしているフェネアンに、青年は諦めたように項垂れると大人しく自身の家へ足を進め始めるのだった。




