5-2
今回は少し短めです。
「……フェネアンさーん」
「……あ?」
「みなさん、離れていきますよー」
「知るか」
「……おまわりさん、呼ばれちゃいますよー」
「そんなひでぇ面してるか?」
白衣のポケットに手を突っ込み、トレートルが傍にいるのも関係ないように煙草の煙を噴かせ、眉間一杯に眉を寄せているフェネアンの表情と雰囲気に町の人々は彼から確実に距離を取って歩いていた。もしトレートルの方がフェネアンの白衣を握っていなければ、本当に警官を呼ばれていたかもしれない。自身の指を眉間に押し付けて目尻をグッと引っ張ってみるも、機嫌が大層悪いのに表情が戻るはずもなく押し殺したように唸る。
昨晩、シャルとの通話中に不覚にも眠ってしまったことはなんとなく記憶にある。そしてふと目を覚まし、朝一発目から絶叫をしてしまったのだ。
フェネアンが野良ボルを連れて研究所まで戻ってきた手間への礼と、眠っている彼とトレートルを勝手に車に連れ込んでツィカーデまで送り届けた。だがそれが、フェネアンにとって逆鱗に触れるほどの物だったらしい、後部座席から腕を伸ばすとグランが運転しているのも構わずに彼の胸倉を掴み上げた。当然突然のそれに驚いたグランは車を急ブレーキで止め、その反動でトレートルが座席から転がり目を覚ます。
「次にこんなことをしたらぶち殺す」との厳しい言葉の元逃げるように車を降り、歩き始めたのがつい一時間ほど前の話だった。
「グランさんも、わるかったーって言ってましたし」
「解ってんだよ……あいつにゃあ悪気はねぇ、オレが勝手にブチ切れて勝手にあいつを罵倒しただけだ」
顔をしかめるように目を閉じ、荒々しく頭を掻くと長いため息をついた。別れ際に彼は、フェネアンに「怒鳴ったことを気にするな」と笑ってくれたが、はいそうですか。と切り替えも出来ず、凶悪な表情を浮かべる結果となっている。
「今日は早めに、どこかでお休みしますか?」
「いくらなんでも早いだろ、とりあえず港までは向かうぞ。時間が合えば船に乗り込むし、なければ合わせてどこかで休む」
「はーい。……とりあえず、フェネアンさん、笑いましょう?」
と、肩に座らせてと言わんばかりに手を伸ばしてくるトレートルに苦笑を漏らし、その体を片手で抱えあげると港へ向けて足を進めるのだった。




