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リベレ研究所本部を後にし、トレートルを肩に座らせたまま淡々と歩き続けたフェネアンだったが、幾分人の波が治まってくるころに彼を地面へ降ろした。伸ばしてくる手を緩く掴んでやり、もう片方はポケットに突っこんでやはり言葉もなく歩き続ける。
「フェネアンさん」
「なんだ」
「のらぼる、って何ですか?」
「あー……野良のバンボル、で野良ボルだ。どういったものかは、さっきグランが説明したから解るな……おう、あれだあれ」
道が荒くなり、周囲に建物よりも木々が目立ち始めた場所で、フェネアンが木陰にクイと顎をやった。人と同じ姿をしたものや動物のような容姿をしたもの、幻想生物の姿をしたものなど十体ほどが隠れるように二人を見ており、トレートルは静かにフェネアンの白衣の裏側に隠れる。
「おい、お前ら。サッサと近くの研究所に連れて行ってもらえ、今ウイルスが……」
男性の姿をしたバンボルが、先端を鋭く削った木の棒を問答無用で突き出してきた。フェネアンは咄嗟にそれを避け、トレートルの胴体に腕を回すと距離を取る。掠った頬からは血が流れており、手の甲で拭った。
「……とっくに感染されてたやつらかよ。何のつもりだ」
「オレ達は人間が嫌いだ」
彼が言うと、バンボルたちは口々に「嫌いだ」と言葉を綴った。見てみると彼らも体に隠すようにして凶器を持っているようで、舌打ち交じりに荷物を放りトレートルをその傍に座らせる。
「オレ達はただの機械じゃない」
「ただのプログラムの塊じゃない」
「ご主人、ボク達虐めた」
「傷つけた」
「人間キライ」
「お前みたいな研究所の職員、もっと嫌い」
ギラギラと瞳を光らせながら近寄ってくる彼らに、頭を掻くと白衣の内ポケットからドライバーを取り出した。プラスとマイナスを両手に一本ずつ持ち、白衣は怯えているトレートルにかけてやる。
始め見た時には気が付かなかったが、彼らの体には損傷があった。目のガラスにひびが入っているもの、人工皮膚が破れているもの、四肢の動きが鈍いもの。……恐らく彼らは元の主人に弄ばれ、捨てられたのだろう。そして主人が望む通りのプログラミングを施した自分たち研究者を憎むのだろうと予想つけた。
積もった恨みは、ウイルス感染と共に爆発する。
「とりあえずお前ら……チップを取ってウイルスを消去してやるよ、話はそれからだ」
少女型が振り上げる棒を足の甲で受け止め、そのまま振りぬくように足を上げると棒はあっけなく宙を舞って行った。ポカンとそれを目で追っている間に彼女の体を押さえつけると、チップが入っている箇所を探す。
(リベレの奴らは、確か……胸部!)
いくら彼女が暴れても体格差により、多少ひっかき傷は作れることは出来てもフェネアンの腕から逃げることは出来なかった。即座に胸部を開くとチップを取りだし、白衣の付近に放り投げる。手際の良さに彼らも警戒し、不用意に近寄らなかった。
「しょちょう?」
「りべれのしょちょうさん?」
「ちげぇよバカ。こちとらファルケのしがないプログラマーだ」
舌打ちをし、フェネアンは足を踏み出した。長身が進める一歩は小柄な彼らとの距離をあっという間に詰め、ドライバーで服を裂くと十秒もかからないうちにチップを取り外していく。取り外したチップは白衣の上に放り投げていき、トレートルがどこか表情を強張らせながらも白衣越しにチップを摘んで投げられた順番に並べていった。
「さて、残るは大人サイズが三体。……この小型連中とは違って、力押しは出来なさそうだな?」
「オレ達は人間が嫌いだ……邪魔をするなら許さない!」
と、最初に襲ってきた男性型が棒を薙ぎ払って来た。フェネアンはその軌道を、上体を反らせるように避けてドライバーを握り直す。
だが男性型は棒を持ち替え、間髪を入れずに再び棒を振るったのだ。




