幼い記憶ー魁ー
これは、幼い日の記憶。
草むらで俺は一人泣いていた。そこへ女の子が一人駆け寄って来た。
「甲斐君...甲斐二郎君......」
「別に泣いてねぇよ」
「でも......」
「うるさいなぁ、ほっといてくれ」
だが女の子は構わず、手拭いで俺の涙を拭った。
「やめろよ!! 」
「甲斐君の兄上が探していたよ」
女の子が二コリと微笑んだ。
「お前に俺の気持ちなんか分かんないんだよ!!あっちいけっ」
俺は手を振って女の子を追い払おうとした。だが、女の子はすかさず俺を抱きしめた。
「なにすんだよ、放っ」
「ごめん甲斐君。私慰め方わかんないや。でもね、こんな時はいっぱい泣いた方がいいってお婆ちゃんがいってた」
「俺は男だ。だから泣かない」
「泣きなよ、私の胸かしてあげるから」
「......」
「誰にも言わないから、約束するから」
「ううっ、父上...どうして、どうして死んだんだよ...うぇっく、どうして俺を置いて...うわぁぁぁぁぁぁ..ぁぁぁぁぁぁ...父上ぇ...」
俺は女の子の腕の中で泣き続けた。
「お婆ちゃんがね、人は泣いた分強くなれるって言ってた」
そう言って、女の子は俺の背中を撫でた。泣きじゃくる俺とは逆に女の子は陽だまりの様に微笑んでいた。その女の子の名は紅。