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第1章(3)


 バキッ


 その瞬間、右足付近から異様に嫌な音が俺の鼓膜に突き刺さった。こうなんか、プラスチックのものが踏まれて折れて壊れてしまったような――。


 恐る恐る、目線をその不気味な音がした右足にそらしてみると、


「うがあああああああああああ!」


 や、やっちまった。やっちまったよ、俺。

 不気味な音がした右足付近を見て、俺の目に入ったのは、ステッキの持つ腕の折れてしまっていたひとつのフィギュアだった。


 そのフィギュアは、ニコニコと哀愁漂う誠に小さな体をした美少女であり、そのステッキを持った腕が折れてもなお、そのニコニコとした哀愁漂う笑顔を変えずに転がっていた。

 その光景は、俺にとってとても恐ろしく不気味な光景であった。


 ハッと我に返った俺は、己のしてしまったことの重大さに改めて気づく。

 腕の折れてしまったフィギュア。勝手に部屋に入った。

 つまり、俺のしたことを日本の法律に基づいて簡潔にいうと、俺は勝手に妹の部屋に侵入した(不法侵入)。しかも、そこで妹の大切なフィギュアを損壊してしまった(器物破損)。


 ――や、やばいぞ。これは!


 不法侵入と器物破損の罪で牢獄行きになってしまう!

 助けて、神様、仏様、妹様!


 不測の事態にオドオドとパニックになっていると、部屋の外、つまり階段の方から恐ろしい足音が一歩、また一歩と近づいてくるのが聞こえた。


「や、やばいぞ。接着剤! プリーズ接着剤! どこ!」


 俺は必死で接着剤を探した。足の下、机の下、ベッドの下……。

 しかし、あるのは俺の踏み潰してしまったフィギュアの残骸のみ。

 もうどうしようもない。諦めた。直せない。ならば、残る道は一つのみ――


 ――隠蔽工作。



「どりゃああああ」


 俺は壊してしまったフィギュアの残骸を手に抱えて妹の部屋を出て自分の部屋へと逃げ帰ろうと扉から飛び出した。その時、


「きゃっ」


「うわっ」


 慌てて飛び出した俺は、足音の張本人らしき人物にぶつかってしまった。

 その光景は、俺の目にスローモーションのごとくゆっくりと見えた。

 正面衝突する俺と妹。その瞬間に俺の手の中から飛び出す、例のブツ――。

 ああ、終わった。その瞬間、俺の頭の中で人生終了のお知らせが鳴り響いた。


「いったあい――あ、あれ?」


「いてててて――お、終わった」


 そんな会話がほぼ同時に行われた。


「って、なんでお兄ちゃんがここに! しかも、あ、これ私のフィギュア。折れちゃってるじゃないのっ」


 みるみる妹の顔は真っ赤に変わり、眉間にしわがよった。ああ、怒らせてしまった。


「――うううっ」


 しかし、その怒りは言葉に出ずその代わり、妹は目から大量の涙を溢れさせていた。


「ぐすっ。わ、私のハルカちゃんがっ」


「す、すまん。美咲。俺、勝手に入っちまった上に、お前の大切なフィギュアを壊してしまって……。必ず弁償するから、な。本当にすまん」


 俺はその場で土下座で謝った。そうした方が良いように思われたからだ。

 しかし、美咲はさらに涙を流しながら「あ、あれはもう手に入らないんだもん。どうしてくれるのよっ! バカッ!」と言い残し自分の部屋へと急いで入り、ガタンと大きな音を立てて扉を強く閉めた。


「はあ……」


 俺は大きくため息をついた。だって、妹との約一年ぶりの会話がこれだぜ? まったく泣きたくなってくるぜ。ま、全部俺が悪いんだけどな。


                ◆


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